愛し方なんて知らない幼いあの頃。
僕らはたくさん傷つけ合った。
それでも、僕らは・・・






沢山のベーゼと愛を君に







様ぁ!」
「あら、貴鬼。どうしたのです?」

シオンの弟子であるムウの弟子の貴鬼が私の元に尋ねてきた。
度々、貴鬼は私の元を訪れては謎を聞きに来る。
今日もどうやらそうらしい。

様はシオン様とはいつも仲がいいみたいだけど喧嘩とかする?」
「そうね。昔はよくしたわね。今はそうでもないけれど」
「へぇ・・・なんで今は喧嘩しないの?」

興味深々で聞いてくる貴鬼に私は微笑ましいと思いながら頭を撫でてやった。
すると、貴鬼は嬉しげに笑いを浮かべた。

「昔は私たちも未熟でしたからね。今も未熟ですが昔よりはまだマシだからかしら?」
「そうなんだ〜でも仲がいいのが一番だよね!!」
「ええ、そうね。貴鬼もムウと喧嘩をせぬようにね?
そんな事を聞いてきたのはムウと喧嘩して仲直りの仕方がわからないからでしょう?」

貴鬼は見抜かれているとは思わなかったらしく驚いた声をあげた。

「な、なんでわかったの!?」
「うふふ。伊達に長生きしてませんからね。喧嘩をした時は誠意を持って謝ればちゃんと相手は許してくれますよ」
「うん・・・」
「さぁ、わかったならムウに謝ってきなさい」

再び頭を撫でて諭してやると貴鬼は決心したような表情を浮かべた。
そして、手を振りながら走り出した。

「ありがとう!!行ってくるよ!!様!!」
「ええ、いってらっしゃい」

手を振り返しながら仲直りをちゃんとするようにと思っていると背後から急に誰かに抱きしめられた。
私にこんな事をするのは聖域でも一人だけである。
その人物を想定して振り向きながら名前を呼んだ。

「シオン。聞いてらしたのね?」
「ああ。そなたの姿が見えたから話しかけようとしたのじゃが貴鬼が居たからのう。邪魔をしては悪いと思い後ろで見ておったのだ」
「そうでしたの。別に出てこられてもよかったのに」
「そうもいかんだろう。貴鬼はわしの前では緊張してしまうからのう」

寂しげなその一言には笑いを漏らした。

「ふふっ。それは滅多に話をしないからでしょう?
もっと話す機会を増やしてやりなさいな。そうすれば必ず自ずと心を開いてくれますよ」
「そうかのう。ならば今度からはそうするとしよう」

全くこの人は変なところが不器用なのだから。
まあ、そういうところも含めて愛おしいのだけれど。
私はそう思いながらまた笑いを漏らした。
すると、シオンは怪訝そうな表情を浮かべる。

「何を笑っておるのだ?」
「いえ、ただあまりに貴方が可愛いものですから」
「か、可愛い??」
「ええ」

素直にそういうとなんだか釈然としないと言った微妙な表情を浮かべるシオン。
それがまた可笑しくて私は笑いを浮かべる。
すると、シオンは私の唇に自らの唇を重ねた。

「ん・・・・」

小さく声を漏らすが何度も口付けを施される。
解放された頃には軽く息が切れていた。

「もう、いきなり過ぎです」
「そなたが笑いすぎるからじゃ」
「全く。貴方は昔から変わりませんね」
「そんなわしを好きなそなたも相当じゃ」

意地悪くそういうシオンに私は「そうかもしれません」と笑って答えた。

「でも、私たちも昔はよく喧嘩をいたしましたね。こんな些細な事で」
「そうじゃったのう。昔は不器用に生きていたからのう。昔に比べたら幾分は器用になったからかのう」

苦笑を交えて離すシオンに私も苦笑しながら答える。

「そうかもしれません。昔は本当に喧嘩をする度に何度も泣きましたから」
「そう、だったのか?」
「ええ。意地っ張りだったので表には出しませんでしたが必ず一人の時、泣いてましたから」

その言葉を聴いたシオンは気まずそうに頬を掻いた。
その仕草を見て私は「もう気にしてませんよ」と答えてやる。
すると幾分ほっと安堵したような表情を浮かべる。
私はそんなシオンに付け足すようにこう告げる。

「だって、私は貴方と喧嘩して傷ついてもやはり貴方しかいないのだと思い
貴方を想い続け貴方を選んだのですから・・・今更そのような事気にしてなどいません」
・・・わしもそなたが良いから幾度喧嘩してもそなたを選び愛してきたのだろうな」
「ええ。そうじゃなければ私は怒りますよ?」
「ああ。、ずっと傍に居てくれ。果てるまでずっと」

改めてそう告げるシオンの言葉に私は頬を染めながら目を丸くした。
しかし、すぐさま目を細めて優しく微笑するとこう言い直した。

「果てるまでではなく。永遠にですわ。果てた後もずっと一緒ですわ」
「そうか・・・そうだな」
「ええ」

そう言い合うと私たちはまた笑い合って口づけを交わした。
もう数え切れぬほど交わしてきた口付け。
しかし、二人にとっては今も昔も大切なものだ。
甘い甘美な幸せをくれる愛を確かめ合う行為だから。