「今日のお茶は青いお茶なんだね。」

仕事を終えて帰ってくると彼女が淹れてくれる紅茶。(その他にも中国茶や抹茶等)
彼女と出会うまではあまり飲まなかったそれだが今は私の楽しみともなっている。






夜明けのティザーヌ







「今日は趣向を変えてハーブティーにしてみたんですけど、嫌でしたか?」

不安げに揺れる瞳に慌てて否定を示す。

「いいや、そんな事はないよ」
「それは良かった」

私の言葉に心から安心した様で陽の光の如く、明るい朗らかな笑みを見せる
私の一喜一憂に反応を示す可愛い私の恋人である。
ハーブティーと言えばその彼女が最近、熱中して育てていたハーブが思い出された。
何の為に育てているのかと思っていたがまさか私の為とは思わず嬉しくなって込上げてくる笑みを我慢できなくなる。
いつもと違い陶器のティーセットではなく、全て透明なガラスのティーセットを使っている。
たぶん、色を見せる為もあるのだろう。
これも考えてみれば最近まで家になかったものである。
きっと彼女が密かに購入して隠していたのだろう。
全く、本当に愛らしい事をしてくれる。

「それにしてもこの青はの瞳の様だね」
「有難う御座います。でも、このハーブティーは色が変わるのですよ」

楽しげにそう呟いた彼女に首を傾げて見るが彼女は、見ていれば判ります、と微笑むばかり。
言われた通り私はガラスのカップに注がれたハーブティーを見つめる。
すると、数分程すると紫陽花の様にカップの色は変わっていた。

「これは、見事だね」

鮮やかな青から紫へと変わるそれは夜明けへと変わる空の色にも似ていて、美しく鮮やかで。
まじまじと色の変わったティーカップを見つめる。
まるで手品で驚かされた子供の様に首を捻って。
すると、彼女は悪戯が成功したとでも言わんばかりに笑う。

「ふふ。ですが、まだ実は色が変わるんですよ?」
「そうなのかい?」
「ええ、見ていて下さい」

彼女はそう言って絞ったレモンの果汁を数滴カップに注いだ。
すると、先程まで紫色だったハーブティーは更に色を変え、柔らかな桃色へ。
まるで、私の髪の色の様な鮮やかな桃色に私は再び目を丸くした。
透き通るガラスのティーカップの中で輝く桃色のハーブティー。
御伽の国にでも彷徨ったかのようである。

「楽しんで頂けましたか?」
「これは驚いたよ。してやられてしまったね」

笑いを浮かべてティーカップを手に取り、色の変わるまるで魔法の様なハーブティーを口に含む。
優しい花の香りが鼻腔を擽り、心を落ち着かせていく。
クセのないその味わいに自然と美味しいと言う言葉を紡がせる。
彼女の愛情もまた美味しいと思わせるエッセンスの一つなのだろう。
私の言葉を聞いた彼女は肩を撫で下ろすとディスペンサーに入った蜂蜜をキッチンから持ってくる。

「蜂蜜を好みで入れても美味しく頂けるので、雷光さんにはぴったりのハーブティーだと思いまして本日お出ししたのです」

彼女のお勧め通り、蜂蜜を入れてみると先程よりさらにまろやかな飲み口に変わる。
蜂蜜が好きだと言う事とレモンの果汁を入れると私の髪色に変わるのとを踏まえてこれを選んだらしい彼女に私は完全に完敗な気分だ。

「本当に美味しいね。これは見た目にも美しくとても安らぐよ」
「それは良かったです。このハーブティーはマロウティーと言われる物ですが夜明けのティザーヌとも言われるのですよ」

ちなみにティザーヌはフランス語でハーブティーと言う意味です、と付け加えて彼女が説明する。
確かにあの色の変化は夜明けの空の色合いとそっくりであると言えるだろう。
納得出来る異名に感心する。

「見事な異名だね。しかし、私はこのハーブティーも美しく、綺麗で好きだが・・・」
「えっと、普段の方が良かったですか?」

言葉を不自然に切った私を不安に思ったらしく、彼女が首を傾げて問う。
私はそんな彼女を安心させる様に微笑んで指先でツンッと鼻の先を突っついた。
すると、彼女はきょとんとした表情を浮かべて瞳が零れ落ちそうになる程、大きく開く。

「そんな事はないよ。ただ、可愛らしく、愛らしい心遣いをするお前の方が好きだよと言っているんだよ」
「・・・そ、そんな大した事は・・・」
「それでも私はそう思ったんだよ」

有無を言わさず綺麗に弧を描いて微笑めばは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
私は残っていたハーブティーを飲み干すとの傍に寄り、彼女の手を取った。

「さて、。私にもっと可愛いお前を見せておくれ」

手の甲に口付けながら呟けば彼女は耳まで紅色に染め上げ、小さくこくんと首を縦に動かした。
それを見て微笑むとそっと膝裏に腕を通して彼女を横抱きにする。
歩みを進める前に髪越しに額に軽く口付けた。


夜明けを共に見よう。
(灼熱を感じた後は一緒に夜明けのティザーヌを楽しもうか)