漆黒の空に舞う純白を見上げて、白い吐息を漏らす。
冷える指先に息を吹き掛け、暖を取っていると背後から急に抱きすくめられた。

「こんな時間に何してんだ?風邪引くぞ」

一瞬驚くも耳元にすぐ響いてきた声に微笑を浮かべて身体を預けた。
口調は荒いけど、誰よりも優しく、誰よりも寂しがりやで誰よりも綺麗で純粋な人。

「大丈夫よ。静雄。こう見えて丈夫なのが取り柄だから」

そう、この降り注ぐ白雪の様な綺麗な人。






穢れなき純白








するりと彼の腕からすり抜けて、正面に向かい直す。
静雄は私の微笑みを見て溜息を吐くとぽんっと掌を頭に乗せた。
小さな子供の頭を撫でるみたいに優しく触れられたそれに心が温かくなる。
彼の温もりが優しく伝わって、彼の心配する優しい気持ちも同じように伝わってくるようなそんな優しい錯覚。

「ってか、マジでこんな所で何してんだよ?もう夜中の一時だぞ?」
「あら、それを言うなら静雄もでしょう?」
「まあ、そりゃあそうだが・・・ちょっと付き合いでな」

疲れきった様子でそう呟く静雄を見てくすりと笑う。
頭の上に乗っていた手を掴み、指を絡めると静雄の温い体温が私の手を温める。

「そう・・・私は特に用事もなく、散歩してただけよ」
「お前、相変わらずなその放浪癖止めろ。一応、女なんだから何があるかわからねぇだろ?」
「あら、心配してくれるの?」

茶化してそう聞き返すと静雄がむっと眉を寄せて、眉間に皺を作った。

「・・・・お前、本気で怒るぞ?」
「冗談よ。心配してくれてありがとう。そんな優しい静雄が私は好きよ」

恥ずかしげもなく言い切ると静雄は少し頬を染めて盛大に溜息を吐いた。

「はぁ・・・お前は相変わらず高校の時から変わらねぇな」
「人はそうそう変わらないものよ。ほら、臨也なんて特にそうじゃない?」
「あの野郎は悪化してるだろうが。っつーかあの野郎の話はすんな。腹が立つ」

握る手の力が強くなったのを感じて本当に相変わらず仲が悪いと心の中で苦笑する。

「それこそ相変わらずなんだから・・・そうだ。静雄。折角だし、私の家に来る?」

談笑をしながらそういえばこうやって話すのは久々だと思い、もう少し話していたいが為に静雄を誘う。
その言葉にぴたりと動きを止めると静雄は怒りとも呆れとも何とも言えぬ表情を浮かべた。

「・・・・本当に、お前は危機感を持て!」
「え?じゃあ、来ない?」
「行く。行くけど、他の男には絶対に今度からそういう事言うなよ。特に臨也の野郎にはな」
「よく解らないけれど、解ったわ。約束する」

私のその言葉に大きく頷くと静雄はきゅっと手を握り直して歩き出した。

「なら、さっさと行くぞ。風邪でも引いたら大変だろうが」
「ええ、行きましょう。でも、静雄ったら本当に心配性なんだから」
「当たり前だろうが・・・・」

呟かれたその言葉の続きはなく、不意に翳った視界に歩みを止めると唇に暖かい感触。
触れるか触れないかの感触が一つ、そして、その後すぐに強く押し当てられる熱。
視界に広がった金色が月光に照らされて光る。
キスをされているのだと気付いたのは少ししてから開かれた静雄の瞳と視線が交じり合った時だった。
少しだけ顔を離すと静雄は吐息の掛かる距離で紡ぐ。

「大切な、特別な女の事を心配しねぇ男なんて居ないだろうが」
「静雄・・・私は・・・」
「解ってる。お前がたった一人を愛さない事も。でも、俺がお前を特別だと思うのは別に構わないだろ」
「・・・そう、ね。ええ、そうよ」

切なく細められた瞳がまた乞うように近づいてくる。
私はそっと瞳を閉じてまた、それを受け入れた。
少し長めのキスをを終えた時、静雄は普段と変わらない態度に戻っていた。

「じゃあ、行くぞ。冷えてきた」
「ええ、家に着いたら暖かいココアでも入れてあげるわ」

だから、私も普段と変わらない態度で接する。
もう何年も続く曖昧な関係。
本当は醜い私を静雄の穢れのない純白で塗り直して欲しいとも少し思っている。
たった一人の特別を作らないという私の決意を揺るがすほどに静雄は真っ直ぐだから。
でも、私は私で彼を汚す事を良しとしない。
綺麗な貴方を汚してはいけないのだ。


互いを想いすれ違う歪んだ白と黒の物語
(静雄の手って大きいし、暖かい。冬場は傍に欲しい感じだわ)
(お前の手は小さくて冷たいからな。望めばいつでも来てやるよ)