「二人とも攻撃が手緩い!本気で向かって来なければ逆に怪我をするぞ!!」

神託の盾(オラクル)騎士団の本部がある教会地下の更に深層階にある鍛練場にてが激を飛ばす。
アッシュとアリエッタは少し息を乱しながらも再び攻撃を仕掛ける。
素早い身のこなしでに向かって上段から剣を振り下ろすアッシュ。
しかし、の長刀により片手で薙ぎ払われ、もう片方に握られていた譜銃によって頬に傷が走る。
だが、そこで怯まずに一時後退するとアリエッタが詠唱していた譜術を発動させた。

「――イービルライト!!」
「グランドダッシャー!」

詠唱省略の低威力譜術であっさりと相殺してしまった所では武器をしまった。
それは今日の訓練の終了の合図だった。






Desire 05







「今回の訓練で解ったと思うがチームワークは隊にとって最も重要だ。
アッシュ、先程、アリエッタの詠唱中に何の譜術が来るかどうかは判っていたか?」
「・・・ああ」
「ならばそれを考慮した上で先程は後退すべきだったな。
イービルライトは前方へ向けて発射される譜術。
ならば右や左に避けれればもっと早い段階で譜術が発動出来ただろう?」

的確な指摘にアッシュは押し黙る。
そして、は評価を待っているアリエッタへと向き直る。

「で、アリエッタはもう少し詠唱が早く出来る事が大事だな。
それと音素のコントロール力を高めれば譜術の威力も上がる筈だ」
「・・・はい、です」

アリエッタも自分の指摘された部分の甘さを理解していたのだろう少し溜息を吐いて落ち込む。
そんな二人を見ては微笑むと二人に歩みより優しく頭に手を置いた。

「だが、先日の特訓より格段と実力が上がっている。
二人ともちゃんと訓練を積んでいたようだな。その調子で頑張るように」

わしわしと撫で回すとアッシュは顔を背けて不機嫌そうに口を開く。

「・・・子供扱いをするな」
「そんな事言ってアッシュ、顔赤い、です」
「うるせぇ!」

アリエッタも嬉しそうに微笑んでいたがアッシュの生意気な言葉にツッコミを入れる。
図星だったアッシュは声を荒げたがの宥める声にその怒りを静めた。

「さて、これから私は昼食を取るがお前達はどうする?」
「私、もう少し特訓するです!」
「俺もまだ直したい部分がある」

二人が意欲満々でそう告げるたのでは一人食堂へと向かう事にした。
食堂はお昼丁度なせいもあり、人でごった返して居た。

(多いな・・・そう言われてみればこんな時間から昼食を取るのが久々だしな。
仕事が忙しいせいもあるがアッシュとの一件以来ヴァンとの駆け引きで疲れて寝てる場合が多いし。)

アッシュを自分の元に置いた事によりヴァンがを警戒しているのは目に見えて明らかであった。
だが、今はイオンによる協力により処分されるまでには至っていない。
イオンがを気に入っているのは周知の事実である事が大きな要因となっているのだ。
それにアッシュが何者であるかどうかを知らないとアッシュ自身にヴァンに伝えて貰っているのも一つであろう。

(今は均衡を保っているがヴァンとの関係はいつも綱渡り。
一歩間違えれば全てが駄目になるのだから上手くいってくれるといいのだが・・・)

困ったものだと溜息を吐くとお盆の上に置かれたオムライスを持って席を探す。
しかし、どこもかしこも人だらけで座る場所が見つからない。
は席を探して食堂の奥へと向かった。
すると、ぽつんと一人座る男の姿が目に入る前にその隣の空いた席が視界に入った。

「なんだ。空いてるじゃないか」

思わず呟いて空いた席に向かった。
そこで漸く隣に誰か居るのに気付くと声を掛けた。

「すまないが隣いいだろうか?」
「!?」

のその一声に座っていた男は飛び上がらんとばかりに肩を上下に揺らした。
奇怪な反応をされては一歩思わず下がるがよくよくその男を見て気付く。

(あ、なるほど。空いていると思ったら座っていたのがディストだからか。)

ディストはまだ声を掛けられた事に硬直しているらしく反応がない。
仕方ない奴だなと苦笑しつつ、もう一度声を掛けた。

「おい。大丈夫か?座ってもいいと判断するぞ?」
「え!?」

返事を聞く前には空腹がピークに達して御盆をテーブルに置いて座った。
隣のディストはまじまじとを見て目を丸くするがは気にせずに食事をし始めた。

(ここの席に座って数年初めて声を掛けられた!!それもまさか主席総長に!?)

何食わぬ顔で食事をするの隣のディストは何が何だか判らないと混乱したまま見つめ続ける。
の事は幸い知っていた。
余り他人に興味を持たないディストであるが
の異質さはジェイドと似たものがあると感じており、それで覚えていたのだ。
まあ、それだけではなく、美人で聡明で実力のある総長として
噂が絶えないであるから何度も聞いている内にというのもある。

(それにしても初めて近くで見てみると綺麗ですね・・・)

恍惚とした溜息が出そうになる程の美貌に見入っていると
空腹が解消されて気付いたが居心地悪そうにディストに振り返った。

「・・・あまり見られると食が進まないのだが?」
「はっ!す、すみません。教団に入ってからずっとこの席に座っていて初めて声を掛けられたものですから・・・」
「そうなのか?ディストは譜業のスペシャリストと言っても過言ではない実力を持っているのにな」

ただ、少しセンスがあれだがと思いつつ、素直な感想を口にするとディストは再び驚いて目を丸くする。

「な、何故、私の名前を!?」
「いや、一度面談しているし、さっきも言った通り教団の実力者だろう。覚えているに決まっている」

きっぱりとそう言いながらも一度された面談だけで顔と名前を覚えるだけでも凄いと素直にディストは思った。
正直、言えばそれは常人に為せる技では無いだろう。
だが、しかし、元より天才だと噂の絶えないだ。
ディストは噂通りの才女でジェイドに似ているものを持っていると感じるだけであった。
は話を中断すると最後の一口を口に入れてスプーンを置いた。
そして、ごちそうさまと小さく呟くと時間を見て立ち上がる。

「さて、そろそろ仕事に戻らないとな。ディスト、これも何かの縁だ。
今度時間のある時に譜業技術についての話を聞かせてくれ。それじゃあな」

肩をトントンと叩き、微笑まれたディストは顔を一気に朱に染めながらも力強く首を縦に何度も振った。
はその挙動不審さも変わった奴だなと思うだけで留まり、何事もなく去っていた。
その後ろ姿をディストは居なくなるまでずっと眺めていたのだった。