「佐助っ!!こんな所に人が倒れておるっ!!」

それは戦の帰りの途中であった。






を繋ぐは骨の楔

第一夜 出逢うは無常の雨の中







此度の戦は某が総大将となっての戦だった。
無論、勝利を収めての帰還である。
そんな折、雨に濡れて横たわる人。
濡れた髪が張り付き顔ははっきりと見えぬ。

「本当だねぇ・・・これは伊達の旦那ところの家紋だよ」

佐助は「どういう事だろうねぇ?」と首を傾げる。
男である事は身なりから理解できた。(若干華奢だとは思ったけれど)
しかし、全くもって様子がわからない。
某がその人物を抱き起こしてみる事にした。
そして、驚いた。
あまりに美しかったのだその容貌が。
漆黒の髪、瞳を彩る長い睫、艶やかな唇、白い真珠のような肌。
それが雨に濡れ、何とも妖艶な雰囲気を醸し出していた。
まるで天女のようなその者にしばし見入ってしまう。
すると、佐助が何か納得したように頷く。

「ああ・・・この顔見た事あると思ったら伊達の旦那の弟君じゃないの」
「政宗殿に弟が!?」

今まで何度か見えた事はあったが弟君がいたなど初耳である。
素直にそう佐助に申すと呆れたように何故か溜息を吐かれた。

「知らなかったの?旦那。まあ、いいけど確か謀反を起したとかで殺されたみたいな話を聞いてたけど」

謀反。
その言葉に反応して思わず某は抱えている人物に視線をやった。
しかし、そんなことをするようには全くもって見えない。
人は見かけによらずという事もあるからありえるのかもしれぬが・・・
そう思い、改めてもう一度観察してみるがそんな風には見えなかった。
何となくだが絶対にそうだと言い切れる程に確信が持てた。

「どうする?旦那。このまま放っておいてもいいけど・・・」

佐助の残忍な発言に某が咎めるように告げる。

「そうはいかぬ!!このような場所で倒れている人物を見捨てるなど・・・!」
「って言うと思ったよ。じゃあ、俺は先に帰ってお館様に報告してきますよっと」

佐助はそれだけ言い残してその場を後にした。
某は再び抱えている人物に目をやった。
酷く青白い顔をしている。

「早く連れて帰ってやらねば・・・」

そう思うとその人物を抱きかかえたまま馬に飛び乗り帰路を急いだ。
抱えている間もぴくりとも動かぬその人物を心配し、幾度も様子を見ながら。
城に戻ってみると事情を知ったお館様が出迎えてくださった。

「お館様ぁああ!幸村、ただいま帰還っ・・・!?」

ゴッ!!

駆け寄ろうとした矢先、凄まじい勢いで飛んできたお館様の拳が自身の頬に鈍い音を立てて当たる。

「馬鹿者!!話は後にせい!!幸村!」

軽く吹き飛びかけたのも束の間、腕にいる人物を思い出してお館様に問うた。

「そ、そうでございました!!どちらにこの者を連れて行けば・・・」
「そこに控えさせている女中に案内を頼んでおる。そこまで連れて行ったなら後は女中に任せればよい」

お館様に言われた通り、女中に案内され部屋へと向かった。
そして、布団の上に横たわらせると後は女中に任せてその場を後にしたのだった。

「お館様、あの者これからどのように・・・」
「心配する事はない幸村。これも何かの縁。あの者さえ承諾すればこの地に置こうと思うておる」
「誠にございまするか!?」
「ああ。なぁ、佐助」

穏やかに微笑み佐助に同意を求めるお館様。

「まあね。伊達の旦那に謀反を起した事はともかく。
腕は立つし、頭脳明晰、武将として腕は悪くない。もし武田に仕える事になればまた天下への道も近くなるってもんだしね」

それを聞いた幸村はほっと息を吐いた。

「そういえばあの者、名は何と申すのだ?」
「伊達小次郎って呼ばれてるね。何せ謎が多い人物だよ」

苦虫を潰したような表情を浮かべる佐助。

「どういう事だ?」

「情報がやたらと少ないんだよ。意図的に流さぬよう警戒しているように。
まあ、有名な話では母親に寵愛されて伊達の旦那の代わりに家督を継がせようとされていたというのは聞いた事があるけどね」
「それで謀反でござるか・・・?」
「真実は闇の中。本当かどうかはわからないよ。まあ、どうせ本人がいるんだし目が覚めたら聞いてみれば?」
「うむ・・・そうだな」

某は何故だか小次郎殿に無性に興味が湧いていた。
本能的に。
無意識に。
どうしても、この地に置いておきたい。
傍に置きたいという欲望に駆られていた。
それから数日の後。
小次郎殿は目覚める。