お前がふと見せる表情がどれほど愛おしかったか。
お前と話したりする他愛もない事がどれほど幸せだったか。
お前は知っているのだろうか?






永遠など要らない、必要なのは君との今







お前は知っていたのだろう。
その身に宿る力を解放した時、どうなるかを。
応龍という強大な力の解放。
それはお前の肉体の消滅を意味していた。
なのに、最後まで微笑み私達を案じた。
何故、お前を失わねばならぬ?
私は、ただその念に囚われた。
前ならば白龍の逆鱗を使い過去の時空へと舞い戻ったであろう。
しかし、その逆鱗はいつの間にやらの手によりなくなっていた。
お前は全てを見通した瞳で全ての未来を見据え、自分の死すらも見据えていた。
自分の死すらそれが運命だと言わんばかりに享受した。
お前は一つ過ちを犯している。
お前の死がどれだけの者に悲しみを与えるかという事だ。
未だに八葉や神子たちは深い悲しみの中にいる。
無論、私もだ。

、何故その運命を選んだ・・・?」

死する運命を。
何故、頑なに選んだ?
知る術など存在しない。
だけど、知りたいと願う。
希う。
月光が眩い夜はそればかりを乞う。
他の者達と同じように涙を流せたならばまだ、楽だったのかも知れない。
しかし、泣く事など遠い昔に忘れてしまった。
そんな私は詰まる想いを抱きて獄中の中にいるよな日々を過ごしている。
夜な夜なそなたの名を苦痛に歪めた顔で呼ぶ。
掠れ消え入るような声で。

・・・・・・」

返事の返ってくるはずのないその名を呼び続ける。
そう、返事など帰ってくるはずもない名を。

「リズヴァーン。お前を苦しませるのは私なのか?」

ふと聞こえた声に私は驚き顔を上げる。
そこには月光に照らされるはっきりとした彼女の姿があった。

、なのか・・・?」
「ああ、間違いなくお前が知る私だ。温もりも確かにある」

互いに近づきあって縮めた距離は互いが手を伸ばせば届く範囲に。
が伸ばした指先は私の頬に触れる。
仄かに温かなそれは生きた人の温かさだった。
それを知れば止め処なく流れる流水のように想いが衝動が溢れ出した。
そして、気づけばこの腕にを閉じ込めていた。
もう、逃がさないように消さないようにと。

「本当に生きているのだな・・・ああ、これは奇跡なのか?」
「お前が、祈りを捧げたからだ。龍は人の切なる願いを叶える。
八葉はこの京を救った者達でもあった。だからこそ龍は願いを叶えた」

はそっと優しく微笑む。
まだ少女だというのにどこか大人びたその表情。
まるで大いな母なる女神のような笑み。
それが不思議なの魅力であった。

「リズヴァーンは特に願ってくれた私を。だから、私は戻ってこれた。・・・ありがとう」

礼を言われる事などない。
私の祈りは私の為のようなものだったのだから。
だけど、それを言葉にする余裕すら私にはなかった。
声を上げぬ私を不思議に思ったが私の顔を伺う。
すると、少し困ったように告げる。

「泣いているのか?リズヴァーン」
「私が・・・泣いているのか?」
「ああ、ほら、雫が・・・」

悲しくもないのに出る涙に戸惑っていると彼女は全てを知ったように笑う。
そして、慈しむように私の背に腕を回し撫でる。

「リズヴァーン。涙は嬉しいときにも出るものなのだ」
「嬉しい時にもか?」
「ああ、お前は時々酷く子供っぽくなるな。何も知らない無垢な子供のように。嬉しい時にも人は泣く」

困惑する私はただ驚きつつも止められない涙に戸惑う。

「私は・・・鬼だ」
「鬼といえど人だ。容姿が違うだけ。全くそのへんは頑固なんだからな。お前は」
「すまぬ」
「謝られてもなぁ。ふふ、リズヴァーン。もう、私は死なないよ。どうやら私が死ぬと皆悲しんでしまうらしいからな」
「当然であろう」

諌めるように手厳しく言うと
は苦笑しながら「すまない」と謝罪をする。
そして、私の手の甲にそっと口付けを落とす。

「何より私がお前の傍を離れたくないのだから」

その言葉に私は思った。
永遠など要らない。
必要なのはお前との今この時なのだと流れる雫と共に実感した。
限りあるこの瞬間だからこそ美しく強く光るのだと。
この世界がお前なしでは濁り澱んでしまうのだと。
きっとこの先、何を奪われようともこの腕の中にある温もりだけはきっと離さない。
喪失した時の慟哭はどこまでも深い深海のように冷たく寂しいものだと知っているから。
ただ、回す腕に力を込めてそっと告げた。

「私も離れたくなどない。もう二度と・・・・」



(永遠を与えると言われ様とも私は今を選び続けるであろう。愛おしいお前との今を。)