命の果てが見えたその瞬間、人は絶望し、やがては死やその他諸々の恐怖心を喪失する。
私も嘗てそうであった。
最初は恐怖する事もあったし、悲しみもした。
まだ、色々な事をしたいと願った事もあったし、どうして私なのだと嘆きすらした。
だけど、それが変える事のできない運命だと知ってしまえば、諦めに変わり、悟ったかの様に心は静かに波打つ事すらしなくなる。
だが、そんな私の全てを変える一冊の本と出会う。






ブザム・カレッサー 01







残された時の中で私がした事は一冊でも多くの本を読む事であった。
空想の中だけでも幸せで、充実した一生を過ごしたかったのかもしれない。
それがどんなに虚しい悪足掻きだったとしてもその時の私には唯一の光だった。
そんなある日の事だった。
その日は特に体調も良く、私は学校を終えて、図書館に入り浸っていた。
一冊また一冊と読み、仮初の至福を噛み締めながらさて次は何を読もうかと周囲を見回した。
すると、一番奥の暗がりに一冊の本が置いてあるのが見えた。
丁度、死角になっていた為か司書の人々や利用者達は気づかなかったみたいだ。
私は一体何の本だろうかと何故か妙に気になって近付いた。
まるで何かに導かれるかのように。
近付いてみると不思議と埃を被っていないその漆黒のハードカバーの本はまるで辞典の様に大きかった。
見た目は重厚な洋書で古書。
タイトルは何だろうかと首を傾げて見てみると見た事のない奇怪な文字。

「・・・?え?待って、これって・・・」

一瞬、奇怪だと認識したその文字を私はつい最近目にしたばかりだった事に気付く。
記憶を辿ってみるとそれは更に確信に繋がる。
つい最近、友人が「たまには漫画も読みなよ」と言って貸してくれた一冊。
その漫画の世界の文字が確かにその本のタイトルに描かれているものだった。
私は怪訝に思いながらも中身を確認しようとその本に手を伸ばした。
指先が表紙に触れた瞬間、私は妙な浮遊感に襲われた。

「え・・・?」

一瞬の事についていけない私を置いて事態は急速に展開していった。
視界が闇に覆われて、感覚が消失し、自分の輪郭が崩壊していくのを感じた。
暫くすると次第に温かな感触が肌に伝わり、暗い闇の中、私の意識が浮上する。
そして、聞こえたのは優しい女性の声。

「早く大きくなってね」

優しく愛おしそうに囁く声に私は一度浮上した意識をまた沈めてしまった。
余りの心地良い感覚と共に言葉も何も発せぬままに。