容赦なく降り注ぐ冷たい雨。
心に刺さる鋭い過去という名の棘。
そんなものを浄化して俺を癒してくれるそんな存在が今は傍らに居る。
カタルシス・シエル
「衛士さん。眠いんですか・・・?」
囁く声と触れる肌の心地よさ。
木々がそよぐ様に、小鳥が囀る様に、清水が流れる様に優しい響き。
陶器の様に、絹の様に、サテンの様に滑らかな肌触り。
瞳を閉じたまま聴覚と触覚だけに神経を集中させる。
「少し、だけな」
「最近、忙しかったですものね。良かったら私の事は気にせず眠って下さい」
膝の上に乗せている頭をそっと髪の流れに沿って撫ぜられる。
一定のリズムでさらさらと。
それがまた気持ち良くて程よい眠気を誘う。
こんなにも穏やかな気分になれるのは彼女と出逢ってからだ。
それまで過去の事が頭から離れず、どれだけの人が関わろうとも孤独の中を生きていた。
どうしようもない孤独は気力を悉く奪い、心が凍え壊れそうになった。
今はもうそれもない。
彼女の全てが俺の負を浄化する。
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
「ええ、おやすみなさい。衛士さん」
俺よりも年下なのにどこまでも俺を甘やかし包み込み癒す彼女は母性の様なものすら感じる。
それは彼女も同じ痛みを持っているからだろうか。
だからこそ彼女は俺の心の棘を抜き去り、その傷口を優しく抱いて癒していく。
「おやすみ。」
いつか、この傷が無くなり、雨が止んだら。
俺はきっと全てを彼女に与えるのだろう。
この身も心も全て。
そして、全てを懸けて彼女を守り、慈しみ、愛すのだろう。
永久に、この命ある限り。
灰色の空が水色の空に変わったら。
(永遠を誓おう。共に歩いていく事と愛し合っていく事を再確認して。)
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