「意外だよなぁ。尽八ってもっと恋人とは、
四六時中いちゃいちゃしていたいタイプだと思ってたよ」

藪から棒に新開からそう言われて俺はきょとんと目を丸くする。

「なんだ?急にそんな事を言ってくるなんて新開にしては珍しいではないか」
「そりゃあ、気にもなるだろう。うちの部の紅一点を射止めたんだからさ。なぁ、靖友」
「なんで俺に振るんだよォ!?俺は別に興味ねぇ!」

いきなり話を振られて、声を荒げる箱学の野獣に対し、
新開は特に気にするふりもなく、ほら、靖友も気になってるだろう、なんて言いながらこちらに向き直る。
荒北は反論しながら何か言っているがそれを放置して、質問された答えを俺は自分の中で探していた。






人はそれを「  」と知る







いや、答えを探していたとは不適当であろう。
人から見れば意外と言われるが俺にとってはこれが普通なのだ。
もちろん、周囲イメージと相反しているように感じられていることも正直気付いてはいた。
だが、俺からすれば逆に問いただしたい。

「まあ、お前たちが言わんとしている事もわからなくはないが何も触れ合う事ばかりが愛情表現ではないだろう?」
「・・・・・」
「・・・・・」

俺がそう言うとぴたりと新開と荒北が静かになる。
その表情は凄く真顔で驚いているようだったと同時にどこかお前が言うのかという言葉が聞こえてきそうなのだが。

「待て待て。俺は変な事は断じて何も言ってないが!?
何故だ。何故、そんな顔をする!?よく見たら福まで驚いているではないか!」
「・・・・む」
「いや、寿一の気持ちもわかる。俺も驚いたしな。いや、だって尽八が言うと信憑性が全くないしな」

さらりと毒を吐く新開に思わず、声に出せずにお前にだけは言われたくないと胸中で叫ぶ。

「大体、お前たちは俺に対しての認識が酷すぎないか!?」
「日頃の行ないじゃナァイ?」
「荒北、お前にだけは言われたくない!大体だなっ・・・!」

口喧嘩を始めようとする俺達の間に割って入る新開が更に質問を重ねた。

「まあまあ。それより話しに戻すけど、尽八って執着強そうだしさ。
俺のものだと解りやすくいちゃいちゃしたいタイプだと思ってたんだがな。ほら、ファンサービスも過多だし」

自身のファンへのサービスを思い返すがさほど過多という程でもないと思う。
だが、それとこれとはそもそも別だろう。
ファンはファンであって、恋人は恋人だ。
扱いが違うのは当然だ。
それに執着がなければ恋心を抱いているとは言えんだろう。
少なくとも俺の中で誰かに焦がれるということはそういうことだ。

「ファンへのサービスは普通だろう。まあ、執着というか独占欲は否定せんが好きな訳だしな」
「え、普通に気持ち悪いんデスケド」
「・・・・荒北、聞きたくないんならいっそ出て行けよっ!
大体そういうこと言っている奴に限って恋人出来ると人が変わるがな!」
「着替えてんだから仕方ねェーだろうがっ!それに、俺は変わらねぇーよォ!」

ジャージを指し示しながら怒鳴る荒北になら、聞かなければいいし、突っ込むなと言いたい。
が、これ以上言っていてもどうせ埒など開かぬだろう。
俺は自身のジャージの前を締め切ると面々に向き直る。

「文句を言うな!取りあえずだ!ファンではなく、は恋人だぞ?
接し方が違うのはあたり前だし、大切にしたいからこそ、過度に触れる訳がなかろう!!」

びしっと指さすと俺はそのまま外へと出た。
後ろで何かまだ言っている気が好きにすればいい。
そんな話よりも俺は見たいものがあるのだから。
外に出ると少し冷たくなりつつある風が髪を弄ぶ

「遅かったな。尽八」

先程まで噂となっていた彼女の姿を見て、自然と心の底から温かな気持ちで満たされる。

。ああ、少し話込んでいてな」

笑顔を浮かべれば、彼女はゆっくりと近づいてきて、
先程の風で髪についたのだろう葉を俺の髪からその華奢な指先で取り去る。
少し照れくさい気がしながらも、ありがとう、と返すと彼女は見上げたまま尋ねてきた。

「一体、そんなに何を話し込んでいたんだ?」
「大したことじゃないんだが俺が外でにベタベタしたりしないというのが意外だそうだ」

その言葉に彼女は少し無言になり、数秒後に溜息を吐いた。

「・・・女子か」
「・・・言われて見れば確かに」

運動部所属の男子高校生が女子レベルの恋バナしている姿だったかと思うと今更ながら少々気色が悪い。
つっこまれた言葉に返す言葉も見つからなかった。

「まあ、尽八のイメージから行くとそう思われても仕方ないんじゃないか?」
「なぬ!?」

心外な一言を言われて結構、大きな声を上げてしまう。

「ファンへの対応とか見てると軽いイメージあるから。
あ、落ち込むな。何も尽八に対して私が軽薄なイメージがあると思っているわけじゃない」
「本当か?ならいいが・・・流石に俺とてお前にそう思われていたらショックで立ち直れんぞ」
「それは日頃の行ないを見直せばいいだけじゃ・・・まあ、いいけど」

は何か言いたげにしていたがそれ以上言葉を続ける事はなかった。
まだ、部活が始まるまで暫くあるが彼女はバインダーを片手に部活の準備を進めている。
手伝おうかと最初の頃は言ったものの一人でやるほうが早いと言われてしまい、それ以降は静かにこうやって見守っている。
それは付き合う前も、付き合ってからも変わらない。
静かで落ち着いた、だけど、幸せな時間だ。
だが、今日は少しそわりと落ち着かない。
先程の話だがもちろん、俺は今のままでも充分幸せだ。
いちゃいちゃしたいなら二人っきりの時にすればいいし、触れずとも近くでこうやって過ごすだけでも幸せだ。
しかし、実際、彼女がどうなのかは考えた事もなかった。

「スキンシップか・・・」
「・・・何?まだ、悩んでたのか?」
「ん、あ、いや、すまんね。声に出ていたか?」

俺の問いに、こくりと頷く彼女の姿を見て苦笑する。
聞こえてしまったならば隠すのも変だし、考えこんだところでわかる話でもない。
あえてここは聞いてしまうかと腹を括った。

は、もっと普段からこう、スキンシップがあった方がいいのかと思ってな」
「・・・そうしたいのか?」
「俺は、今でも充分過ぎるほど幸せだ。隣にが居るだけで満たされる。
もちろん、触れてみたいという感情がない訳でもないが、それは二人っきりの時でもいい」

ただ、もし彼女が望むなら俺はそれに応えたい。
そう思ったのだがそこまでいうと彼女はふわりと柔らかな表情を浮かべた。
見惚れてしまうその笑みに呆けていると気付けば一瞬で自身の唇を奪われた。

「な、なっあああ!?」
「たまにならいいかも。スキンシップ。私も同じように隣に居られれば幸せだけど、その表情クセになりそう」

悪戯が成功した子供のように喜ぶ彼女を見て羞恥で顔が熱い。
ふるふると拳を震わせて、反撃に出てやると思った瞬間、今度はふざけた様子もなく彼女の形のいい唇が紡ぐ。

「周囲のことなんて気にしなくてもいいんじゃないか。私は今も幸せだよ」
「・・・ずるいではないか。そんな事を言われたら俺はさっきの悪戯も怒れないだろ」

不服そうに頬を膨らませるのは精一杯の抵抗だ。
だけど、すぐに俺もその唇を緩め、にっと満面の笑みを浮かべる。

「まあ、俺も幸せだからな。もちろん、このままもっと二人で幸せになるぞ!わはははっ!」

どんな時間も愛しく、幸せになるのが恋だ。
そして、その想いを何倍にも増やして、一緒に積み上げていくのが恋人だ。
恋は当人同士でするもので結局、そこにいる他人は傍観者である。
傍観者など気にせずとも俺達は俺達のまま幸せを積み上げていけばいい。
だって、恋は盲目なのだから。