暫く平穏な日々が続いていたある日。
相も変わらず読書をしていると携帯からメロディが流れる。
珍しい、と携帯を手に取るとそこに表示されていた名はクロロの文字。
私はすぐに受話ボタンを押して、携帯を耳に押し当てた。

「久しぶりね。クロロ。最近は連絡がなかったので忘れられているかと思っていましたよ?」
『悪い。少し大きな仕事が入ってな。所でイルミに連絡がつかないんだが・・・』
「イルミも今、仕事が立て込んでいるんで手が離せないんです。
何か、イルミに仕事の依頼でもあるのですか?何なら私が受けますが?」

私のその言葉に暫くクロロは悩む様子を見せたが事情を説明し始めた。







ブザム・カレッサー 13







「仕事だと聞いていたのに何故、私はクロロとパーティーに参加しているのかしら?」

事情を聞き、依頼を受けて幻影旅団の今のアジトへと訊ねるとすぐさまにドレスを渡されて
着替える羽目になり、詳しい事を聞かされる間もなく、現在パーティー会場へ入る途中である。
不思議そうにかつ不服そうにそう呟けばクロロは苦笑を浮かべた。

「仕方ないだろう。円滑にまとめて殺ってしまうなら今日のこのパーティーしかなかったんだ」
「それにしても、もう少し説明してくれても
良かったと思うのだけれど?ねぇ、シャルとパクノダもそう思わない ?」

隣に居たシャルとパクノダの二人に話を振ればやはり苦笑が返ってきた。

「仕方ないわ。。団長が唐突なのは今に始まった事ではないから」
「パクノダ・・・それは酷くないか?」
「あら、パクの言う通りでしょう?
まあ、雑談はこの程度にして私のターゲットを教えて欲しいのだけれど?」

軽い雑談を切上げて、そう言うとクロロも笑みを消して答えた。

「このパーティーの参加者全員だ」

淡々と短い言葉で告げられたターゲットに私は少し目を見開くが直ぐに微笑みに変える。
決して驚いたのは大人数を殺すからではない。
私ももう少なからずゾルティック家の者として十数年生きてきた人間だ。
元の世界に居た時よりも人を殺す事に抵抗は無くなっていた。
驚いたのは何百人と居る大きなこのパーティーの人々全てを殺すとして
幻影旅団の特攻専門の団員が一人も居ないという事実だった。

「成程。だから、イルミに依頼しようと思ったのね?」
「ああ、特攻専門のノブナガ達を使えばいい話なんだが
あいつらには別の組織破壊の仕事に行ってもらっているからな」

クロロのその言葉で漸く全ての辻褄に合点がいく。

「そうなの?じゃあ、私は合図が掛かるまでクロロと会場で待機って所かしら?」
「そういう事だ。シャル達にはこの屋敷にある物を盗んで貰うからその後に俺たちが一掃する」
「了解よ」

念能力者は見た所居る様子はないし、唯の素人なら腕が鈍っている私とクロロでも充分だろう。
にっこりと笑みを深め、了承の意を告げるとクロロもそれに応える様に微笑んだ。

「それじゃあ、俺達は早速行動を開始するよ。の戦い楽しみにしてる」

ウィンクをしてそう微笑むシャル。

「そういえばシャルの前では初めてだったわね。
期待に応えれるかは判らないけどそれでも良かったら見ていて?」

シャルはその言葉に頷くとパクノダと一緒にその場を後にした。
そして、私達も早速ターゲットの居る会場内へと足を踏み入れた。
華やかに鮮やかに着飾った人々が幾つものシャンデリアに照らされて笑顔で談笑している。
しかし、このパーティーは政治絡みのパーティーだ。
その笑顔の仮面の下に何を隠しているのか判ったものじゃない。
肩に掛けていたショールを掛け直すと人々の観察を止めてクロロに話掛けた。

「それにしてもこのドレス、クロロが選んだの?」
「まあな。気に入らなかったか?」
「いいえ、背中が少し寒い事を除けばパーフェクトよ?私の趣味を解っているなと思ったの」

今、私が着ているドレスはマーメイドラインのロングドレスで
少し暗めの紫の光沢のある生地と腰の辺りにあしらわれた大きな蝶が印象的なドレスだ。
しかし、肩と背中を大きく露出しており、黒色のショールを羽織っていてもやや寒いのだ。
素直にそれを訴えながらもドレスを賞賛するとクロロの唇は弧を描いた。

「それは良かった。寒いと言われた部分については今度ファーショールをプレゼントするって事でどうだ?」

ウィンクをしながらそう提案するクロロはまるで子供の様な無邪気さを感じる。
綺麗な美青年でありながら様々な女性を魅了するのは
これかもしれないなと思いながら私もその無邪気な提案に乗り、笑みを深めて笑った。

「それなら本当に完璧ね。でも、そんなに理由もなく貰うのは悪いから私にも今度何かプレゼントさせて頂戴」
「勿論。のプレゼントだったら俺は幾らでも受け取るぞ?」
「それじゃあ、今度楽しみにしていて」

他愛もない会話をシャンパン片手にその後も幾度か交わした。
家の事や旅団の事など久方振りの再会な為、会話が尽きる事はなかった。
炭酸と淡い甘みを含む酒の力も他愛もない会話の
スパイスになっていた様で気がつけばかなりの時間をそうして過ごしていた。
そんな折、耳につけていた通信機に連絡が入る。

『団長、。こっちはOK。もう暴れて貰って構わないよ』
「わかった。お前達はもう屋敷の外に出て一応ないとは思うが外へ逃げた奴の始末を頼む」
『了解』

クロロの指示が終わり、通信が切れると私とクロロは顔を見合わせた。
そして、目で合図をすると私は地を蹴り、宙に舞い上がった。
素早く羽織っていたショールを外すと同時に千年の魔女(サウザンドウィッチ)を出現させた。
宙に浮いた本からページが何枚も外れて辺りをふわりと漂うと下を指差し合図を送った。

裁きの神槍(ジャッジメント・ランス)

声と共にページは数多くの槍へと変わり、地へと降り注ぐ。
串刺しにされ、潰される人々を最後には燃え、灰となり、血の海へと沈んでいった。
半分もの人がそうして殲滅されると残りの半分をクロロが屍とし、岩礁の如くその海に浮かんだ。

「では、帰りましょうか。クロロ」
「ああ、パーティーも御開きの様だしな」

静まり返ったパーティー会場に一瞥すると私とクロロは悠々と出口からその場を後にした。
そして、取り敢えず一度旅団のアジトに戻ると別働隊だったフェイタン達の姿があった。
どうやら私達よりも先に仕事を終えたらしく、仕事終わりの一杯とは言い難い程の酒を飲んでいた。

「団長、遅かったな!先にやってるぜ?」
「それは見れば判るが先に客人に挨拶しろ。久々にが来てくれてるんだ」
「こんばんは。久しぶり。フィンクス」

丁度、クロロの背後に隠れてしまっていた私は横から顔を出すと団員達がぞろぞろと集まってきた。

じゃない。久しぶり」
「久しぶり、マチ。最近、会えてなかったから嬉しいわ」

マチとは旅団の皆と出会ってから女同士という事もあり、会う機会が多かった。
実は私の二人目の親友だったりして久しぶりの再会に抱擁を交わす。
すると、ひょっこりとフェイタンが顔を出す。

「私とは先日会たばかりだけどね」
「フェイ、お前とが会う接点が見つからないんだが・・・」
「ノブナガ、そうでもないわ。フェイに頼まれてよく稀少な拷問器具を取り寄せたりしてるから」
「そういうことね」

互いに顔を見合わせてうんうんと頷くとノブナガは頭を掻いて私を見つめる。

「拷問器具・・・を見てるとイメージわかねぇがもゾルティック家の人間だったな」
「そうそう!今回の仕事でのの念凄かったし、ああいう所を見るとゾルティックだなぁって」
「あれは、決して私が考えた念って訳じゃないのよ?」

久々の再会に私達は次々に様々な会話を繰り広げてるとクロロが呆れた様にそこに割って入った。

「お前達、話すのはいいが取り敢えず座ったらどうだ?折角、いい酒もあるんだろう?」

クロロの言葉にそれぞれが酒や食べ物の事を思い出し、ああ、と声をを上げた。

「それもそうね。、私の隣座るがよろし」
「ちょっと、待った!は俺の隣だろ?」
「え?え?」
「・・・団長命令。は俺の隣だ」

座る位置で揉めそうになっていた所をクロロに手を引かれて隣に座らされる。
それを見て他の団員達が横暴だとか騒ぎ出したが結局、パクが団長命令だからといって説得した。
子供じみた彼らの小さな喧嘩や言い争いは存外に私を楽しませてくれて
私はくすくすと笑いを漏らしつつ、クロロから差し出された御酒の入ったグラスを手に取った。

「取り敢えず、今夜の仕事は成功だ。それを祝して皆、存分に楽しめ」

クロロがそう告げるとおお!と声を上げると同時に騒ぎ出した。
私もそんな皆に釣られる様に酒を口に含む。
仕事終わりの酒や仲間と飲む酒が美味いとはよく言ったものでその夜の酒はまた格別だった。

「相変わらず騒がしい連中だろう?」

クロロがふいにそう私に笑い掛けてきたので私はグラスを口から話すと微笑んだ。

「でも、退屈しないわ。私、皆が大好きだもの。クロロだってそうでしょう?」

誰よりも旅団を大切に思ってるのはきっと幻影旅団である団長のクロロ。
それは私でなくても判ったと思う。
私の質問には曖昧な笑みを返すだけだったけど、
それでもクロロが旅団の皆を見てる時の楽しげな表情が雄弁に語っていたから。
嘗て、私は彼らとこんな風に語り合う事が出来ると夢にも見た事はなかった。
だけど、偶然か必然か私は今ここに居て彼らと杯を交わす。
紛れもないそんな現実が私を一段と幸せにして、その夜、私は心地良い酔いと共に眠りについた。




「姉さん・・・?」

仕事が長引き、漸く久々に屋敷へと戻れた俺は真っ先に姉さんの部屋に向かった。
部屋は明かりがついておらず、人の気配もなかった。
取り敢えず部屋に入るとテーブルの上にメモが置いてあり、それは紛れもない姉さんの字だった。

「クロロの仕事を手伝ってきます、か」

読み終えるとメモをクシャリと握り締めごみ箱へと放り投げるとソファに腰掛けた。
闇に包まれた室内でそっと瞳を閉じる。
だが、胸中を巡る想いに苛まれて心が落ち着かない。
幼き頃に抱いた気持ちが加速度を増して自分を蝕んでいるのに気付いていた。
それでも姉さんを傷つけたくないし、困らせたくないという一心で押さえ込んできたのだ。
でも、それがもう何時まで続くか判らない。
幼い頃は些細な事で満たされたが大人になるに連れて貪欲に強欲に俺は姉さんを求めだしていたのだ。
姉ではなく、一人の女として常に姉さんを見ている。
"姉さん"と呼ぶ事すらもう躊躇いを覚える程に。
だけど、姉さんは気付かない。
このままだと姉さんはきっと、俺の元から離れていってしまう。

「俺は、そんなのは認めない。絶対に認めない。姉さんは、は俺のものなんだから」

他の男にやるぐらいならば俺は愛しさを憎悪に変えて、きっと姉さんを、を、壊すのだろう。
そんな想いと共に俺は姉さんを夢見て今度こそ眠りについたのだった。