あの変な天使とやらに会った次の日。
目を覚ましてみればあの自称天使とやらの姿はなく。
やはり夢か幻覚か何かだったのかと吐息を吐いた。
その時、バサッと布の摺れる音が響き、目の前に何かが現れる。

「おはようございますーいい天気ですねぇ」

それは蝙蝠の様に逆さに天井と繋がっている自称天使の姿だった。






天使を飼い慣らす方法

episode2 不可視の天使







「・・・・・」
「うわっ!そんなに嫌な顔しないで下さいよ。言ったでしょ?昨日、これは現実に起こっている事だと」

確かに言われたが人間誰もが非科学的なものは信じたくないものだ。
というよりどうしても目の前の人物が変人にしか見えないというのもある。
そもそも何でこの女は蝙蝠の如く逆さでこの場にいるのだろうか。
きっと意味等はないのだろうけれど。

「で、何しに来たあるか?」
「嫌だなぁ。恍けないでくださいよ。私は貴方の命を狩るのが今の任務なんですよ」
「付き纏う理由にはなてないね」

着替えを素早く済ますとそのまま部屋を後にする。
だが、天使はやはりついてきて隣を共に歩いている。

「あ、そういえば名前言ってませんでしたね。
って言います。短い間ですがよろしくお願いしますね。フェイタンさん」
「聞いてないね。むしろ質問に答えろ」
「えー・・・面倒臭いし嫌です。で、今からどこに行くんですか?」
「お前、人の質問に答えないくせにグチグチと煩いよ」

全く持って噛み合わない会話に苛立ちが募る。
身勝手極まりない自称天使改めに軽い殺意を覚えるが何もしないのは昨日で既に攻撃する事は無意味だと知っているからだ。
本当に殺せるなら殺してしまいたい。
今すぐに。

「あのーフェイタンさん。私に向かって殺気を放たないで下さいよ。
悲しくて泣いてしまいますよ?折角、ご縁があってこうして話している訳ですし仲良くしましょうよ」
「命を狩る相手とどうして仲良くする必要があるか?お前、バカよ」
「バカって失礼極まりないですよ。あ、前方から人が・・・」

間抜な声を上げた天使は前方から来るフィンクスの姿をじっと見つめる。
どこか興味津々なのはフィンクスの奇抜な格好故か否かは理解しかねるが大概どっちもどっちで変人だと心の中で罵倒する。
そう考えてみれば自分の周りには個性の強い人間しか集まらないなとしみじみ実感する。
まあ、自分自身もまともな部類には入らないから仕方がないのかもしれないが。

「よっ。フェイ。こんな所で何してるんだ?一人で」
「?別に何もしてないよ」

一瞬、戸惑いを覚えた。
目の前にいるフィンクスは私一人と言った。
だが、隣にはしっかりとが居るのだ。
そりゃあもう毒々しいまでの紅の髪を揺らしてふわふわと隣で浮いている。
この光景がもしかしたら見えていないのかと首を捻る。

「おーい。フェイ。大丈夫か?マジで。何か呆けてるけどよ」

フィンクスの声にはっと我に返ると「別に大丈夫よ」とだけ言ってその場を後にした。
そして、再び部屋に戻ると隣で相も変わらず胡散臭い笑みを浮かべているに向き直る。

「どういう事か?フィンクスにはお前の姿が見えないのか?」

その質問にきょとんと目を丸くするだったかすぐに言いたい事を理解したらしくぽんと手を打つ。
どこか表情が嬉々としているのを見て嗚呼、これからきっと自分には大変よろしくない事を告げられる気がした。
事実、その後に告げられた言葉は残酷なまでの真実だった。

「私の姿は元来寿命が近い人にしか見えません。
ある意味私が人ではないという事と貴方の命が僅かだという証明ですね。
ここまで言えば判るでしょう?貴方がどんなに足掻こうと無駄だって事です」

決められた宿命なのだから何をしようと無駄だと彼女はきっぱりと告げる。
それはある種の死刑宣告にも似ていた。
笑顔で告げられる自分の死に軽く頭が混乱する。
が、死ぬ事に対しての恐怖心はない。
だから、決して取り乱す事はないし、錯乱する事もない。

「(通常の人間ならありえない事ね。)」

自嘲めいた笑みを浮かべてソファに腰を降ろすと笑った。
自分が笑うなんて早々ない事だ。
でも、この状況を笑えずにいれるだろうか?

「本当に面白い事になてきたよ。まあ、後少しで死ぬか死なないかなんて別にどうでもいい」

そう、どうでもいいのだ。
いきなりの事でどうにもペースを乱されていたが全てを受け止めれば後は特に何ら問題はない。

。お前が勝手に私の命を取ろうが取るまいがどうでもいい事よ。勝手にすればいい。ただ・・・」
「ただ?」
「人の目の前で漂われるのはどうにも鬱陶しい事この上ないね。人の部屋には勝手に出入りをするんじゃないよ」

予想していなかった言葉だったのだろう。
金色の瞳を不思議そうな色に染めて首を傾げて暫く固まる。
そして、漸く動き出したかと思えば自分の隣に腰を降ろし、誰もが心奪われるような華の笑みを浮かべる。
が、口に出された言葉は身勝手の限りだった。

「その申し出は却下です。だって、貴方の様な面白い人は初めでですから先ほどより一層観察してみたくなりました」

観察対象とはこの女も大概苛立つと握り拳を思わず作る。
殴りたいのに殴っても擦り抜けるこれだけはどうにかならないか。

。観察を許可してやるよ。ただ、一度殴らせるね」

嗚呼、本当に腹が立つので思わずそう告げればお決まりの胡散臭い笑みを浮かべて乞う告げた。

「それもお断りします。絶対に痛いですもん」
「・・・本気で殺したいね」

その後、暫く言い合ったが結局どうする事も出来ずに再び不貞寝をしてみるとやはり次の日。
女は重力を無視して壁にそって立ってにこにこと笑っていたので当たらないと判ってはいても思わず枕を投げつけた。


天使と奇妙な共同生活
(お前、本当に一度殴らせるよ。それにストーカーは犯罪よ。)
(嫌ですってば。私、マゾヒストじゃないんです。それに犯罪者が正論で責めないで下さい。)