姉さんは気づいてない。
家族の皆がどれだけ姉さんを大事に想っているか。
俺が姉さんの事をどれ程想っているか。
前者はどうでもいいけど後者には少しぐらい気づいて欲しい。
今は、唯の姉と弟でいいけど、いつか俺をそれ以上に見て欲しい。
そう思っている俺は貪欲なのだろうか?






ブザム・カレッサー 06







「キルア、可愛いわね・・・」

最近の姉さんは生まれたばかりの新しい弟に夢中である。
日の殆どをキルアの世話に割き、俺と二人の時間が極端に減った。
正直、凄く気に喰わない。
姉さんの一番は俺が良かった。
それが弟としてだけでも一番を他の弟に譲るのだけは我慢ならなかった。
でも、キルアが生まれた時に親父はキルアを跡継ぎにすると決めた。
それだけの素質を持った息子だからと。
俺もそれは感じていたし、賛成だったけどそう言われてしまうと姉さんを奪われない様に殺す事も出来ない。
やり場のない気持ちは結局吐き出される事なく、心の奥底に溜まっていった。
だけど、それに気づかない程、姉さんは鈍感じゃなかった。
まあ、元々姉さんが鈍感な部分は好意に対してだけだったし、いつか気づかれるとは思ってたけど。

「イルミ、最近、元気ないわね。どうかしたの?」
「・・・別に何もないよ」

抱いていたキルアをそっとベビーベッドに寝かせてこちらに近付いてきた姉さん。
甘い香りと共に香る俺がプレゼントした薔薇の香水に少しだけ満たされるのを感じた。
姉さんの香りを作っているのが俺のあげた香水ってだけで姉さんの一部が俺のものになった気がして。
俺は歪んでいると自覚もしている。
姉さんの身に着ける物も全て俺が選んでプレゼントしていたし。(姉さんも嫌がる事はなかったし。)
姉さんに触れた使用人を何人か殺してしまった事だってあった。
でも、そんなあからさまな態度の俺に気づかない姉さん。
本当に純粋無垢で疑う事を知らなくて、鈍感で。
だからこそ、愛おしいのかもしれないけど。

「嘘。私は貴方の姉さんだもの。それ位、見分けがつくわ。
でも、言いたくないならそれでも構わないわ。姉さん、言ってくれるまで待つから」
「・・・俺、言わないかもしれないよ?」
「それもあるかもしれないわね。なら、そんな時は姉さん言いたくなるまでイルミの傍にいる事にするわ」
「そう・・・なら、俺、余計言わない。姉さんには傍に居て欲しいし」

思わず呟いた本音に姉さんはきょとんとして目を丸くする。
だけど、すぐにその表情は笑顔に変わり、隣に居た姉さんはそっと俺の頭を抱き寄せて撫でてくれた。

「ふふっ、イルミはキルアに嫉妬してくれたのかしら?傍に居て欲しいなんて寂しがり屋ね」

子供扱いをされて少しムッとするけどこうやって姉さんに抱き寄せられるのは心地良くて反論する気すら奪われる。
俺はそのまま瞳を伏せるとぎゅっと姉さんにしがみ付いた。
それを肯定と捉えた姉さんはまた微笑んで髪を撫でる。
そして、そうされている内に俺の中にあったドロドロとした醜い感情は綺麗さっぱりなくなっていった。
同時に心地良さに負けて久々の深い眠りへと誘われていったのだった。
その眠りの中で俺だけに微笑んで愛していると囁く姉さんを見たのは俺の願望だったのだろうか。
きっと、俺はこの頃、姉さんに対して抱く明確な狂気に似た恋情に気づいたのだと思う。




「余程、寂しかったのかしら?」

ぐっすりと眠ってしまった一番上の弟の安らかな寝顔に微笑を浮かべると起さないようにそっとソファに横たえた。
毛布をそっと掛けて私は部屋を後にすると御父様の部屋へ向かった。
薄暗い廊下の先に重厚な扉が広がってそれをゆっくりと開ければ御父様が穏やかに微笑んだ。

か。どうかしたか?」
「御父様。突然、すみません。今晩のイルミの仕事を私に回して欲しいと思ったので御願いに参ったのです」

用件を申し出ながら御父様の前まで歩み寄ると珍しく驚いた様子で尋ね返されてしまった。

「イルミの仕事をか?イルミに何かあったのか?」
「いえ、ただ少し寝てしまっているようなので私が代わりをしてあげようと思いまして。
あの子、最近よく眠れていなかったみたいですから。それに、私もたまには仕事をしなければいざ何かあった時に困りますし」

ダメ押しにそう告げれば御父様は少し考えた後、「そう言われてしまえば仕方ない」と言い了承して下さった。
私はそれに笑顔で御礼を告げて、早速仕事に向かおうと踵を返したが御父様に呼び止められる。

。俺が一緒に行かなくても大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。御父様。私はこれでもゾルティック家の長女で御父様の娘ですもの」
「う、うむ。それはそうだがやっぱり・・・」

そんなに心配する事でもないのに中々引き下がらない御父様に私はちゃんと正面に向き直るとやや声を強めて告げた。

「御父様!私の力が信用出来ないとでも?」
「い、いや、そんな事は・・・」
「なら、御任せくださいませ。すぐに戻って参りますから」

力強くそう告げて微笑めば御父様はそれ以上何も言えなくなった様子で
その場に項垂れると「わかった。行ってこい」と告げられた。
何故、そこまで心配するのかは謎であったが私は「行って参ります」と言葉を残し部屋を後にした。
その後、残された御父様がぽつりと呟いた一言と気苦労も知らずに。

「・・・明日、キキョウとイルミにこっ酷く怒られそうだ」