、居るかのう?」
「ゼノ御爺様。私に御用ですか?」
「今日はお前さんの誕生日じゃろう。ちょっと奮発してプレゼントじゃ」

そう言って渡されたのは桐の高さの余りない大きな箱。
それが二十箱ぐらい重ねられているのに私は目を丸くしながら見つめた。

「こんなに一杯・・・有難う御座います。御爺様。開けて見ても良いですか?」
「ぜひ、開けてくれ」

一体何が入って居るのだろうかと開けた中身は大量の着物であった。






ブザム・カレッサー 05







様々な柄の着物が二十着。
どれもこれも手触りの良い物でかなりの値打ちがあるものだと判る。
更にそれを取り出して羽織ってみると私の背丈にぴったりなのだ。
もしかしなくてもオーダーメイドなのだろうか?
だが、驚くのはこれだけじゃなかった。

「どうじゃ?気に入ったか?」
「は、はい」
「そりゃ良かった。実は着物一着ずつに合わせて帯なども用意してあるからもうすぐゴトーが持ってくるじゃろう」
「ええ!?」

そこまで一式プレゼントとは思わず私はついに驚きの声を漏らした。
今までも大概豪華なプレゼントが多かったがここまではかなり珍しい。

「本当は倍あるんじゃがまだ届いとらんでのう。もう数週間もすれば全部届くと思うぞ」
「・・・ええ!?まだあるんですか!?」
「驚いたじゃろう?」

悪戯が成功したと言わんばかりの顔だが余りに散財じゃないのでしょうか。
いや、嬉しいと言えば嬉しいのですが全てオーダーメイドとなると
かなりの値段がするのではと考えて途中で気が遠くなり、思考を中断した。
取り敢えず再び御礼を言ったら「今度はその着物に合う髪飾りも買わんとな」と不吉な言葉が聞こえた。
金銭感覚もやっぱ普通じゃないのかなとゾルティック家に生まれて十年初めて身に染みて実感したのでした。
それから暫くしてゴトーが本当にやって来て大量の荷物を置いていった。
持ってくるだけでも大変だろうと思い、後は自分でやると申し出て貰った着物とその他諸々を収納していく。
その途中で修行を終えたイルミが戻ってきた。

姉さん、どうしたの。これ」
「御爺様が誕生日プレゼントにって。御着物とかを一杯くださったの」
「ふーん・・・でも、凄い数だね。これ。俺も手伝おうか?」

辺りを見回してプレゼントを指差すイルミは何往復もしてクローゼットに収納している私を見兼ねてそう申し出た。
正直、一人じゃ気が遠くなりそうだと思っていたのでありがたくその申し出を受ける事にする。

「じゃあ、そこの履物の箱だけ御願い出来る?」
「これ?判った」

そう言ってまだ一つも片付けていなかった履物の箱を全部まとめて抱え上げたイルミに思わず目を丸くする。
ついこの間まであんなに小さかったのに今となってはもうこんなに腕っ節も強くなってるのかと。
時の流れは早いものだとちょっと年寄り臭い思考が頭を過ぎった。
だが、今はそんな事をのんびりと考えてないで一刻も早く片付けてしまおうと再び動き出した。

「はぁ・・・やっと終わった。でも、今年に限って何でこんなに豪華なプレゼントなのかしら?」
「んー・・・十歳で区切りがいいからじゃない?」
「そういうものなのかしら・・・?」
「まあ、嫌じゃなかったんなら良かったじゃない」
「うん。そうね。良い方向に考えましょう」

最初は驚くもその内流されていく自分は本当にゾルティック色に染まってきたなと思う。
しかし、この調子でいくと御母様とかのプレゼントが凄そうだなと一抹の不安が過ぎる。

「あ」
「ん?どうかしたの?イルミ」
「俺、折角だから姉さんの着物姿見たい」
「え!?今??」
「うん。ダメ?」

首を傾げて大きな瞳で覗きこんで来るイルミに私は一瞬言葉を詰まらせる。
そんな可愛らしい顔で大切な弟にそう言われては断る事も出来ずその愛らしい御願いにすぐさま首を縦に振る事となった。
そして、本の知識を頼りに何とか着物を着てみる。
取り敢えず姿見で見ても変な所はなかったからこれで合っているのだと思うのだが
どうにも普段と違う装いが恥ずかしくてクローゼットの扉から顔だけを出す。

「姉さん?着替え終わった?」
「う、うん・・・でも、は、恥ずかしいわ・・・」
「何で?着方は合ってるなら大丈夫でしょ?」

何がそんなに不安なのだと不思議でしょうがない様子のイルミ。

「そうだけど・・・笑わないでね?」
「笑わないよ」

そう言われてしまえば私はおずおずと扉を開き、イルミの元へと駆け寄った。
その度にひらひらと舞う袖と髪。
イルミの前までつくと私は恥ずかしくて俯いてそのままイルミの感想を待った。
中々何も言わないイルミに痺れを切らした私は思い切って尋ねた。

「どう、かしら?」

私の言葉に我に返った様子のイルミはそのまま頬にちゅっと軽いキスをしてきた。
驚いて俯いていた私は顔を上げる。

「とっても可愛い。姉さんよくに合ってるよ」
「本当に?」
「俺、姉さんに嘘言った事ある?」
「ない。その、ありがとう。イルミ」

褒められた事で恥じらいから嬉しさに変わって私は漸く笑顔を浮かべた。
それにイルミが瞬きを数度繰り返してぼそりと何か呟く。

「カメラ、あったら良かったのに」
「イルミ??」
「ううん。何でもない」

良く聞き取れなかった私は首を傾げてイルミを見つめていると部屋の扉をノックする音が響いた。
今度は一体誰だろうかと思いながら私は返事を返す。

「はい。どうぞ開いてます」
「じゃあ、入るぞ。っと、親父からの着物よく似合ってるな」
「御父様!有難う御座います」

入って来たのはシルバ御父様で早速私の着物に気づき褒め言葉を述べてくれる。
それに素直に御礼を言えば嬉しそうに微笑む御父様。
私から言えばとても優しい御父様で恐怖の暗殺一家ゾルティック家の稼ぎ頭とは思えない。
でも、そう言えば何故、この着物が御爺様のプレゼントだと判ったのだろうか?

「御父様。そう言えば何故この御着物が御爺様のプレゼントと判ったんですか?」
「親父と話し合ってプレゼントが被らない様にしたからな」
「とか言いながら絶対姉さんへのプレゼント、どっちがどれだけ喜ばれる物あげるか言い合いになっただけだろう」
「ん?何か言ったか?イルミ」
「何も。それより姉さんに用事があったんじゃないの?」

イルミの言葉に本来の目的を思い出したらしい御父様は懐から長方形のプレゼントを取り出した。

「俺からの誕生日プレゼントだ。
二つあるんだがもう一つはもう少し時間が掛かるから取り敢えずこっちだけでもと思ってな」
「有難う御座います。御父様。開けてもいいですか?」
「ああ」

もう一つの時間の掛かるプレゼントが気になったがそこは気にしない事にして箱のリボンを解く。
そして、ドキドキしながら箱を開けてみるとそこにはナイフが一本。
そう来たかと心中で思いながらそのナイフを見つめる。
ダガーナイフに良く似たナイフだが若干装飾が施されており、銀一色で作られたそれは儀礼用のナイフにも似ていた。

「これは・・・」
「俺がコレクションしているベンズナイフの一つでな。
お前もそろそろ護身用に一本位持って置いた方がいいだろうと思って譲る事にした」
「御父様のコレクションを私が頂いてもいいのですか?」
「ああ。お前に似合うと思ったやつを選んで買ってきたんだしな。
耐性があるとはいえ、毒が仕込んであるから取り扱いには気をつけろよ」

という事はこのピンクのラッピングは御父様がしたと言う事かしらと思いながらそれを丁重に箱に仕舞った。
「もう一つのプレゼントは後日にな」と言い残し、仕事があるらしく足早に部屋を後にしていった。
私はもう一度箱を開けて貰ったベンズナイフを取り出すと千年の魔女(サウザンドウィッチ)の能力で念書内に収納する。
誰が作った能力なのかは知らないがこの能力が今の所一番重宝している。

「何だか今年は色んな意味で凄いプレゼントが一杯ね」

ゾルティック家ならではのプレゼントに少し疲れ気味にソファに腰を掛ける。
すると、イルミも同じ様にソファに腰を掛けて同意した。

「本当にそうだね。そうだ。俺も姉さんにプレゼント。はい。言っておくけど俺は普通だよ」
「プレゼントなんて普通でいいのよ。ありがとうね。イルミ。開けていい?」
「うん」

渡された箱の包装を解いて開いてみると入っていたのは黒のベルベットチョーカー。
真ん中に大きな楕円のサファイアが下がっており、その周りには小ぶりのパールが並べられている。
非常にセンスのいい好みのアクセサリーに私は笑みを浮かべる。

「ありがとう。イルミ。とても綺麗なチョーカー・・・でも、高かったんじゃない?」

暗殺業で御金を稼いでいるといってもまだ八歳。
こんな素晴らしいプレゼントを貰っていいものかと尋ねるがイルミにとってはそんな事は些細な事らしい。

「そんな事に気にしなくていいよ。俺は姉さんがそうやって喜んでくれるだけで嬉しいし」
「そう?ありがとう。イルミ。大好きよ」

若干八歳がこんなプレゼントを買ってきた非常識さに気づかぬ程、すっかりゾルティック家の一員なっている自分。
でも、それでもそんなゾルティック家の皆が大好きだからと十歳の誕生日に再認識するのであった。
その後、御母様に大量の洋服のプレゼントを貰い、着せ替え人形にされるとも知らずに。