再度、意識が覚醒した私が見たのは図書館でも自宅でもなかった。
まるでどこかのお城の一室とでも言える様な豪奢な造りの広々とした一室。
一体どうしてしまったのかと私は身体を起そうとしたが思う様に体が動かない。
否、それだけではない全てに何か違和感を感じたのだ。

「ありぇ・・・?・・・!?」

言葉が酷く舌足らずである事に気づいた私は目を見開いて自分の手を見た。
すると、見えた自分の手はどう考えても赤ん坊のものであったのだ。






ブザム・カレッサー 02







何が起こったのか全く理解出来ない私は取り敢えず冷静になろうと一呼吸。
冷静になれ、と何度も自分に言い聞かせて少し動揺を払拭すると辺りを見回し、記憶を辿る。
しかし、考えた所で一体ここがどこなのか私がどうなってしまったのか理解する術も無く。
最終的に考える事を諦めた私は再び眠りについた。
そして、次に目覚めた時、広がったのは随分強面の銀髪の美丈夫の姿だった。

「・・・!?」

驚きに声さえ出なかったが確実に心拍数が上昇している。

「随分、泣かない赤ん坊だな。我が子ながら立派なものだ」

泣かない赤ん坊が立派とは常識的にどうなのだろうかと思ったが
余りにも幸福に満ちた優しい笑みを浮かべるので少し照れくさい気分になる。
だが、その赤ん坊とはやはり私の事であるのだろうと思い至ると
やはり非現実的な事が私の身に起きたのかと否が応で納得するしかなかった。
一体全体何故赤ん坊になってしまったのか判らないが
なってしまった以上、 それなりに振舞わないといけないなと思い、再び視線を父親らしいその人物に向けた。
すると、隣から黒髪の美女が現れて満足そうに微笑んだ。

「当たり前でしょう?あなた。私とあなたの初めての子供でゾルティック家の血を引く娘ですもの!」
「それもそうだな。しかし、どちらかと言えばキキョウ似だな。
娘だから母に似て正解だろうがな。俺や親父に似たら悲惨で可哀想だったしな」

何となく黙って聞いていた私であったが今、ゾルティックという言葉が聞こえた気がした。
いや、間違いなく聞こえた。
私は思わず自身の耳を疑ったがそう言われてみれば強面の美丈夫は見た事がある。
そこで漸く私は状況を呑み込まざる得なくなってしまった。
私は何故か漫画のHUNTER×HUNTERの世界に居て、
更にはゾルティック家の一族の長子にして、長女となっている事に。
夢ならばよかったが残念な程にリアルな感覚にそれは有り得ないと知る。
ただ、一つ明確に解っていたのはこうなった元凶。
それは間違いなくあの時触れた一冊の本だ。
しかし、それが判った所で現段階の私にどうにかする術もなく、暫く考え込んで数十秒後。
開き直った私は結局、この新たな人生を楽しむ事にした。
元より死ぬ予定だったのだから幸運に恵まれたとポジティブな思考で考えると
本当に嬉しそうに私を見つめる二人がとても愛おしく思えて笑みを浮かべた。

「まぁ!!あなた!この子、凄く可愛い笑顔を!!」
「落ち着け、キキョウ。だが、確かに可愛いな」

私の一挙一動に幸せを感じている事が分かる二人を見て、
ぼんやりと両親とはこういうものなのかと片親しかいなかった私は実感する。
生まれたばかりだからまだ喋る訳にもいかないけど、せめて感情でこの幸せを伝えていこうと思った。
そして、私は暫くは暗殺一家と言えども普通の赤ん坊としての時を過ごした。
名前はどういう因果か知らないがこちらに来る以前の名前が命名され、私は=ゾルティックとして生き始めたのだった。

「あら?あなた!この子、毒にも既に耐性があるみたいよ!!」
「本当か?流石だな。偉いぞ、

・・・だけど、どうやらそんなに普通の赤ん坊の生活でもないようです。