、少し話が・・・」
「カルト、頬にソース付いてるわ」
「有難う御座います。御姉様」

父であるシルバがに話掛けるがそれを遮って声を上げる
心無しかが不機嫌なのに気付きイルミは首を傾げるが理由は思い当たらない。

「ごほんっ!、話が・・・」
「イルミ、首をそんなに横に傾けたらそっちにあるスープに髪が入ってしまうわよ?」
「ああ、本当だ。姉さん、ありがとう。」
「アナタっ!机に突っ伏していないで早く食べて仕舞って頂戴!」






ブザム・カレッサー 12







キキョウの甲高い声がそれから数度上がるも依然落ち込んでいるシルバを見て
食事を終え、と一緒に紅茶を飲んでいたイルミが思わず尋ねる。

「姉さん、珍しく親父と喧嘩?」
「別にそんなんじゃないわよ。正当な怒りを態度で示しているだけ」
「また、どうして?」

基本温和ながそういう態度を露にするのは珍しい。
イルミでも生まれてこの方片手で数えれる程度しか見た事がなかった。
それだけにシルバのショックも大きく突っ伏したまま動かないのであろう。
は横目でシルバの様子を見るがあからさまな溜息を吐いて刺々しい口調でイルミに言った。

「キルアを天空闘技場に放り込むなんて話、私は今日の今日まで聞いてなかったのよ?信じられる?」
「え?親父、話してなかったの?あれ程、俺から話すって言ってたのに?」
「ええ。問い詰めたら怒ると思って言えなかったですって!聞いて厭きれたわ。
勿論、私は反論するかもしれないけれど、御父様が必要だと思った事なら不当に怒る事などしないわ!」

紅茶を一気に飲み干すとカシャンと激しい音を立ててカップを受け皿に置く
これは本格的に怒っているなとイルミは思うと同時にに構う邪魔者が一時的に一人減ったとほくそ笑む。
尊敬の念はない事もないがイルミにとって所詮、シルバは超えるべき存在で
最も大切にすべきなのはだと思っている為、可哀想だとは微塵も思わず寧ろ万々歳だと心の中で思う。

「そっか。俺、知ってたら俺から姉さんに伝えてたのに・・・気付かなくてごめん」
「イルミが謝る事はないわ。悪いのは御父様であってイルミじゃないのだから。
でも、ありがとう。イルミが私を想ってくれる気持ちは嬉しいわ。そういう優しいイルミが私は好きよ」

頬にそう言って可愛らしい音を立てて柔らかな唇が押し当てられて
イルミは無表情ながら役得だと机の下でガッツポーズを作る。
そんなやり取りを聞いていたシルバは更に顔を上げ辛くなり、結局、達が去るまで机に突っ伏したままだった。
そして、達が去った後、漸く顔を上げたシルバは深い溜息を吐いて
どうやったら機嫌を直して貰えるか悩みながら食堂を後にするのだった。
それから数日経ったある日の午後。
依然、怒りを露にしているは一人ミケと自身の薔薇園にて珍しく昼寝をしていた。
怒り続けるというのは意外に体力を使うのかにしては本当に珍しい光景であった。
そこに偶々いい加減謝ってしまおうと思ってを探していたシルバが通りかかった。
シルバは思わず愛娘の珍しい姿に足を止めて呆然とするがすぐに踵を返して、その場を一時後にした。
数分後、再び戻ってきたシルバは片手に毛布を持っており、起さぬように気配を消して近付く。
ミケが気配に気付き、目を覚ますも相手がシルバだと判ると鋭い眼光に気圧されて動かなくなった。
シルバはそのままそっとに毛布を掛けると顔に掛かった髪をそっと払ってりながら穏やかな寝顔を見守る。

「こんなに無防備な姿を見るのは久しぶりだな」

息子たちに接する普段の威厳に満ちた厳しい暗殺一家の父の姿ではなく、
何処にでも居る父親と変わらない子を大切に想い、慈しむ様な笑顔を浮かべたシルバがそこには居た。
決してそれは表立って見せる事のないもので普段は押し殺している父親の表情の一つだった。

「悪かったな。信頼して居なかった訳じゃなかったんだ。心配させまいと思ってした事が余計だったな
よくよく考えればお前ももう分別の付く大人だし、ちゃんと話すべきだった。お前はゾルティック家の長子なんだしな」

暗殺家業を手伝っていなくても流れる血はゾルティック家のもの。
ゾルティック家の一員である以上家族の事を知る権利は当然ある。

「寝ている間に言ってもあれだな。出直すか」

シルバはそう考えてここまでを探して、自分の過ちを素直に認め、謝りに来たのだ。
実は起きていたはそんなシルバの言葉に寝たふりを止めて立ち上がるとそっと後ろから抱きついた。
シルバは唐突の事に驚きながらも立ち止まった。

「起きていたのか?」

すぐに状況を把握するとシルバは体を反転させての頭にそっと手を置き、優しく告げる。
その言葉には首を縦に振ると顔を上げると申し訳無さそうに節目がちに口を開いた。

「あの、行儀は悪いと思ったんですがつい・・・その、私こそ申し訳ありません。
御父様にだって御考えがある事を失念していて一方的に怒ったりして全く大人げない事をしたと反省しております」
「いや、今回は全面的に俺が悪い。お前が家族を一番大切に思っている事を知りながら言わなかったんだからな」
「判りました。では、一つだけ約束して下さいますか?今後はこう言う事がない様にすると」
「ああ。いいだろう」

シルバが快く了承するとは嬉しげな笑顔を浮かべて背伸びをした。

「では、これは仲直りの印です」
「ん・・・?」

軽い音を立てて頬に押し当てられたの唇に驚きながら目を丸く見開く。
そんなシルバを余所には少し照れ笑いをすると
「じゃあ、私、帰ってくるイルミを迎えに行きますね」とその場を後にした。
残されたシルバは自分の頬を擦った後、小さくなっていくの姿を見つめて思わず呟いた。

「もしかして、誰にでもああしているのではないだろうな・・・?不安だ」

仲直りにキスなど何処で覚えてきたのかと少し娘の危機感の無さに一抹の不安を覚えつつ、悩むシルバだった。