それが愛なのかと問われれば。
それこそが愛なのだと答えるだろう。
迷う事無く、戸惑う事無く、躊躇う事無く。
在るがままに実直に告げるだろう。






狂い合いましょう、何処までも







あの人が血塗れになり、倒れた時も私は動揺する事無く冷静に対処した。
人は気丈だとか冷徹だとか色々言うけれど。
それでも私はあれ以外の反応を見せる事は無かっただろう。
何故かと問われればそれが普通だとしか言いようがないが。
入院をしている彼の元を訊ねる為、花束を手にした私はぼんやりそんな事を思う。
すると、丁度目の前に見知った人物が姿を見せた。

「あれ?笛吹さんじゃないですか」
「貴様は、あの桂木弥子の所の・・・」
「その言い方より素直に衛士さんの恋人だと言われたいのですが」

私と衛士さんの関係を知っている癖にわざとそういう言い方をするのだからと溜息を吐く。
たぶん敵視されてるのは笛吹さんより私が身長が高いからな気がしなくもないが。

「ふん。それより貴様も見舞いか?」

失礼極まりない事を考えているとそう問い掛けられたので私は素直に頷く。
すると、少し無言になった後。
笛吹さんは唐突に「一つ聞きたい事がある」と申し出た。
一体何だろうかと首を捻りつつも「構いませんよ」と答えると一呼吸置いた後。
ゆっくりとだが、はっきりと問いかけてきた。

。お前は何故笹塚が倒れた時、顔色一つ変えなかった?何故、落ち着いて居られた?」

問いかけられた言葉は本当に簡潔で一瞬目を見開く。
が、確かにこの人なら疑問に思うだろうと納得する。
何だかんだ言ったって衛士さんの事を大切に思ってる人だから。

「本当は愛がないからそんなに冷静で居られたんじゃないかって聞きたいんですね?」

私の言った事は間違っていなかったらしく笛吹さんは何も言わずに答えを待った。
そんな笛吹さんに私は満面の笑みを浮かべる。
私の様子に不可解そうに眉を顰めたが私は凛とした声で毅然と答えた。

「逆ですよ。愛があるからこそ動じなかったんです」
「何・・・?」

理解が出来ないと更に眉間の皺を不覚する笛吹さん。
そんな様子を気に留める事無く私は続けて告げる。

「如何なる事があろうとも私は彼を愛し続けれる。そりゃあ、衛士さんが死んでしまうのは嫌です。
だけど、私は彼が死して骸になってしまっても愛し続けられますから。きっとその愛の形を人は歪だというかもしれませんが」

そう、私は愛し続けれる。
彼が物言わぬ骸と化しても。
愛を語り、その骸と夜を明かす事だって躊躇う事はない。

「それに私が動揺しても仕方が無い事でしょう?なら、私は待つだけです。彼が生きるか死ぬかを」
・・・」
「もし、そこで死しても私はその亡骸を抱き、愛すだけです。生前と決して変わる事は無い」

驚愕を露にする笛吹さんにそう真剣な表情できっぱり告げると私は花束をしっかりと抱きかかえ直し、頭を軽く下げた。
そして、その笛吹さんの脇を擦り抜けて元来の目的を果たそうと歩き出した。

「歪だが・・・ある意味至上の愛だな」

そう、呟く声が微かに耳を掠めながら。
彼はある意味私と近しい考えを持っている。
だから、話したのだ。
彼はこの話を他の誰かにする事はないだろう。
私は、そう思い足を止めると扉をそっと叩いた。

「失礼します。お加減どうですか?衛士さん」
。悪いな。毎日」

申し訳なさそうな声を上げる衛士さんに微笑んで花瓶の花を変える。

「いいえ。私が好きでやっている事ですから気にしないで下さい。
それにしてもさっきまで笛吹さんがいらっしゃってたんですね。さっき廊下で会いました」
「ああ。口煩く色々言いに来てた」

その様子がすぐに想像出来て思わず笑いを漏らす。
衛士さんはうんざりだと言わんばかりに項垂れているが。
それでも嫌がっていない辺り二人とも似た者同士だと思う。

「笛吹さんも心配なんですよ。そんな大怪我をするから」
「それなら静かにして欲しいよ。全く。でも、にも心配を掛けちまったし、悪かったな」

謝罪の言葉だなんて似合わないなと思いながら「謝るぐらいなら早く治して下さい」と返す。
すると、少し苦笑を浮かべながら了解の意を述べた。
横のスツールに座るとそっとそんな衛士さんを見つめる。

「衛士さん。そういえば笛吹さんに色々質問されちゃいました」
「笛吹が・・・?何聞いたんだ?あいつ」
「本当に私が衛士さんを愛してるか心配してたみたいです」

その言葉に衛士さんは固まった後、溜息を吐いた。

「あいつは姑か」
「ふふ。友達思いのいい人じゃないですか」
「友達、ね。何か薄ら寒い」

複雑そうな表情を浮かべる衛士さんが面白くてクスクスと笑うと急に私の顔覗き込まれる。

「で?はなんて答えたの?」
「衛士さんが死んだとしても生前と変わらず愛し続けますよとお答えしました」

微かな狂気を瞳に宿らせて告げる私を見て一体衛士さんがどう思ったかは判らない。
だけど、そう答えた私の唇を自分のそれと重ね合わせて感じた温もりは同じ想いだと告げているようだった。



こんな狂人の愛を受け止めている貴方も狂人。
(まだ、怪我塞がりきってないんですからこれ以上は駄目ですよ?)
(なら、もう一度してもいいか?)(どうぞ。何度でも。)