何の前触れもなく、運命と言う物はその姿を現す。

「初めまして、天使です。貴方は今日を含めた十日後で生を終えます。
私はそんな貴方の命を回収する為にやって来ました。と言う訳でよろしく」

金とルビーで装飾された漆黒の鎌を持ち、血の様に深紅の髪を風に躍らせ、金色に輝く瞳で笑った。
その背には天使と云うだけあり、羽が生えている。
十翼の羽は何枚もの真白の羽根を舞い躍らせていた。






天使を飼い慣らす方法

episode1 天使の最終宣告







見た事のない風貌に呆気に取られてしまう。
自分にしてはとても珍しい事である。
そもそもこの女は一体何者なのだとか色々気になるが。
取り合えず自分よりも身長が高い事やら見下されている事やらが苛立ち仕込み刀を投げた。
何の前触れも無く投げたのだからこのトチ狂った女なんて殺ってしまっただろうと思った。
が、しかし、自分の行動を後に後悔する。

「なっ!?」

投げた刀は綺麗に直線に目の前の自称天使に飛んでいった。
だが、刀は女の身体から血飛沫を上げさせる事はなかった。
何故なら女の身体を刀は擦り抜けて壁へと突き刺さったからである。
信じられない光景に思わず自分の目を疑う。
そんな自分を見て自称天使は笑った。
嘲るように。

「天使だって言ってるじゃないですか。物理的な攻撃は全く持って効きませんよ。
っていうか元来人間の攻撃なんて天使には効かないんですよ。効いてたら人間の魂を狩る度大変じゃないですか」

淡々と笑顔を浮かべたまま説明する自称天使に視線を向けたまま思考に耽る。
これではまるで本当に天使だという事を己の手によって証明してしまったようなものだ。
だが、少し時間が経ち冷静さを取り戻すと女に近付き問う。

「お前、本当に天使なのか?」
「そうだって言ってるでしょう。フェイタンさん」
「名前もわかているのか」

信じたくはないがどんどんと信じざる得ない状況へと追いやられているような気がする。

「ええ。だって天使ですから」
「命を狩るなんて死神がする事ね」

一般的なイメージを告げると女は少し不機嫌そうな声色で告ぐ。

「死神なんてこの世には居ないんですよ。命を狩りに来た天使を見て勝手に人が死神だとか空想の名前をつけただけです」

どうやら混同されたくないというかちゃんと正規に天使として認めろという事だろう。
どこか人間じみた天使である。
しかし、見た目だけ見れば天使と云うよりはやっぱり悪魔か死神である。
清純という言葉が似合う美人と言うよりは妖艶という言葉が似合う美人であるから余計に。
じっと相手を観察しながら次に問いかける内容を考える。
すると、女は地に足を付けて目の前に立った。
目の前の天使は思ったよりも身長が自分より高く、不快になる。

「(女にこう見下されるのはどうにも気に食わない。)」
「気に食わないと言われても身長差はどうにもできないですよ」
「!?」

心の中で思っていた事を指摘されてまた驚き目を見開く。
先程よりは直ぐに我に返れたが。
やはり天使というだけあって普通の人間と違う能力がいくつもあるのだろうか。
嫌悪感を先程まで抱いていたがどこかそれは好奇心へと変わり始めていた。
だが、一つだけどうしてもはっきりさせなければならない事がある。
それは、自分の命が後十日で終わりだという事。
天使で命を回収するのが生業だと言う女は確かにそう言った。

「天使、お前がいた事が本当ならばこの数日後に私は命を落とす事になてるのか?」
「ええ、だから私が来たって言ってるでしょう?」

何度も同じ事を言わせるなという態度に普通は直ぐには納得できないと反論する。
天使と人間では感覚が違うのかと首を傾げる。
ともあれ、この女がただの女じゃないという事は判った。
が、これ以上関わるのもどこか嫌な予感がする。
そう思い、女を一瞥すると踵をくるりと返して寝室に向かう。

「え?あ、あれ?いや、寝ちゃうの!?」
「夜だから寝るのは当たり前ね。単に私が寝ぼけてこんな幻覚を見ているのかもしれないね」
「いやいや、めっちゃ目の前に居るから。というか自分に凄く言い聞かせる形ですよね!?」

女が喚くがもう聞こえないと言わんばかりに扉を閉めた。


嗚呼、頭が痛い。
(自称天使だなんて悪い冗談にも程がある。)
(そう思う程、自分の寿命が後十日だなんて認めれる筈なかた。)