「アナタはだぁれ?」

目の前の少女はそう問い掛けた。
周りは暗い闇。
無音の闇。
ココハドコダ?
オレハダレダ?






魂鎮女







「ここは・・・?」
「ここは魂の集まる場所」

辺りを見渡した俺が呟いた言葉に少女が答えた。
少女は紅い彼岸花が描かれた黒い着物を着ている。
顔には狐の面。
異様な姿をした少女を俺は見つめた。

「お前は誰だ・・?」
「私は魂鎮女の
「魂鎮女・・・?」

魂鎮女という聞き慣れぬ言葉を聞いた俺は思わず聞き返す。
すると少女は闇の奥を指差した。
そこには深い森があった。
先の見えぬ延々と続く森。

「あそこにいる魂を鎮めるのが私の役目。私は涅槃の森の番人。ねぇ?」
「?」
「アナタはだぁれ?」

は淡々と聞いた。
俺は答えようと口を開く。
だが・・・

「思い出せない・・・?」
「やっぱり・・・」

俺が俺であるという事は判るのに俺の名前が判らない。
それに俺は微かな恐怖を覚えた。
愕然としている俺の肩に静かに優しく微笑むの手が触れた。

「大丈夫・・・アナタは迷い込んだだけ。まだ、ここから出れる。
光の世界へ。私が返してあげる。だってアナタはここに来るには早すぎる」

すると少女は俺の手を握り歩き始めた。

「おいっ!」
「大丈夫だから。・・・アナタは金色の瞳をしている。
綺麗な日の光の色。あなたの髪は流れるような銀色。肌は綺麗な白磁。
もう一つの瞳の色は血のように濃い紅。それが貴方を構成する色。貴方自身の色」

その言葉と共に鏡が現れる。
対面しあった鏡が無限に姿を映し出す。
そして、鏡は道を作り出していた。
俺はその鏡を見つめた。
でも、俺の姿は右と左では瞳の色が違う。
一つは金色、一つは紅。
俺は不安になり少女をみつめる。

「違う瞳の色。でも、二つとも貴方。恐れなくてもいい貴方は貴方なのだから」
「俺は俺・・・?」
「そう、貴方の名前は・・・猿飛サスケ。貴方の大事な人がつけてくれた名前」

俺の大切な・・・
その言葉と共に大量の映像が脳内に流れる。
それに気づいたのか少女が柔らかく微笑んで繋いでいた手を離した。

「思い出せたでしょ?もう大丈夫・・・貴方は貴方の世界に戻りなさい」
「でも、そしたらは・・・」

この暗い森の中で一人。
むしろ今までこの孤独の中どうしていたのだろう?
そう思い彼女の手を再び引いた。

も一緒に行こう!!」
「サスケ・・・」

少女は一瞬驚き目を見開いた。
しかし、すぐに切なげな笑顔を浮かばせて首を横に振る。
そして、静かに手を離した。

「私は貴方とは行けないわ。私は魂鎮女。この涅槃の森の番人。
私が魂を鎮めないと世界は均衡を崩してしまう。だから貴方とはいけない」
「だけどそれじゃあお前は一人じゃねーか!!
孤独は・・・怖い。そんなお前をほっとくわけには・・・」

必死に訴えるとは俺の小指に自らの指を絡めた。

「じゃあ・・・約束。貴方が死を迎えた時、私の元に来て・・・
そして、この地の番人になって一緒に生きましょう・・・そうすれば私はこの先の孤独にも打ち勝てる」
・・・ああ、約束する」
「ありがとう・・・それじゃあ、それまでお別れ・・・さぁ、お戻りなさい」

その言葉と同時に眩い光が俺を包んだ。
目を覚ました時、俺は一人樹海の中に居た。
さっきのは夢だったのだろうかと辺りを見渡す。
そのとき、コツンという指先に何かが当たる感触を感じた。

「これは・・・」

その何かは狐の面。
あの時、少女がつけていたもの。

「約束・・・守るから」

そう呟くと俺は狐の面をつけ、その場を後にした。
遠くから「ありがとう」と聞こえたような気がした。
魂が彷徨う場所にいる魂鎮女の清らかな声が・・・