「可愛い・・・」
生まれたばかりのイルミはあの大きくなったイルミとあまり変わりはしなかった。
私も言えた義理ではないが本当に泣かない赤ん坊。
だけど、指を差し出せば優しくぎゅっとするその姿は無表情ながらも可愛らしく愛おしかった。
「まあ!あなた!!カメラ持ってきて!ちゃんの指をイルミが握って可愛いのよっ!!」
この辺りからもう大分御母様の声が甲高くなっていたのだがよく泣かないわね・・・イルミ。
ブザム・カレッサー 04
イルミが生まれてから数年。
私もそろそろ可愛らしい洋服が着れる年齢になり、
イルミも歩き回る程に成長し、その綺麗な顔が引き立ってきた頃。
何故か私にべったりで片時も離れようとしないイルミの為に私の隣へ部屋が宛がわれた。
しかし、実際は殆ど私の部屋で一日を過ごし、寝食を共にする様になっていた為、かなり無用の長物だったが。
勿論、この頃にはもう私もイルミも暗殺術を学び始めていたので
その修行中は流石に別々だったけれど。
それでも、私の修行が終わるまで廊下で待っていて、
終わるとぎゅっと腰に抱きついてくる可愛さは叫びたくなる程だった。
ちょっと、御母様に似てきたのかなっと思う自分も居たり。
ただ、私はもうその頃には念も習得している事と暗殺術などの呑み込みの早さから
教育はほぼ終えており、実践経験を積み始めていた。
丁度、その頃にイルミと違い女の子と言う事があった為か
御父様も御母様も更には御爺様まで私に甘く、
滅多な事が無い限り暗殺の仕事には出さないと取り決められた。
正直、女だろうが男だろうが暗殺者として育てるだろうと思っていた私にとっては驚きであったが
両親や御爺様が決めた事に異論もなかったので私はそれに甘んじる事にした。
しかし、その分、イルミは厳しい英才教育が施されていく事となり、
結果、それをただ、見ているしかない私は次第にその時の選択を後悔して、自分を責めるようになった。
安易な私の選択のせいでイルミに辛い思いをさせてしまったと思ったからだ。
「ごめんなさい。イルミ」
そして、ある日、私は修行から戻ってきた傷だけのイルミの手当てをしながらぽつりと謝罪の言葉を漏らした。
すると、イルミはその大きな瞳をやや困惑した様子でこちらに向けて首を傾げた。
「どうして、姉様が謝るの?」
「だって、私のせいだわ。イルミがこんなに傷だらけなの。
私が女の子に生まれて来なかったら良かったのに本当にごめんなさい」
そうすれば長男だからと厳しくされる事もなかったと私は自責の念に駆られて思わず涙を流した。
泣くつもりなんて本当はなかったし、
泣きたいのはきっとイルミの方だと思うのにぽろぽろと流れるそれを止める事はできなかった。
この世界では四歳児と言っても転生以前から数えれば二十代前半なのに情けない。
もう少し巧く立ち回ってちょっとでも子供らしい時間をイルミに過ごさせてあげたかったと思うとまた涙が溢れ出す。
すると、ふいに頬に温かく柔らかい何かが押し当てられた。
一体何事だと思って目を見開くと私の頬に唇を押し当てるイルミの姿があった。
私は二、三度瞬きを繰り返すと再び反対の頬にキスを落とすイルミ。
そして、少し距離を置いて私の頭を背伸びをして撫でる。
「俺は姉様が姉様で良かったと思う。だから、泣かないで?」
「イルミ・・・」
「俺は優しい姉様が一番大好きだよ。だから、俺は父さん以上に強くなって姉様を守りたいんだ」
幼いながらも確かな意志の煌く瞳でそう呟いて微かに笑みを浮かべる姿に私の涙はすっかり引っ込んでしまった。
子供だからって決して何も見えてない訳でもなく、考えてない訳でもない。
精神的にも肉体的にも年下のイルミにそう教えられた私はただイルミを呆然と見つめるばかりだった。
だけど、私はすぐに嬉しくなってまだ涙を浮かべてしまった。
それにちょっと慌てるイルミが慰めようとしてくれたけど、ぎゅっとその身体を抱き締めた。
今度はイルミが驚いているのを感じながら私は笑顔で告げた。
「大丈夫。これは嬉しい涙だから」
「嬉しい涙?嬉しくて泣いてるの?」
「うん。人は嬉しくても泣くのよ?
イルミの気持ちすっごく嬉しかったわ。私もイルミが大好きよ。ありがとう」
「・・・うん」
少し照れた様子のイルミは静かにその言葉に頷くと私の肩に顔を埋めた。
それが愛おしくて愛おしくて短い腕で必死にイルミを受け止め抱き締めた。
護りたい、そう心から深く深く思った日。
そして、この時から私はゾルティック家を違う形で支えるべく、サポート役として様々な知識をつけていく事となる。
「まあ!まあ!!あなた!!二人とも凄く仲良く抱き締め合ってるわ!!」
「幼いからいいが将来本気でイルミなんかはと姉弟でも結婚したいとか言わないだろうか・・・」
「あら。それもいいじゃない!ちゃんがこの家から他所に嫁ぐ事がないんですもの!」
「それもそうだな」
その外でそんな会話が繰り広げられてるなんて知りもしないイルミとであった。
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