=ゾルティックと言う女性は美人だが少しズレた人間である。
それが数ヶ月共に過ごしてきた俺が至った結論である。
絵に描いた様な美女であるのは確かであるが相当の箱入り娘だったのか
はたまた単に性格なのかは判らないが人の好意にとことん疎い。
要するに恋愛に対する知識等が圧倒的にないのである。
更に男への危機感と言うのも皆無でホテルが一室しか取れなかった際など
シャワーを浴びてバスタオル一枚で出てくるなんて事もあった。

「これは前途多難だな・・・」






ブザム・カレッサー 08







まあ、何故そんな事を真剣に悩んでいたかというのもこれまた自分でも驚きなのだが、
どうやら俺は彼女に恋してしまったらしい。
元々自分で言うのもあれだが女に不自由した事はなかったし、
本気の恋愛なんてしないだろうなと思ってた節もあったのに呆気なく俺は恋に落ちてしまった。
彼女の何処に惹かれたのか自分でも判らない程、彼女の全てが愛おしくて仕方ないという重症っぷり。
だが、当の彼女にアプローチしようとも天性の鈍感さでスルーされてしまう。
これはもうどうにも手の打ち様がない。
が、それ程焦らずに済んでいるのは彼女にとっての男友達が俺一人と言う事かもしれない。
じゃなければ形振り構ってなどいられないしな。
そうこうしている内に暫し別行動をしていた彼女が戻ってきた。

「御待たせ。・・・?クロロ?」
「・・・!?あ、ああ、すまん。少し考え事をしていた」

余りに真剣に考えていた為に彼女が眼前にまで迫っている事に気づけなかった俺は思わず肩を大きく上下させた。
しかし、すぐに平静を装って心を落ち着かせると彼女に向き直った。
少々不思議そうな顔をしていたが特に気にした様子もなく、話をし始めた。

「あ、そうそう。クロロに御土産があるのよ」
「俺に?」
「ええ。ちょっと待ってね。えーっと・・・」

そう言って手に持っていた紙袋を漁り始めた
結構大きな袋だったので時間が掛かるかと思われたが
目的の物は案外早く見つかったらしく、笑みを浮かべたは意気揚々と取り出した物を見せた。
出てきた物は古びた細長い箱。
特に装飾などはない何の変哲もない箱で渡された俺は首を傾げながらそれを受け取った。
手に取ったその箱は意外にもずっしりと確かな重みがあって
益々何が入っているのだと首を傾げるとが「開けて見て」と箱を開ける事を勧めてきた。
俺は促されるままにその箱を開いて見る。
そこに入っていたのは特徴的な形の奇怪なナイフ。

「これは・・・ベンズナイフか。中期位の型だな」
「そう。こんな所で見つけるとは思わなかったけど、
クロロに似合うなぁって思って買ったんだけどどうかしら?」

少し照れ臭そうにはにかんだ笑みを浮かべる彼女の姿に思わず口元を覆う。
何せ俺の為にという時点で俺の心は完全に有頂天。
確かにベンズナイフをプレゼントしてくれた事も嬉しいが
俺の為にあれこれ悩んでくれたのかと思うとそれだけでにやけてしまう。
嗚呼、本当に重症なのだと思う。
俺はプレゼントを選び悩む姿を頭の中で想像しながらそのままを抱き締めた。
勿論、ナイフはさっさと箱に仕舞ってだ。

「ありがとう。。とても嬉しいよ」
「ふふ、良かったわ。そんなに感激して貰えて」

そう、これなのだ。
普通の女ならば照れてもいいこんな抱擁だって彼女にとっては軽いスキンシップで片付けられてしまう。
もう少し恥ずかしがってもいいと思うのだがこれ以上の事をしてもたぶん彼女の反応は変わらないだろう。
まあ、物は考えようと思い、気軽に抱き締めたり出来るでそれはそれで良しとしようと考えを切り替える。
その時だ。
ふいに俺に対して物凄い殺気が向けられたのを感じた。
それは腕の中に居たも同じだったようで身を素早く離すと殺気の方向へと視線を向ける。
互いに戦闘体勢に入っていたがはその人物を確認すると力を抜いた。
一体、何故だと首を傾げてその殺気を向けてきた人物を見るとそこには黒髪の男が一人。

「クロロ。ごめんなさい。どうやら御迎えが来ちゃったみたい」
「という事はゾルティック家の・・・?」

困った笑みを浮かべた彼女がその人物へ手招きをしたどうやら本当にゾルティック家の人間らしい。
手招きされたその人物はの目の前までに静かに歩み寄ってきた。

「イルミ。久しぶりね。元気にしてた?」
「久しぶり。姉さん。元気だったよ。姉さんも元気そうだね」
「ええ。で、今日は私を迎えに来たって事で合ってるのかしら?」

から話は聞いていたが本当に無表情な弟なのだなとその様子を見守る。
それでもにとってはとても姉思いの優しい子だと言っていた。
確かにの事をとても大切にしていると言うのは見て取れる。
だが、これは姉と言うよりは一人の女として見ているのではと思えた。
それ程までに異常な執着心、独占欲、そんなものが感じられるからだ。

「うん。俺の独断だけどね。
本当は大分前から捜してたんだけど見つからなくて今日になっちゃた。
それってもしかしてその男と一緒に居たからなの?っていうかその男誰?」
「イルミ。そういう言い方は失礼でしょう?」

やっぱりこれは確定だなと思う殺気を浴びながら俺はに笑って見せた。

。俺は別に気にしていない。からは話を聞いている。
俺はと一緒に旅をしていた友人のクロロ=ルシルフルだ。よろしく」
「・・・ふーん、聞いてるなら名前はいいよね?よろしく」

差し伸べた手を取って握手はしてくれたものの異常な力を込められる。
俺は若干の苛立ちを抑えながらそれに力を入れ返して離した。
そんな水面下の戦いに気づいてないは微笑みながらイルミに向き直った。

「取り合えずイルミが来てくれたなら一度帰らないとね。
クロロ、ごめんなさい。こんな突然の御別れになってしまって」
「いや、構わない。結構色々な所を回れたし、何よりと一緒で楽しめたからな」
「それなら良かった。じゃあ、今度は私の家にも遊びに来てね?」
「ああ」

隣の弟は絶対に来るなって顔をしているけどな、と思いつつ、笑顔で頷く。
すると、は最後に俺に抱きついてそっと両頬にキスを落とした。
彼女からのスキンシップはとても珍しく驚いていると彼女はにっこりと微笑み、
ありがとう。旅団の皆にも宜しく、と告げてイルミの手を引き歩き出した。
最後に向けられた物凄いイルミの殺気を受けて漸く我に返ると俺は思わず口元を押さえる。
全くもって完敗だと。

「全く厄介な人物に本気になったもんだ」

誰にも聞かれる事のない呟きは彼女の瞳によく似た空へと消えていった。