大切な幼馴染達。
最近は羊君も入って四人に増えた何よりも大切な宝物。
何をしても楽しくて、何をしても嬉しくて、何をしても幸せで輝きを増す日常。
いつまでもこんな時間が続くのだと思っていた。
だけど、気付かされたんだ。
永遠なんてないのだという事を。
貴方に抱くこの感情が気付かせてしまったんだ。






淡色恋愛色








朝、学校にやってきて目に入った光景。
何気なくある普段と変わらない幼馴染達の姿。
だけど、私の胸は痛んでいた。
月子に向かって微笑む優しい錫也の顔。
錫也は私たち幼馴染の中でも月子には特別優しかった。
守ってあげたくなる女の子らしい女の子だからというのもあるのだと思う。
私はどちらかというと活発でサバサバしたタイプだし、月子とは対極だったから。
付き合ってはいないだろうけれど、きっと少なからず錫也は月子を特別に想っている。
私が、錫也を好きでいるように。

「あ!ちゃん!おはよう」
「うん、おはよう。月子。んー!今日も可愛いわねっ!」

そう言ってぎゅっと月子を背後から抱き締めると驚くも笑って、ちゃんの方が可愛いよ、と返してきた。
今日もこうやって私はまた嘘を一つ重ねるのだ。
いつもと変わらぬ何も悩み事のない活発な幼馴染。
それを演じて優しいふりをしてどろどろとした嫉妬の感情を隠す。
どこか後ろめたいその嘘にちくりと胸を痛ませながらも大切な親友を悲しませない様に嘘を塗る。
本当に親友の為なのか、それすらもう私にはわからないけれど、繰り返す。

「お前ら朝から元気だよなぁ。そうやって仲がいいのも相変わらずだしよ」
「むふ。哉太は羨ましいのよねぇ〜私が」
「哉太、厭らしい・・・・」
「ばっ!ちげーっつーの!しかも、羊!誰が厭らしいだと!?」
「ほら、またお前らはそうやって喧嘩する。そんな奴らは俺の弁当は抜きだな」

錫也が見事に二人を黙らせるとチャイムが鳴り響く。
そろそろ席に行こうと戻る途中に錫也に呼び止められた。


「何?」
「なんか、元気ない?」
「え・・・?」

予想してなかった指摘に私は思わず返答に詰まる。
いつも通りに振舞えていたと思ったのにまさか一番知られたくない本人に気付かれるとは。

「いや、俺の気のせいならいいけどさ。何かそんな感じがしたから・・・・」
「・・・気のせいよ。錫也は相変わらず心配性なんだから。ありがとうね」
「そう、か。まあ、元気ならいいんだ。でも、何かあったら言えよ?」
「うん。わかってる。ほら、錫也も席に戻らないと。じゃあね」

踵を返して一番後ろの窓側にある自分の席に向かった。
席について鞄を片付けると外をぼんやりと見る。
雲一つない空が青く輝いている。
私の心とはなんて対極な青空。
気付けば溜息が自然と口から漏れていた。
そんな姿を錫也が見ていたとも知らず。




◆   ◆   ◆





その日の放課後はそれぞれが用事があった為、別行動になっていた。
私は部活を終えて教室に忘れ物をした事に気付き、
一人取りに戻ってきたのだが何だか寮にすぐ帰る気にもなれずぼんやりと席に座って空を眺めていた。
赤い夕日が輝く空は切なく優しい。
夕日とはどうやら人を感傷的にさせるらしい。

「こんな感情を抱く前に戻れたら・・・」

思わずそんな言葉を漏らした時、教室の扉が音を立てて開かれる。

「錫也・・・」

立っていたのは少し怒ったような表情を浮かべた錫也だった。
その姿を見て、思わず椅子から立ち上がる。
錫也は何も言わずにこちらへと近づいてくると少し溜息を吐いた。

「こんな所に居たのか。やっぱり、何か悩んでるだろう?」
「別に、そんな事ないよ」
「なら、どうしてそんな泣きそうなんだ?」

指摘された言葉に思わず自分の頬に触れる。
そんな顔をしているつもりはなかった。
無意識にそんな表情を浮かべているのだとしたら私は相当重症なのだろう。
本当は泣いて縋りたい。
私だけを想って欲しいと、私だけを愛して欲しいと。
傲慢で貪欲でなんて憐れな私の願い。
叶わぬ願いだからこそより恋しい。

「そんなの言えないわ」
・・・」
「簡単に解決出来る問題じゃないの」
「だけど、いつまでもそうやって自分だけで抱えてて解決する問題なのか?」
「そんなの、するわけないじゃないっ!!」

限界だった。
心の許容範囲を超えた想いが溢れて止まらない。
その想いがまるで雫となって零れ落ちていくように涙も止まらない。
お願いだから聞かないで欲しかった。
驚く錫也の顔を見ながら制御の利かなくなった私が暴走し続ける。

「私だって、何度も諦めようと、捨てようと思った!皆でいる時間が大好きで堪らなかったから」
・・・」
「でも、それ以上に好きなのっ!錫也の事が、好きだからそれじゃあ満足出来なくなってきたのよ!」
「俺の、事が・・・?」

さっきよりも驚き目を見開く錫也の顔。
本当に全てを無くしてしまう。
これが一番恐れた結果だったのに。
様々な色がぶちまけられたみたいな頭の中で、絶望の色が広がる。
涙が更に溢れて止まらない。

「好きで、好きで・・・どうして、いいのか分からない。
月子の事だって嫌いじゃないのに、醜いぐらいに嫉妬してる・・・」

「助けてよ・・・すず・・!」

叫ぼうとした名は唐突に中断させられた。
何が起こったのか判らずに目を見開く私に最初に伝わってきたのは優しい温もり。
錫也の腕の温かな温もりだった。
そして、頭上から柔らかな声が響き渡る。

「ごめんな。。俺がもっとちゃんと気付いてやればよかったのに・・・」
「すず、や・・・」
「何も諦めなくて、捨てなくていい。お前はお前のままでいいよ。
だって、俺はそんなお前がずっと、ずっと昔から好きなんだからさ」

信じられなかった。
私はずっと月子の事が好きなのだと思っていたから私は思わず、本当に?、と呟いた。

「ああ。俺も、お前は哉太の事が好きなんだと思ってたんだけど、
まさか、互いに別の奴が好きだと思っていたとは思いもしなかった」

想像もしなかった言葉に私はきょとんと目を見開く。

「私が、哉太?確かに気は合ってたけど、悪友みたいなもので・・・」
「だから、お前も俺も互いに勘違い。まあ、俺も変な意地を張ってたのが悪いんだけどさ。
その、お前があんまりに哉太や最近は羊を構うからさ。つい、意地悪したくなって、月子よりは確かに優しくしてなかったしな」

少し頬を染めてそう言った錫也。
予想外の告白に私は瞬きを繰り返して、思わず無意識に錫也の頬を抓った。

「痛いっ!い、いきなり何するんだよ!」
「ご、ごめん。思わず夢かと思って・・・」
「普通、自分の頬を抓るだろう・・・全く、お前は昔からそういう抜けた所があるよな」

呆れたように言う錫也に思わず口を噤む。
すると、錫也はそんな私に対して微笑むとキスを一つ落とした。

「なっ!?」
「可愛い顔をしてるお前が悪い」
「か、関係ないでしょ!」
「いや、大いに関係ある。だって、何年越しの想いが通じたと思ってるんだ?
俺が我慢してきた全部をお前には受け止めて貰わないとな。そうだろう?」

にっこりと黒い笑みを浮かべられて私は思わず顔が引き攣る。

「やっぱり、錫也は私に優しくない・・・」
「そんな事ないよ。これからは猫可愛がりするつもりだから」
「そ、それはそれでどうなんだろう・・・」

複雑な表情を浮かべる私を見て錫也は声を上げて笑うと一呼吸して私に向き直った。

「改めていうのもなんだけどさ。俺、の事が好きだから俺と付き合って下さい」
「・・・私も錫也が好き。だから、宜しくお願いします」

改めてそう言い合うと互いに変な感じがして思わず笑いあった。
そして、静かにキスを交わした。
触れるだけの淡いキスを。


優しい月光のようなキスから始めよう。
(でも、そうか。がずっとあいつに嫉妬してたなんて俺って愛されてるんだなぁ)
(な、忘れてよ!)(忘れるわけないだろう?お前がそんなに俺を想っているて事なんだから)