この世界は醜いが故に美しい。
なんと皮肉な事だろう。
しかし、それが全ての真実なのだ。
そう、彼女は告げた。






燃え盛る炎に身を投じて







「人とは元来その炎に見せられて灯に飛び込む羽虫の様なものなのだろう」

唐突に告げられた彼女の独り言の様な言葉はどこまでも鮮烈な印象を与えた。
全てを第三者として見ているかのような彼女はどこか神秘めいていて。
俺達とは何かが違っていた。
そう、不透明で不確かな何かが俺たちとは違っていたのだ。

「シャルナーク。そうは思わないか?」

視線をこちらに向けていきなり尋ねられ、
俺は弄っていた携帯を落としかけて慌てて空中でキャッチする。
そして、バッと顔を上げて彼女を見つめる。

「俺には難し過ぎてよくはわからないな・・・」
「ふむ。ならばこう言えばわかるか?
人とは危険とわかっていてもその危険へと踏み込む。
禁忌だとしても死が待っていようとも。
刹那のその瞬間を大切にして一際魂の炎を強く燃やし死する。
まるで、死する事を知りながらその炎に身を投げる羽虫の様だと私は思うのだ」

どこか哲学的な言い回し。
彼女は常にこんな事を考えているのだろうかと思わず感服してしまう。
だが、先程の彼女の言葉は説明されてみればどこか的を射ていて。
それが真実であり、真理だとすら思ってしまった。
彼女の言葉にはそんな風に人を魅了する力がある。
人の心を掴んで離さぬような力が。

「確かに、そうかもしれないね。でも、だからこそいいんじゃないのかな。俺はそう思うけど」

俺の思ったままの感想に彼女は俺をじっと見つめる。
その居心地の悪さに「な、何?」と尋ねるが
彼女には聞こえていないのか答えは返ってこない。
暫く彼女はじっと俺を見つめた後、「ん」と声を上げて口を開いた。

「シャルナークは私とは違う考えを持っている。
だから話をしていても実に有意義だと思ってな。
私と違う視点から物事を見るシャルナークの考えはとても興味深い」
「そう、かな?」
「ああ」

驚くほどに綺麗な笑みを向けられて思わずドキリとする。
普段無表情な彼女がこうも笑うとは珍しい。
明日は雨か雪かといような問題だ。
しかし、彼女の笑みはとても美しく綺麗であった為、俺はただ魅了されてしまっていた。

「シャルナーク」
「え!?な、何!?」

急に名を呼ばれて驚き我に返ると彼女はもっと驚愕するような事を告げる。

「私は、シャルナークの為ならば羽虫の様に危険な炎の中へ身を投じても構わないぞ?」
「え・・・?」

一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
時が止まるような錯覚を覚えて真っ白な頭の中で言葉がじんわりと反復する。
そして、その言葉の意味を理解するや否や顔に熱が集中する。

「それって・・・!?」

俺が動揺しつつも聞き返すと彼女はふっと意地の悪い笑みを浮かべて立ち上がった。
そして、扉まで向かうと振り向いて告げた。

「さぁな?」

それだけ告げると彼女は足取りも軽くその場から立ち去ってしまった。
残された俺は椅子からは滑り落ち、顔はさきほどよりも熱くなり。
ただ、困惑するばかりで。
嗚呼、本当に・・・

「やられた・・・」

一人そう呟くしかなかった。



(醜くも美しい世界で灯に飛び居る羽虫の様に美しく燃えゆこうじゃないか。)

(俺も君の為にその炎に飛び込むから。)