私の誕生は全て罪。
あの紅い、紅い月の夜に起こった事件は私の生への罰。






GARNET MOON

第一話 我、悲惨な過去を背負う者







「あんたなんか!あんたなんか!生まなきゃ良かった!このバケモノ・・・!」
「何故・・・何故・・・俺たちの時にバケモノが!!!」

痛覚も麻痺する程に何度も繰り返し殴りつける父と母。
私はいつからか叫ぶ事も、泣く事も、助けを求める事もしなくなった。
ただ、人形のようにその場に居るだけの存在。
でも、そんな私を人として見てくれて、助けてくれて、大切にしてくれる人が居た。
私の半身、そして両親にとっては自慢の息子であった兄様。

、行こう?」
「・・・兄様はの事嫌わないの?」
「嫌わないよ!だって僕たちは二人っきりの兄妹で半身だもん。それに僕達は特別なんだよ」
「・・・特別?」
「うん、だってと僕はこんなにも似ているし、それに何か特別な繋がりがあるんだよ。きっと!」
「そうなのかな?」
「そうだよ!それには僕にとっては特別だもん!」
「私、兄様にとって特別なの?」
「うん、一番、一番大好きな人だよ?」
「私も一番好き!」

そう言う兄のおかげで私はいつも絶望せずに済んだ。
いつでも自分には兄様がいる。
そう言い聞かせて生きていた。
何よりも大切で何よりも愛おしい私の半身。
そう、6年前までは・・・・

「あんたなんか帰ってこなくて良かったのよ!気持ち悪い!この化け物!何でも人より飛び抜けて出来る。
それ位ならまだしも気持ち悪い奇妙な力を持って!あんたなんかが私の腹から出てきただなんてゾッとするわ!」
「でも!兄様は特別な力だって・・!」

兄の名前を出した途端、父の形相が今まで以上に禍々しく憎悪に満ちたものとなった。
恐怖のあまり声が出ない。
いつもと何かが違う雰囲気に本能が逃げろと私に警告する。
でも、微塵も動く事が出来ずにその場で震えるばかり。

「怜一の事を兄だと?戯言を言うな!俺達の息子とお前が同じものか!!この化け物が!」
「もう、終わりにしてあげる・・・私達があんたをこの世から葬ってあげるわ!!」
「いやぁああああああー!!」

にたりと嫌な笑いを浮かべて母が刃を持ち振りかぶった。
確実に殺されると思った。
刺さると思った瞬間、自分の目の前に黒い影が過ぎり、肉の裂ける、嫌な音がした。
その音に私は恐る恐る閉じていた瞳を開く。
そこには見慣れた背があってそれが誰なのかも直ぐ理解できた。
同時に酷く心臓が大きな音を立てて脈打った。

「あ・・・に・・さ・ま・・・?」
「よ、かった・・・が、ぶ・・じ・・で・・」
「兄様!」

私は倒れてきた兄様の体を抱きかかえた。
茫然自失の中、伸ばされた手を無我夢中で握り見つめる。

「そ、んな・・・私が怜一を・・・いやぁぁぁぁあ!!」

母は狂ったように叫び声を上げた。

「兄様!兄様!死んでは嫌です!」
「ご、めん・・・な?・・・のこと、一人に・・し、たくない・・のに・・な」

兄様の体がどんどん冷たくなっていった。
私は泣きじゃくりながら叫んだ。

「兄様!!絶対に!絶対にが助けるから!!」
「も、う俺は・・・ダ・・メだから・・」
「そんな事ない!そんな事・・・!」

兄様は私の頬に力が入らない手を必死に動かし添えた。

「俺は・・・死んでも・・・、のそ・・ばに居るから・・・だから、は・・・いき・・ろ!俺の・・・分も・・・生きて・・俺の特別・・・」

声が消え、瞳の光りが無くなり、体中の力が抜けていく兄様をただ、見つめた。

「兄様・・・?」

まだ仄温かいその身体を強く抱き、虚ろとする私はゆっくりと目の前の母を見上げた。

「あなたのせいよ!」
「お前を殺してやる・・!」

飛んでくる罵声、血迷った瞳。
両親は文字通り狂ったのだろう。
だけど、その時の私には何も聞こえなかった。
茫然自失の中、私を内から温かく包む存在を感じて意識を飛ばした。
そして、再び意識を取り戻した時には真っ白な病室。
そこで、医者などから聞かされた事は両親も兄も死んだという事。
散々、何故死んだのか?と聞かれたが私は兄が死ぬところしか見ていなかった。
両親が死んだ理由と私が何者であるかということが関係するとはこの時は思いもしなかった。
そして、私が17歳の時、運命の歯車は再び回りだす・・・