「梓馬!」
「?」
彼女に名前を呼ばれると何故かとても心地よくなる。
手に入れたもの
周りに人気はない放課後の屋上。
俺のお気に入りの場所でもある。
前まではずっと一人でここで夕日を眺めていた。
最近は隣に必ずがいる。
「梓馬?どうかした??」
「いや、別になんでもない。それより俺を探しにきたんじゃないのか?」
「あ。そうそう!実はね〜今日、調理実習が二年はあったの!だから梓馬にも上げようと思ってね〜」
「ふーん・・・俺に食べてもらいたかったわけ?」
「そうだけど??」
「じゃあ、仕方ないから食べてあげるよ」
「相変わらず嫌味な言い方するんだから〜」
そんな言葉と裏腹には笑みを浮かべる。
こいつだけは本当に不思議で仕方ない。
俺の本性を知っているのに別に気にするわけでもなく普通に接する。
本当の俺を知って、まさか受け入れるとは思いもしなかった。
「で、食べてみてよ!」
「はいはい。そうせかさなくても食べるって」
そういわれて手渡されたクッキーをひとかけら口に含む。
口の中に甘い香りが広がる。
「意外に上手くできてるな」
「なによ!もしかしてまずいと思ったわけ?」
「そりゃあ、あれだけドジを踏んでいれば誰だってそう思うと思うけど?
例えばこの間だってセレクションに向けての練習に付き合ってやった時、いきなり譜面台につまづいて・・・・」
「ああ!言わなくていいって!あれ、結構恥ずかしかった上に痛かったんだから〜・・・」
「譜面台につまづくやつなんて初めて見たけどね」
「うー!!だってこけるもんはこけるんだもん」
本当に見ていて飽きない。
ころころと表情が変わっていく。
でも、どの表情もは綺麗で輝いている。
それは俺が何よりも求めていたものかもしれない。
「一つ聞いていいか?」
「なに?」
「俺のどこが好きになったわけ?」
「い、いきなり突拍子もない事聞くのね・・・・」
顔を紅く染める。
だが、特に気にする事もなく問い詰める。
「気になったから聞いたんだけど?で、どこ?」
「全部好きだけど・・・あまりにも寂しそうな顔をしてたから。それから気になり始めたのかな?」
「ふーん・・・曖昧だな」
そう言うと「じゃあ、梓馬はどうなの?」と聞き返された。
まさか聞き返されるとは思っていなかった。
「俺?まあ、最初は面白いから遊んでやろうっていうのがあった」
「うわぁ〜・・・極悪」
「お前な・・・それからだんだんと理由もなしに惹かれていった。まあ、気がついたら好きになってたって感じか」
「私もそれに近いかも」
それに微笑みながら俺はぼそりと呟いた。
「それに俺にとっては・・・・」
「梓馬にとって・・・?」
何を言うのだろうかという期待の満ちた表情を浮かべこちらを伺う。
それを見て俺は意地の悪い笑みを浮かべる。
「やっぱりやめた」
「え!?なんで!!??」
「次の機会に話してやるよ」
「うー!!気になるところでやめないでよ!!」
「はいはい。ちょっと黙りなよ・・・」
そういって俺は静かにの顎を掴み、口付ける。
唇を離すと彼女は真っ赤な顔を浮かべていた。
可愛い奴だと思ってしまう。
さっきの言葉の続きはもしかしたらずっと言わないかもしれない。
恥ずかしいのもあるからな。
だっては・・・・
俺にとってたった一つの光だと思える存在だから。
(手に入れたのはたった一つの君という名の光。)
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