世界に響く音が全て俺を否定し責めているように思えていた。
そんなどうしようもないあの頃の俺はもういない。






美しい旋律の君







「志波くん。お疲れ様」
か。お前もお疲れ」

部活が終った後にタオルをもって走ってくる彼女の姿が視界に入った。
俺はすぐさま向き直った。

「はい。タオルとスポーツドリンク」
「ああ。サンキュ」

タオルとドリンクを受け取って一息つく。

「志波くん、最近めきめきと力つけていってるね」
「そうか?」
「うん!私、マネだし皆の練習よく観察してるからわかるよ」
「そうか。お前がそういうならそうなのかもな」

本当にそう思う。
彼女の洞察力は凄くて俺がこうやって野球部に戻るきっかけをくれたのも彼女だった。
俺の中で彼女の存在は何よりも大きくて偉大だ。
それが何故なのかはすぐわかった。
だけどはどこまでも鈍い。
俺も鋭いほうではないがこいつは本当に鈍い。

「そうだ。今度、合宿前にある花火大会一緒にいかないか?」
「うん!いいよ。というか私も誘おうと思ってたんだよね。気が合うね」
「だな」

でも、まあ、今はこうやって笑い合っているだけでもいいかもしれないと言う気もする。
ただ、この隙に誰かに横取りされるのは嫌だが。


「ん?何?」
「一緒に帰らないか?」
「んー喫茶店に寄ってお茶一緒にしてくれるならいいよ」

無邪気に笑いながら提案してくる彼女。
そんな提案を俺は断る術などない。

「わかった。今日は俺が奢ってやる」
「え!?いいの?」
「ああ。もマネの仕事、頑張ってるし」
「やった。じゃあ、早く着替えて行こうか?」
「だな」

彼女が傍に居るのが日常になってから俺の世界は変わった。
過去の事を引きずって全てを諦めたふりしていた俺はもういない。
否定されることを恐れ続けていた俺はもういない。
それを変えてくれたのは全て彼女だ。
ノイズだらけだった世界の音は今や全て美しい旋律だけ。
彼女の声が俺の世界の音。
彼女は今の俺にとっての全てなのだ。
だから・・・

「誰にも渡す気にはならない。俺が守りたい」
「ん?志波君何か言った?」
「いや、何も」

いつかこの想いを告げる時がくるまで俺は一番彼女に近い存在になりたい。
そう思った。



(いつか彼女の全ても俺になればいい。)