(どんな形でもこれが俺の愛だから。)
(どんな形でもこれが私の愛だから。)
((そう、どんな形でもこれが二人の愛だから))






彼岸の先に君の笑顔がある事を希う







気づいていた。
君がいつか敵になることを。
それでも、愛おしくて俺は何も言う事ができなかった。
彼女の笑顔があればそれでいいと思っていたから。

「退。今日はいい天気ね」
「そうだね。本当に雲一つない」

いつもと変わらぬ二人の笑顔。
ただ、違うのは周りの光景。
漂う錆びた鉄の匂い。
無残な骸。
そして、互いの手に握られた刃。

「真昼間っから素晴らしい光景よね」
「自分でやったんじゃないか」
「それもそうだけどね」

そういって髪を掻き揚げる仕草が艶美で思わず見惚れて溜息が出そうになる。
その頬を血が彩っていようとも。

「本当にこんな形で対峙する事になるなんて思いもしなかったよ」
「私もよ。でも、これが私の選んだ道だから」
「そっか。なら、止めない。でも、俺もこれが選んだ道だから」

馬鹿だよな。
もっと縋ればよかったのかもしれない。
涙を流し乞えばよかったのかもしれない。
まだ、君との未来を歩んで生きたいと。
でも、君の瞳を見ているとそれを言う事さえ叶わなかった。
彼女の瞳はもう揺らぐことを知らなかったから。
だから、剣を強く握り締めた。
決意の表れのように。
それは相手も同じだった。

。今はこんな風に対峙しているけれど俺はやっぱりが好き」
「私も。退の事は今でも好き。だけど・・・これも私の愛なの」

彼女はそう笑うと俺に向かって刀を振り下ろす。
瞬時に反応してそれを受け止めるが予想外に力強い。

「本当によくこんな強さを持っていて隠すことができたね」
「貴方もいつも飄々としている癖に本当は強いんだからお互い様でしょ?」
「確かに」

俺は何かを間違ったのかな?
ただ、君を愛して傍に居て欲しくて。
だから、きっと怖くて問えなかった。
君の不穏な動きにも。
全て見透かしていたのに。

「ねぇ・・・
「何?」

刀を幾度も交えながら言葉を交わす。
殺し合いの中、こんなに穏やかな気持ちなのはおかしいな。

「俺がもっと早く君を止めていたらこんな結末にはならなかったのかな?」
「・・・さぁ?わからないわ。それに聞いた所でもうどうにもならないでしょ?」

最もそうなのだけれど。
でも、叶うならば君の傍にずっと居たいんだ。
愚かだとしても。

「もし、今俺が一緒に逃げようと言っても君は聞いてくれないよね?」
「・・・ええ、聞けないわ。私は選んでしまったから」
「そっか。・・・うん。俺ももう迷わないよ。愛してるからこそ迷わない」

俺はそう告げると力強く刀を構えて彼女の懐に飛び込んだ。
彼女は目を見開き攻撃を受け止めようとした。
けれど、それは叶わなかった。
俺の刀の方が彼女の懐に届くのが早かった。

「クッ・・・か、はっ!」

血飛沫が舞う。
崩れ落ちる白い肢体。
涙が一筋俺の頬を伝った。

「ははっ・・・ほんと、退には、参っちゃうよ・・・」

血の海と化していく彼女の周辺。
深く心臓を貫いたのだから当然だろう。
俺はそのまま彼女の元へとゆっくり歩み寄る。
そして、彼女の元へとしゃがみこむと彼女の頬にそっと触れた。
いつもより冷たい彼女の頬が悲しく切ない。

「もっと・・・早くに出会ってれば・・・よか、たな・・・
なら、そ、ばに・・・・居られた・・・かもしれ、な・・・ゴホッ!!」
「もう、喋らないでいい」
「こん、な時まで優しいの・・・?
ねぇ?さが、る・・・好きだったよ。大好き、だったよ。だれ・・・よりも愛してたよ・・・?」
「もう喋るなぁっ!!」
「退、ずっと好きだよ・・・?」

それが最後だった。
彼女の白い手が俺の頬に触れて力なく崩れていった。
綺麗な笑みを浮かべた彼女はまるで寝ているみたいで。
今さっき起きたことが夢のように思えた。
でも、現実を知らしめる体の冷たさに俺は叫んだ。

「うわああああああぁぁぁぁっ!!!!」

俺が、殺した。
何よりも大切だったのに。
大切だったのに。
壊した。
自らの手で。
愛してたのに。
愛してたのに。
それでも、俺は君を殺めた。

・・・愛してるよ・・・ずっと・・ずっと」

涙が止まらない。
ねぇ?
お願いだ。
もう一度笑って俺の名前を呼んで?
その願いが叶わないとわかっていても俺は願った。
それからどれだけ時間が経ち、
どうやって屯所まで戻ってきたのかわからない。
俺が我に返ったのは副長に怒鳴られながら殴られてようやくだった。

「山崎ィ!!いい加減目ぇ覚ませっ!!」
「っっ・・・副長・・・」

本気で怒っている副長を見るのはどれぐらいぶりだろう?
普段も確かに怒っているけれど。
本気で怒ってることなんて滅多にない。
俺は監察方だからよくわかっていた。
副長が俺に向かって何故怒っているのかわからない。
すると、それに気づいたらしい副長が怒鳴りながら言った。

「てめぇ、二週間も飯くわねぇで死ぬ気か!?自分の体ぐれぇ管理しやがれ!!
を自ら殺めてしまって罪の意識を感じるぐらいなら生きやがれ!!
生きて一生悔いろ。それでこそ贖罪だろうが!!てめぇの選んだ道だろうが!!」

この人は本当に酷なことを言い、させる。
でも、それは確かに的を射ていて返す言葉もない。
彼女を思い生きることで彼女は俺の中で確かに生きる。
俺の罪の中で。
だから副長の言ったとおり俺は生きなきゃいけない。

「副長・・・すみませんでした」
「・・・チッ!わかりゃいいんだよ」

俺は久々に空を見た。
青い空が俺の真上に広がっている。
その中で思うのはただ彼女の笑顔だった。
焼きついて離れない。
彼女の姿だった。
君のことを思い続けるから。
いつかいつか彼岸に向かったその先で君の笑顔と再会出来ることを俺は・・・・

「(希う・・・君と再会することを。)」

生き抜いて生き抜いて生き抜いたその先で再会することを希う。
愛しき君を想って。



決意した日の空はあまりにも青々しくて眩しかった。