あの頃の偶然は私たちの幸せに至る道







「貴文さん?何してるんですか?」

私はキッチンからリビングに向かうとソファに座り、一生懸命何かを眺めている愛おしい人に声を掛けた。
すぐさま、私に気づいた彼は優しい笑顔を浮かべ、手招きをした。
私の目に入ったのは貴文さんの手に収まっている高校の卒業アルバム。
ちなみに私の高校の卒業アルバムである。

「ちょっ!何見てるんですか!!」

顔を紅く染めて手を伸ばし、取り上げようとしたがすぐさまひょいとよけられた。

「おや?見られて困るんですか?」
「困ります!もう三年も前の物ですよ!?恥ずかしいに決まってるじゃないですか!」

私がそういうと彼は不思議そうな顔をした。
しかし、すぐさままた優しい笑顔を浮かべてこう言うのだった。

「いいじゃないですか。とっても可愛いですし。
それに僕は三年間、さんの担任をしている。今更、隠すこともないでしょう?」

そう首を傾げられると惚れた弱味というか反論できなくなる。
私は結局隣に腰を降ろすと一緒にそのアルバムに目を通すのだった。
私たちが会ったのはもう六年も前になる。
あの頃は私は新入生で、貴文さんは担任の先生。
まさか、こんな風な関係になるなんて思いもしていなかった。
かっこいい先生だなっと言うのが私の第一印象。
でも、それがまさか恋愛に発展するなんて想像もつかなくて。
きっとあの時のキスがなければ私たちはこんな風にはなっていなかったのかも。
その時、ふと疑問に思った事を質問した。

「ねぇ?貴文さん。そういえば貴文さんは私の第一印象どんな感じだったの?」

私の質問に貴文さんは「そうですねぇ・・・」と言って考え始めた。

「綺麗な子だと純粋に思いましたね」

にっこりと笑って恥じらいもなくそう言った貴文さんに私は顔を紅く染めた。

「なっ、そ、そんなことないですよ!でも、同じ事考えていたんですね。私もかっこいい先生だなって思いましたから」
「そうだったんですか?なんだか照れますね」

互いに照れ合って笑うと再びアルバムに視線を戻す。
すると私はある写真を見つけてそれを指差した。

「あ、これ、三年の陸上最後の大会の写真」
「本当ですね。確かこの大会でさん優勝しましたよね」
「ええ。本当に嬉しかったなぁ。これも貴文さんのおかげで優勝できたようなものでしたよ」

私はそういって貴文さんに微笑むと
貴文さんは少し頬を染めて「そんなことないですよ」と言った。

「あれはさんが毎日練習が終わっても遅くまで自主練習していた賜物です」
「そ、そうでしょうか?・・・っていうか見てたんですか!?」

全く知らなかった真実に私は驚き声を上げた。
すると貴文さんは「あ、言っちゃいましたね」とかいって笑っている。

「実はずっと見てました。その、つい気になってしまって」
「もう、声を掛けてくれればよかったのに」
「すみません。でも、練習の邪魔になったらと思ったら掛けづらくて」

そういって苦笑する姿を見て私は急に恥ずかしくなった。
まさかあの姿を見られていたとは思いもしなかったからだ。
でも、そうやって見守られていたことには嫌な感じはしない。
むしろ、嬉しく感じる。

「でも、貴文さんらしいですね。ちゃんとそうやって見守ってくれているのは」
「そうですか?まあ、それぐらいしか先生という職業上できませんでしたしね。
だから、今はとっても幸せです。一番近くに居てさんを守る事ができますから」

惜しげもなくそんな恥ずかしい台詞を言われて私は顔を紅く染めた。
でも、嬉しくて唇は笑みをつくる。

「私も幸せです。あの頃はこんな風に近くに入れるようになるなんて思いもしなかったから」

そういうとお互いにどちらからなく口づけを交わした。
それは本当に触れ合うだけのキス。
すぐさま離れ、視線が交わると照れの混じった笑みを互いに浮かべた。
私はふとその時、貴文さんの後ろにある時計が目に入った。
時刻を見た私は驚きの声を上げる。

「あ。貴文さん!そろそろ出かけないと!」
「本当ですね。今日はドレス選びでしたよね?」

私たちは慌てて立ち上がると身支度を整え始めた。

「ええ。そうですよ」
「なら、終わったらそのまま晩御飯を食べに行きましょうか」
「そうですね!行きましょう」

晩の予定を決めるとどこに食べに行こうかなどと話しながら家を後にした。
リビングのテーブルには高校の卒業アルバムがのっている。
あの頃は想像もしなかった未来。
私と貴文さんはもうすぐ結婚する。
人生何が起こるかなんてわからないものである。
でも、あの三年間があったからこそ今の私たちが居るのだと思う。
きっかけは偶然。
でも、私はその偶然が必然だったのではないかとさえ思う。
ねぇ?貴文さん。
これからもずっと一緒に幸せに暮らしましょうね?
そして、二人でこの幸せを永遠に・・・
私はそう思いながら繋がれた手をぎゅっと強く握った。
晴れ晴れと輝く空の下。
懐かしき青春の日々と今の幸せをかみ締めながら。



素晴らしき神の悪戯によって幸せを掴み取った二人を祝福するお話。