=ゾルティックとして生き始めて一年と数ヶ月経ったある日。
もう、その頃にはかなり以前と変わらぬ暮らしをし始めていた。
と、言うのも最初は赤ん坊として振舞っていたのだが
次第に人とは違う成長っぷりを見せた方が両親共に喜ぶ事が判明したのだ。
流石、ゾルティック家。
なので、一歳になった頃には普通に歩き、普通に話し始めていた。
正直、ゾルティック家であるからこそ許されている存在だなと自分で思う。
そんなある日、私はあの本との再会を果たす。






ブザム・カレッサー 03







文字を覚えた事もあってあの時の記憶を辿ってあの本のタイトルについて考えていたのだった。
今更、あの世界に戻るのは御父様と御母様に悪いと思っていた為、全くその気はなかったのだが
あの本が一体私にどの様に作用したかは知って置きたかった。

「えっと・・・確か、千、年の・・・魔女(サウザンドウィッチ)だったかしら?」

最近、覚えた文字を思い出しながら記憶と照らし合わせて自分の部屋でそう呟くと
何かが上から物凄い音を立てて目の前に落ちてきた。
危ない、もう少しで下敷きだったと目の前に落ちて来た物に視線をやる。
すると、その落ちて来た物体は間違いなくあの時の本で私は目を丸くした。
タイトルにはやはり千年の魔女(サウザンドウィッチ)と記されている。
今度は触れても大丈夫だろうかと思いながら恐る恐る触れるが
何も起こらず、私はほっと息を吐いてそのページを捲った。

「んー・・・この本は念書であり、所有者を本自体が制約に則って選ぶ。
選ばれた所有者は死に至るまでその本の所有者で在り続け、変わる事はない。
制約は所有者の死後、最初に触れた者であり、女性である事。・・・念書?」

私はその注意書きの様なものをずっと読み続けていく、
本の大きさが大きさだけに注意書きだけでも長いが書かれていた事はこう言う事であった。
まず、念書と呼ばれるのはこの世界の念で作られた本である。
そして、その本自体は念の性質上所有者が死んでも存在し続ける。
で、この念書を作った最初の人物が次の所有者を選ぶ条件にしたのが前所有者の死後、最初に触れた者であり、女性。
この条件に当て嵌まった者は拒否権もなく、念書の所有者となり、念を引き継いでいく。
ただ、まだ厄介な制約があり、選ばれたその人物は魂の再構成・・・つまりは転生を果たさなければならない。
それを済ませればそれ以降は念書に記載された能力を無条件で使用出来るらしい。

「それで私はゾルティック家の長女に転生したのね・・・でも、何で私の世界にあったのかしら?」

理由は謎だが取り敢えずもう一度あの世界に戻るのは不可能らしい。
元より戻る気はないし、念能力ももう自在に使えるというのはとても助かる。
だって、今の所は問題ないとしてもゾルティック家に生まれたからには戦いは必須となるだろうからだ。
本に記載されている能力は見た所、数も多いし、私自身も一つだけオリジナルで能力を作れる様だ。
ただ、記載された能力は恐怖心が枷となり、同時使用数に制限が掛かるらしい。

「でも、今となっては怖いものなんてないから問題ないわね」

ゾルティック家で過ごす内に更に死への恐怖は皆無となったし、
毒薬の耐性をつける為に毒を服用する内に何故か無痛症になってしまったのだ。
極度に痛みに鈍いだけで完全に痛みを感じない訳ではないので
加減はちゃんと出来るので全然日常生活に支障はないのだけれど。
それにどうやらこの念を転生後初めて使用した瞬間から何だか体が前以上に軽い。

「あ、プラスして身体能力が向上するって書いてあるわ。じゃあ、後はこの念を自在に使える様にならないといけないわね」

切り替えの早い私は早速念書を読破し始めた。
そして、読み終えた私が試しに念を使って見ようと思ったその時だった。
荒々しく自室の扉が開いたと言うより吹き飛んだ。
嗚呼、扉が・・・と思っているとその扉を破壊した人物が私を見て目を丸くしていた。

!・・・っとお前念までもうマスターしたのか!?
念についてはまだ何も言ってなかったと思ってたんだが・・・」

念である本をふわふわと浮かせている私を見て怪訝そうに首を傾げる御父様に私は慌てて口を開いた。

「ええ、御父様。本を読んで自分で練習したんです」
「そうか!流石、だな。偉いぞ」

それで通じるのかと思ったが逆に助かった。
大きなその手で頭を撫でる御父様の姿に嬉しくなり
先程の出来事が頭から抜けそうだったが、視界に入った破損した扉を見て思い出す。

「それより何か用事が御有りになったのでわ?」
「ああ、そうだった!お前が喜ぶと思ってな。お前にもう直ぐ弟が出来るぞ!」
「え?」

扉が壊す程喜んで部屋へ来た御父様の言葉に私が驚いたのは無理も無かった。
まさか、こんなにも早くに対面するとは思って居なかったからである。
だが、私もすっかりゾルティック家の一員で驚いたのも束の間、喜びでそのまま御父様に抱きついたのであった。
それから暫くして私の弟であり、ゾルティック家の長男であるイルミ=ゾルティックが誕生した。