ただ、絶望を抱いていたあの日々とは違う。
今、生きていて隣に君が居て。
こんなに幸せだと思える幸福な日々。
それが僕の今なんだ。






薔薇色の世界








「どうかしたのか?シンク」

平穏な休日の午後。
本に目を走らせているに響いてきたシンクの声。
それはいつものようにどこか棘のある声色ではなく。
ただ、ひたすらに優しい声。
はそんなシンクが不思議で本をテーブルに置くと彼の座っているソファへと腰掛けた。

「いや、どうかしたわけじゃないけど」
「けど?」
「今、僕は幸せだと思ったんだ」

唐突に呟かれたその一言は少し小さくて恥ずかしげで。
でも、とても嬉しそうで幸せそうで。

は瞳を丸くしたがすぐ笑みを浮かべて答えた。

「そうか。シンクがそう思えるようになったのなら私も嬉しい」

彼女にとってシンクは愛しい恋人だ。
でも、それ以外に友でもあり、仲間でもあり、子でもある。
そう、恋人というものだけでは言い表せない。
全てを超越したような強い絆の関係が彼らにはあったのだ。

「な、何が喜んでるのさ!」
「仕方ないじゃないか。嬉しいのだから」

急に気恥ずかしくなったのかシンクは声を荒げてに突っかかる。
でも、にはそれが照れ隠しだとわかっていた。

「うるさいよ!全く、言わなきゃよかった」
「そんなツレない事を言うな。私たちの仲だろ?」

意地悪くそう告げるにシンクはもう一度声を荒げた。

「本当にうるさいよ!少し黙ってなよっ!」
「何を・・・んっ・・・」

に喋らせまいとシンクはの唇を自らの唇で塞いだ。
そして、深く深く口付ける。

「ん・・・ま、待て・・・ふっ・・・んんっ・・・・」

の制止の声など聞かずにシンクはキスを深める。
そして、が苦しいと胸を叩くとようやく解放した。

「ば、バカが・・・そんな行為で口を塞ぐな!!」
「ふん。そんな事で口を塞がれるが悪い」
「何を・・・!!」

はむきになって言い返そうとしたが言葉を切りふと考える。

「でも・・・ま、いいか」
「何さ?」
「いや、何か言い返そうと思ったけど」
「けど?」

彼女の言葉を待ってシンクはじっと見つめる。
すると、はシンクの頬に口付けた。
そして、意地の悪い笑みを浮かべて真っ赤なシンクに告げるのだ。

「私も幸せだと思ったから」



(この薔薇色の幸せの中、君という魂がこの世に芽吹き生まれた事に感謝した)