「おーい。何、呆けてんのさ?」

皮肉めいた笑顔を浮かべた彼女の笑顔が眼前に迫っていたことに驚き、数歩下がった。
条件反射だ。
これもマフィアという性のせいか・・・

「お前こそそんなとこで何してんだぁ?」

俺もそれに便乗するように意地の悪い笑みを浮かべて相手を睨んだ。






額に押し当てられたのは拳銃と君の愛







「いやぁ・・・どこかのバカがヴァリアーを裏切ろうとしてるって聞いてねぇ・・・」

愛用のリボルバーに弾丸を瞬時に詰めると俺を鋭く射抜くように見た。
嗚呼、これがこいつに殺される奴の気持ちって奴か。
なんて、馬鹿げた事を思ったがそれは頭の片隅に置き、自分の刀を鞘から抜き対峙した。

「そうかよぉ・・・なぁ?。素直に通せぇ」

刀の切っ先でしっかりとを捕らえながら俺は押し切るようにそう言った。
あいつにこんな脅しが効くなんてこれっぽっちも思ってねぇ。
それでも、争いたくなかったからそう言った。
あいつにもこの言葉の意味がわかったのか一瞬だけその表情を悲しげに歪ませた。
本当になんでこうなっちまうのか・・・
どうも、俺たちは不器用らしい。
擦れ違いによって作られた小さな歪がいつしか大きく成長し、俺らを違う道へと導いた。
進んだ先がもう交わる事がないほど遠くへ。
一直線に自分のことしか見えねぇ俺たちの悪い癖がこうさせたんだろな。
今更、後悔なんて何の役に立ちゃしねぇ。

「それが出来ない事位、判ってんだろ!?スクアーロ。何でだよっ!あんたが何でヴァリアーを裏切る必要がある?」
「別に必要とかそういう問題じゃねぇだろ?」

そう、そういう問題じゃねぇんだよ。
ただ、進む道が違うかっただけなんだからよ。
それに
こんなところで・・・こんな殺し合いの場所でそんな私情を入れちゃいけねぇんだよ。
今の俺が言えた義理でもねぇがな。
俺だってただの他人なら話なんかする前にぶった斬ってる。
お前だからなんだよ。
どんなに道を外れようとも。
その先にお前がいなくても。
俺の気持ちとかそういうものは変わんなくて。
その想いだけはただソコにあって。
ったくめんどくせぇよな。
何故、お前に恋なんてしてしまったのだろうか。
何故、お前に愛なんて陳腐なもんを捧げちまったのか。

「スクアーロ・・・戻ってこいよっ!!」

悲痛な叫びなんて聞こえないフリをして
俺はの右肩から胸にかけてを刀で一閃した。
一瞬、目を見開いただったが。
そこはやはりヴァリアー。
寸前で体を逸らして決定的な致命傷を避けた。
微かに衣服を裂いて傷つけられた白い肌から赤い雫が染み出す。
それに触れては瞳を強く閉じて、顔を歪ませた後。
一瞬で殺意を秘めた表情へと変化した。

「本気で殺り合おうってことだな?」
「最初っからそうだって言ってんだろぉ?俺は今更、戻る気はねぇ」
「そう・・・なら、いいよ。私が殺してあげる」

その言葉と同時に瞬時に間合いを詰められて額に何かを押し当てられた。
それは冷たく重厚のあるもの。
の拳銃だった。
額に当てられた拳銃の感触にハッと笑いを浮かべてそのままを見下ろした。

「ハッ。俺もこれで終わりかよ」
「終わりだろうね」

瞳を一向に逸らそうとせずにそう言い合う俺たちの姿はあまりにも滑稽だった。

「ったくよぉ。なんで最後に逢っちまうかなぁ・・・」
「そんな事私に聞くなよ。・・・むしろこっちが聞きたいね。
なんで私に殺されそうになってんだよ。お前ならここから逃げ切る事だって可能だろうが」

それはまるで今この場から早く逃げてくれと言っているようだった。
本当にバカだよな。
殺し殺される立場にあるのにこんなに仲良く話しちまってさ。
後味が悪いぜ。
それもこれもお前を愛おしいと想うこの気持ちのせいだろうがよ。
ったく、厄介なもんだよなぁ。
これのせいで俺の人生が終わっちまうなんてよ。
でも、それもいいかもしれねぇなぁ・・・
俺がに殺されたらあいつはきっと永遠に俺を忘れず心に刻むだろう。
そうすれば俺はあいつの心の中で永遠に生き続ける。
陳腐な話だがそう切実に思った。

「なぁ?」
「何よ」
「何やってんだろうなぁ?まあ、俺がそれを聞いちまうのもどうかと思うけどよ。
本当ならこのままお前を瞬殺する事だって出来る。けど、どうもする気が起きねぇんだよな・・・」
「・・・・・」

俺がそう淡々と話し始めるとは聞き入るようにその話を聞いていた。

「なぁ?。さっさと俺を殺せ。そうすりゃあ、俺はお前ん中で一生生き続ける。
いいと思わねぇか?お前の中に永遠に刻みつけられ縛り拘束する。俺の完璧な望みの形だ」
「正気の沙汰じゃないね。・・・でも、それもいいかもしれないと思った私も相当なものかもしれないけどね」
「まあ、今更だがな」
「まあ、今更だけどね」

二人そろって笑みを浮かべて瞳を伏せた。
そして、次に瞳を開いた瞬間、二人の瞳には覚悟の炎が揺らめいていた。

「じゃあ、最後に言い残す事は?」
「そうだなぁ・・・お前の事愛してる」
「陳腐な台詞・・・」
「それでもいいんだよ。最後の俺の言葉だ。しっかり受け取れよ」

おどけてそういうとは少し歪んだ表情を浮かべる。

「・・・じゃあ、餞別・・・」

そういうとは俺へと顔を接近させてきた。
そして、気づいた時には互いの唇が重なりあっていた。
すぐさま離れたそれは互いを刻み込む儀式のようだった。

「愛してたよ。あんたの事」
「そうかよ」
「じゃあね。スクアーロ」
「ああ、地獄で待ってるぜ?」

静かにの手に力が籠められるのを感じ、それと同時俺は瞳を瞑った。
そして、静かに響き渡った銃声。
ガウンッ!という音と共に硝煙を上げて銃弾がスクアーロの額を貫いた。
ドサッと重い音が鳴り、地に平伏したスクアーロの亡骸を見ては膝をついた。
その頬には涙が伝っていた。

「アンタ・・・バカだよ・・・」

冷たくなっていくスクアーロの手を握りながらその亡骸を抱き、は涙を流した。
一生逃れられない鎖に縛られ、その場で泣き崩れた。



(お前に殺される事よりお前が俺を忘れる事の方が怖いんだぜ?)