幾度となく巡る季節の中を君と一緒に歩けていければと思った。
そして、人を愛するという事がどれほど素晴らしい事か君から学んだ。
君に恋をして、君を愛し始めたその日に。






君の手のぬくもり







季節も暦の上では春。
だけど、寒さは和らぐ事はなく。
まだまだ防寒具が必要だ。
天気が晴れていようと風は冷たく体温を下げる。
そんな季節の公園。
その中を歩いてみれば微かに見える温かな春の色。

「うわぁ〜こんなに寒いのに桜が咲いてますよ!先生!」
「本当だね。とても綺麗だ。さんは桜好き?」

今日はさんとデートだ。
といってもさんは僕の教え子で僕はただの教師。
恋心を抱いているのも僕の一方的なもの。
一人で舞い上がってるとわかっていても笑みが絶えなくなるのはやはり嬉しいから。
彼女にこの気持ちを伝えたいと思う事もある。
だけど、今彼女に伝えてもきっと彼女を困らせるだけだ。
そう言い聞かせていつも僕は言葉をぐっと飲み込む。
そして、些細な幸せで自らを満たす。
些細な幸せ、とはいうものの実際は些細なものではない。
彼女と同じ時を過ごせる。
それは至福にも近しい幸福だ。
今はまだそれだけで満足しようと思う。
そして、今日もその些細な幸せの中に居る。

「大好きですよ!先生は桜は好きですか?」
「そうだね。今、好きになったかな?」
「なんですかそれ!うわっ!凄い風!」

吹き抜けた風が桃色の花弁を当たりに舞わせる。
彼女の姿が桃色の花弁に奪われるように霞んだ。
それは本当に錯覚なのに何故か焦燥に駆られた。
そして、無意識に手を伸ばして彼女を捕まえていた。

「若王子先生?どうしたんですか?」
「あ・・・いえ、迷子になったらいけないし、寒くないようにね?」

苦しい言い訳だろう。
でも、彼女はきょとんとした後、にっこりと笑って告げた。

「そうですね。じゃあ、しっかり離さないようにしないとですね!」

無邪気にそう笑って指を絡めてくる彼女。
その動作にどきりとする。
指と指を交えて感じる温もりは仄温かく心地よかった。
僕は彼女に満面の笑みを返して歩き出した。
桜を見る振りをしながらこの激しく脈打つ鼓動を悟られないようにと思った。
そして、赤い顔を隠すように彼女から視線を逸らす。
気付かれるだろうかとどきどきしながら。

「先生、何か飲みませんか?温かい飲み物でも」
「そうですね。じゃあ、このまま一緒に買いに行きましょうか?」
「はい!!じゃあ、自販機を探さなきゃ」

そう言って彼女はきょろきょろと辺りを見回す。
その姿が小動物のようで愛らしかった。
自販機を探す事など忘れて彼女を見つめるのに没頭する。
繋がれた手が歩みを進めてくれるから気付かれることはない。
だから、この目にその姿をこの一瞬を焼き付けようと見つめた。

「あ!先生!ありましたよー!」
「本当ですね。じゃあ、何にします?先生が奢っちゃいますから」

そういって財布を出そうと空いている片手でポケットを探る。
財布はすぐ見つかった。
しかし、手を繋いでる為。
開けることができない。
すると、彼女はそれに気付いて手を解こうとした。
名残惜しいが仕方ないなと思いつつ、手を解くと財布から小銭を自販機に入れる。

「あ。私、自分で押しますね」

そういって彼女はココアを押した。
温かなそれを手に持ち、凄く嬉しそうな顔をする。

「先生、ありがとうございます」
「いえいえ」

互いにそう言い合うと僕も自分の物を買おうとした。
しかし、彼女がココアを飲んでいる姿を見たら
彼女の飲んでいるココアが飲みたいと思った。
そう思うや否や僕は彼女のココアに手を伸ばした。

「あ・・・」

彼女が小さくそう呟く声が聞こえたが気にしない。
そのまま彼女の飲んでいたココアを飲む。
口の中に甘い香りと風味が広がる。

「隙ありです。甘いね」
「そりゃあ、ココアですから・・・」

彼女は冷静につっこんだけど顔は赤く染まっていた。
考えてみれば彼女が飲んでいたのだから今自分は間接キスをしたことになる。
そう思うとなんだか自分も恥ずかしくなってきた。
それを誤魔化す様に彼女の片手を再び取り、歩き出す。

「温かい物を飲んで少し温まった?」
「はい。少しぽかぽかしてます」
「そうみたいだね。さっき手を繋いだときより少し温かい」

手を目線の高さに上げてそういうと彼女は照れたように笑う。

「それは先生もですよ」
「そう、かな?じゃあお相子ってことで」
「そうですね。先生、今度はお弁当もってお花見に来ましょうね」

今度という言葉に僕は舞い上がる想いだった。
それを悟られぬようにそっと微笑み。

「手料理楽しみだ。ぜひ来よう」

そう告げると彼女は元気よく「はい」と頷いた。
僕はそれを見て微笑んでまた桜に視線をやる。
また、これを彼女と見れる日が来る。
彼女との些細な幸せを満喫できる時間が。
そして、願わくば次に来る時は彼女と僕の気持ちが繋がっていることを願った。
君と重ねた手のぬくもりを感じながら。