が主席総長となって数週間が経った。
初めの内こそ唐突に主席総長になったに対して不満を持つ者が多かったが
それも数日過ぎれば過半数が主席総長になった実力を認めざる終えなくなっていた。
天才的な手腕により導師イオンの右腕となり、前導師崩御による混乱を沈静化させていき、
完全な統制を迅速に整えるべく末端の人間とも面会し、教団内の人員を再構成するという大事まで為したのだ。

「全く前導師エベノスは何をしていたんだ?統制も全然整っていないではないか・・・」

心の内で毎度毎度思うがと溜息を吐く。
そして、再び立ち上がると仕事の時とは違う更に厳しい顔で窓を見た。

「今夜辺りか・・・」






Desire 04







外に出たは少し肌寒い外気に少し身を震わせる。
だが、それよりも気がかりな事がある為、すぐさま足を進めた。
そして、気がかりな事の正体である一人の少年は木々の影に隠れて体を抱え、座りこんでいた。
寒空の下、薄着で居た為かはたまた違う理由かは判らないが微かに震えているのが視認出来た。
は気配を消してそっとその少年に自分の上着を背に掛けてやった。
唐突の事に驚いた少年は勢いよく顔を上げてこちらを見た。
あまりの事に呆然として流れる涙を隠す事無く目を見開いて見上げてくる。
悲しみと絶望に染まったその瞳があまりに可哀想では顔を歪めた。

(助けようと思えれば助けられた。だけど、私はしなかった。)

目の前の少年の悲しみを糧にその他大勢を救う道を選んだ。
だから、少年の心を絶望に染めた要因は自分にもあるのだと思い、
少し瞳を伏せた後、そっと彼に近付いて優しく壊れ物を扱う様に抱き寄せた。
少年にこれから向ける優しさは単に自分が赦されたいと願うエゴなのかもしれない。
それでもこのまま彼を放ってなど置けなかった。

「すまない。私にもっと力があればお前を苦しめる事もなかったろう」
「あんたは・・・?」

不思議そうに呟いた少年に抱き締める力を緩めて顔を合わせて告げた。

「私は。一応教団のものだがお前を攫った者達とは違うよ。その証拠がある訳ではないがね」
「・・・だけど、あんたはあいつらとは違う。俺を見る目が違う」

涙を拭いながら子供ながらに思った事を口にする少年にはそうかと小さく呟いた。
そして、炎の様な激しい紅の髪を一撫でする。

「私はお前が"ルーク"である事を知っている。でも、戻してやる事が出来ない」
「そう、だろうな。俺の居場所はもうなかった・・・」

幼さと正反対の皮肉めいたその言葉に眉を歪めながらも今彼に伝えるべき言葉を紡いだ。

「・・・もし、お前が良いならば私がお前の新しい居場所になってやりたい」
「・・・!?」
「お前がよければの話だがな。嫌ならば他に何かを考えよう」

は決して無理強いはしなかった。
戻る事は出来ないながらも最良の選択肢を用意して少年自身に選ばせようとした。
聡明な少年はそれを理解して少しの間考えた。
決しての申し出が嫌な訳じゃなかった。
目の前のは優しく自分を思ってくれている。
まるでバチカルに居る母の様に優しく慈しんで自分について考えてくれている。
何故、初めて出逢った自分にそこまでしてくれるのかは判らない。
単なる同情なのかもしれない。
だが、それでも絶望に染められた心にはその想いがとても心地良く優しく染み渡った。

(同情でも構わない・・・今は、この人と居たい。)

そうしなければきっと自分は壊れてしまう様な気がした。
縋りつく自分が見っとも無く愚かに思えたけれど静かにその手を取った。

「・・・あんたがいい。他の奴は嫌だ」
「そう、か。お前がそう望むなら好きにするといい。そうと決まれば次は名前だな」
「・・・アッシュ」
「え?」

小さく呟かれた声に首を傾げて尋ねると決意を露にする様に少年は力強く告げた。

「俺はもう聖なる焔―――ルークじゃない。だから、聖なる焔が燃え尽きた灰と言う意味でアッシュにする」

過去を捨て生きるのだと自分を戒める様に自分につけた名前。
こんな幼い子にそうさせる道しか提示してやれなかった自分に胸がズクンと痛んだ。

「お前がそう決めるならば私は異論はないよ。
じゃあ、アッシュ。ここに何時までも居ては風邪を引いてしまう。部屋へと行こう」

手を引き、立ち上がるとその小さな背を押しては歩き出した。
アッシュはその優しく触れる手にまた心が温かくなるのを感じて小さく頷いたのだった。