目の前に居る女は何よりも美しかった。
絶世の美人、傾国の美女。
そんな言葉が似合いで愛おしいその女は唯一欠点があった。
「スクアーロ。私のお願いが聞けないの?」
美女の特権
「こ、断る」
お願いだなんて言いながら差し出されているのは一つの長いスプーン。
その上には白くふわりとした甘い香りが漂うクリームが乗っている。
差し出されている俺は視線を逸らして答える。
が、しかし、綺麗な唇で弧を描いていた女がその返答に満足する筈もなく。
机の下でがちゃりと重たい音が響き腹に何かが当てられる。
それは間違える筈も無いひやりとした感触の銃口。
周りは全く気付いていないが俺は今この平穏な場所で生と死を選ばなければならないらしい。
というかそもそも何故誰も気付かぬ内に散弾銃なんかをここに持ち込んだのだろうか。
理解できないが何でもありな目の前の女にその疑問は無意味だと思い知らされて捨てる。
それよりもだ。
早くこの状況を打開しなければ確実に俺の腹に風穴が開くだろう。
目の前の女は美人ではあるが確実に俺を殺れる実力を持った人物だ。
俺はごくりと息を呑んだ。
「さて、スクアーロ。ちゃんと食べてね?」
有無を言わさないその言葉に俺は漸く観念して彼女に青い顔色のまま告げた。
「食べる。食べるからその下の散弾銃を降ろせ。生きた心地がしねぇだろ」
「あら。ダメよ。スクアーロが食べるまでは降ろさないわ」
呆気なく却下された俺の申し出。
俺は若干涙目になりつつもさっさと解放されたい一心でそのスプーン乗っているクリームを口に含んだ。
所謂、恋人同士のあーん状態である。
正直言おう。
この上なく恥ずかしい。
何なんだこれは!?
新しい羞恥プレイか!?
そう訴えたくなるがにこにこと微笑む目の前の女に仕方が無いと諦めた。
「食べたぞ。」
「ええ。そうね。美味しい?」
「まあ、な」
素直に答えれば再びパフェグラスに突き刺さるスプーンはクリームを掬い、俺の目の前に差し出された。
意味が判らないその光景に思わず目が点になる。
「じゃあ、はい」
「・・・・は!?」
「美味しいならもう一口ね?勿論、食べてくれるでしょう?」
まだ押さえつけられていた銃口が当て直されて寒気が走る。
間違いなく断れば殺される。
周りから見れば妬ましいぐらいの恋人同時に見えるのだろうがテーブルの下は余りに血生臭い事になっている。
俺はだらだらと流れる冷汗と共に今度こそ完全に観念して自暴自棄気味にもう一口を口に含んだ。
それを楽しげに見つめるを見て喜ぶならまあいいかと思った俺は相当重症だと自覚した。
美女の特権と言うにはどうかと思うが美人が喜ぶならば仕方ない。
ましてそれが愛した女なら。
羞恥プレイでも何でもどうぞ?美しく愛おしい女王様。
(スクアーロったら可愛い。さあ、もう一口どうぞ。)
(・・・もう、勝手にしろ。)
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