神々は私達に何もしてくれはしない。
何かを掴むには自身のこの両手でなければ出来ない。

「何故っ・・・!?私を、庇った!?」

幾度も私を庇い、倒れ崩れ粒子となって消えていく"彼"の未来を変える為に。
私は何度もこの世界の時を巡り直す。

「あ・・・あああ・・・あああああっ!!」

泣き叫び嘆く血塗られた世界ではなく、穏やかな微笑みを浮かべられる幸福の世界。
それを掴む為に私は時を渡り続ける。
永遠に近しい孤独の旅路を歩み続ける。






Desire 01







(嗚呼・・・また、私は間違えてしまったのか?)

気がつけばまた始まりの場所に居た私はゆっくりと身を起した。
もう、何度見た景色だろう。
深緑の木々に囲まれた小鳥の囀る声の聞こえる静かな森の泉で私の旅路はいつも始まる。
この森はダアトの教会の裏にあり、私はいつもここである人物に出会う。

(もう、そろそろ来るだろう。
何時までも囚われている訳にもいかない。次こそは成功させなければ・・・)

脳裏に焼きついている"彼"の最後を振り払い、
私は瞳にある絶望を消し、意志の強い光を灯し立ち上がった。
すると、一つ小さな足音が響く。
誰かなんて聞かずとも判る。
この深緑によく似た色を持つ少年。
その瞳はもう既に絶望に染まっており、鋭く冷めた光だけが灯っていた。
放たれた声も瞳と同じく冷たい響き。

「こんな所に部外者が入り込んでるなんて珍しい。ここには早々部外者は入れない筈なんだけど?」

私はゆっくりと振り返り笑みを浮かべた。
これももう何度繰り返した事だろうか。
それでも目の前の少年にとっては初めての体験なのだから反応は変わりはしない。
焦る事もなく、ただ、笑顔を浮かべる私に微かな驚きを示すだけ。

「私は・・・。君を救う者だよ。君の死の預言(スコア)消滅預言(ラストジャッジメントスコア)からね」
「・・・!?」

"消滅預言(ラストジャッジメントスコア)"の一言にイオンの顔色は一気に変わった。
誰も知り得ないその言葉を何故目の前の女は知っているのだと言う驚愕に。
それと同時に甘い期待と希望の色が見え隠れする。
彼は幾ら精神が成熟していようとも5、6歳の子供なのだ。
根本は幼くこの年齢ではまだ完全に自分の死の預言を受け入れ切れていない。

(だから、彼は私を受け入れる。私の計画にも賛同するのだ。)

絶対な自信を心の奥に隠して彼女はイオンの反応を待った。
イオンは動揺を必死に隠しつつも努めて冷静に口を開いた。

「それを知るのは僕やヴァンだけの筈だ。アンタ、本当に誰?」
「私は。それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、私は未来を知っている。ヴァンの計画は阻止され、預言(スコア)の無くなる世界を」

イオンはの言葉に惹かれ、引きこまれる様に一歩また一歩歩みを進めていく。
通常ならば怪しいと警戒するだけなのに
何故か目の前のの言葉は真実であるという力強さを持っていたのだ。
は手を差し伸べて話を続ける。
穏やかに優しくまるで女神の如く温かい声で。

「貴方の未来を私は変えよう。その代わり私と契約してくれ」
「契約・・・?」
「そう。私の計画への全面協力。報酬は君の命と君の大切な者の命、そして、預言(スコア)のない世界」

到底、信じられないその言葉にイオンは一度足を止める。
しかし、目の前に居る女の瞳は揺ぎ無い意志と自信が宿っており、イオンは躊躇いつつもまた一歩歩みを進めた。
後は手を取るだけの距離でイオンはゆっくり息を吐くと不適に微笑んだ。

「本当にアンタはそれをやってのけるって言うなら面白い。
僕は預言(スコア)の為に・・・預言(スコア)の通りに死ぬなんて真っ平だ。
それを享受する奴らにもね。だから、ヴァンではなく、アンタを選んでみたい」

そっと手を乗せられたのを確認してはそっと膝を追った。
主に忠誠を誓う騎士の様に深々と頭を下げながら宣言した。

「では、契約成立のこの時を持って貴方の願いを叶えよ。必ず」

秘められたこの誓いが織り成す未来は彼の運命を必ず良いものとした。
だが、しかし、それだけでは"彼"は救われないのだ。

(まずは第一段階成功・・・か。)

途方もない幾度目かの旅路の始まりの幕が今はまだ上がっただけなのだから。