アイオリアに認められたその後、達は足早に処女宮に向かった。
アイオリアはに抱きつかれたのがあまりに刺激的だったのか、放心状態だったため、その場に放置してきた。






GARNET MOON

第十一話 十二宮突破!!第六の宮・処女宮







「ねえ!アイオリア、ほったらかしでいいの?」

は心配そうにそう聞く。
すると、ムウがにこやかに笑った。

「大丈夫ですよ。体力だけがとりえですから風邪などは大丈夫ですよ」
「というか聖闘士がそう簡単に病気とかなんねーだろ?」
「それはそうだろうな。車とかに轢かれたとしても大破するのはあっちだろうしな」
「(なんか全国びっくり人間大集合って感じ・・・・)」

はそう心の中で突っ込んだ。

「それはいいが、次の処女宮はすんなり行くか?」

カノンがため息混じりに告げる。
ムウやデスマスクも曖昧な表情を浮かべる。

「確かにそうですね。なんせ自分の顔を引導代わりに死ねという方ですし・・・」
「(自分の顔を引導!?)な、なんか凄そう。)」

は少し不安を覚えながらも処女宮へと向かった。
というか不安にならない事の方が少ない。
処女宮に着くとは叫ぼうとしたが三人に自分たちが呼ぶからと止められた。

「シャカ!いるのでしょう?でてきてくれませんか?」

ムウがそういうとしばらくして静かな足取りでこちらに向かってくるシャカが見えた。

「私は新しい射手座の黄金聖闘士が来ると聞いていたのだが・・・何故君達がいるのかね?」

シャカは釈然としないといった感じで言った。

「(目、目を瞑ってる!!見えてるのかな?)」

はそんな事を考えながらシャカに見入った。

「彼女だけでいきなり十二宮なんか歩かせれますか?ただでさえ奇人変人が多いんですから」
「(おい、カノン。あれって絶対に自分の事は入れてねーよな・・・・)」
「(ああ、あいつも十分奇人変人だというのに・・・特に眉が・・・)」

二人は脳内でとりあえずムウに突っ込んだ。

「ふむ。確かにそうだな。このシャカを除いて皆変わっているからな」
「「「お前が(あなたが)それをいうな!!!」」」

アテナエクスクラメーション並みに三人は綺麗にハモった。
シャカは納得いかないという顔で三人を見る。

「どういう意味かね?まあ、いいだろう。ところでその小娘が新しい射手座の後継者なのかね?」

は急に自分の話になって動揺しながらも小娘と言われた事に不快感を覚える。
どうにもは見下されるのは嫌いらしい。
だが、何とか笑顔を浮かべると棘のある自己紹介をする。

「どうも初めましてっ!!です!!生憎ながら小娘ではありませんっ!第一自分が一番まともとか絶対に嘘でしょ!!」
「なに?」

何となく嫌な予感がしてきた他の三人。
先程のコートの件辺りからの苛立ちが小娘をきっかけに爆発したらしい。

「自分の格好鏡で見た事あるの!?ええ!?なんか知らないけどモデル立ちだし、寝てんだか起きてんだか判んない顔して!
第一そんな似非仏陀っぽい顔して態度はデカイし!聖衣だってデスマスクと同じ位可笑しいじゃない!そんなに尻強調してどうすんのよ!」

今までの鬱憤全てを詰め込んだマシンガントークに面々はしばし唖然とする。
復活が早かったのはシャカより他の三人の方であった。

「聖衣はしょうがないですよ・・・」
「俺の聖衣はそんなに変か?」
「「ええ(ああ)、特に頭部が蟹ですから(だからな)」」

三人はそれぞれ突っ込んだ。
シャカはというとこめかみを震わせながらを見た。

「君のような口の悪い小娘は初めて見たよ。
このシャカに向かってその汚い言葉はなんだね?そんなに私が気に喰わないかね?」
「ええ!気に喰いません!自称神に近い男なんて胡散臭くて信じられますか!」

はもう完全に切れていた。
シャカも切れる数秒前といったところだ。
二人は対峙し合い、そのまま一歩も引かない。

「これ、どうしましょうか?」
「どうするも何も・・・・」
「止めれるのか?」

三人はどうする事できずに立ち尽くす。

「いいだろう。ならばこのシャカ直々にあの世に逝かせてやろう!我を畏怖し、崇めるが良い!」
「誰が崇めるか!ボケ!」

二人は揃って戦闘態勢に入った。

の奴口調が変わってるぞ?」
「よほどストレスが溜まっていたようですね・・・誰かさん達のせいで」
「「俺たちかよ!?」」
「よくわかってるじゃないですか」

すっぱりきっぱりとそう告げた所で真面目な表情を浮かべてムウが二人に言う。

「どうしてもが危なくなった場合はなんとしても助け出しますよ」
「わかっている」
「当たり前だろうが」

そんな三人を尻目に二人は対峙し続けた。

「さぁ、覚悟したまえ!天舞法輪!オーム!」
「なに・・・?これ?」

思わずはシャカの小宇宙によって作り出された空間の異様さに驚いた。
むしろこれがシャカの脳内なのか?と少し疑問に思ったらしい。
天然ボケ度合いはキレていても発揮されるのであった。
が、そんな事を考えていられるのもそこまでだった。

「君が疑問に思っている事などすぐに消え失せる。このシャカが今から全ての感覚・・・第六感をも奪ってやろう」
「何・・・・?きゃあ!!」

は奇妙な感覚に襲われた。
ドクっと小宇宙を感じた時とはまた違う感覚。
それは、まるで数年前のあの時と同じだった。

「まずは視覚。そして・・・次は嗅覚」

だが、その感覚を感じている間にもシャカはどんどんとの感覚を奪っていく、そして残り一つとなった。

「ムウ!まずいのではないか!」
「本気だぜ!シャカの奴!」
「ですが・・・何やら壁のようなものに遮られているのです!!」

その壁が一体何なのかも解らずなす術もない三人は見守るしかなかった。

「これで最後だ」

その言葉と同時にの全ての感覚が消え失せる。
通常ならば狂いそうなその状態では意識を保っていた。

「(ワタシハ・・・・ココデ・・・オワルノ?)」

虚無の無音の闇の中で静かに感じるこれはあの日、兄を亡くしたあの日に感じた時と同じもの。
その名は、絶望。
同時にの脳裏にあの記憶が蘇る。
目の前に広がる血の海。
そして、血に汚れた自らの手を。
冷えゆくその骸を抱え、血の海に溺れていた自分を。
二度と感じたくなどなかった感覚にの身体は熱を持つ。
そして、身の内から響く声。

『再び身体を借り、舞い降りよう。貴女を護る為に。』

その瞬間、の中で何かが弾けた。

「何事だ!?この小宇宙の異常な高まりは!?」

シャカは思わず驚いてを見た。
の周りに強大な小宇宙が渦巻く。

「なんなんだ・・・あれは・・・!」
「!壁のようなものが消えている!!」
「近づいてみるぞ!!」

そういって三人はシャカたちに近づいた。
は身体を起こした。
シャカはその姿に息を呑んだ。
その姿はまるで神のような神々しさだった。

「君は一体何者なのだ?六感全てを失った筈なのに何故!」

が目を開けたその瞬間、の青い瞳は金色へと変わった。

「人の子よ。そなたに問う。我を何と捉える?」
「どういう事だ?」
「その答えがわからぬならばそなたはこの娘には勝てぬ」
「どういう事だ?君はいったい?」
「我は全であり一である。そなたらが知るのは暫く先の事。時は巡る。運命の時へ、覚醒の時へと」

そういうと同時には元の瞳の色に変わり、そのまま地へと体を倒した。
倒れる瞬間にシャカは手を伸ばし抱き止める。
の髪を掻き揚げながら呟いた。

「君は一体何者なのだ・・・・?」

その呟きは今のには聞こえなかった。
の意識は精神世界に留まっていた。

「ここは・・・どこ?」
「ここはあなたの精神世界」
「だれ!?」

は自分とは違う声に驚き、声のした方を見る。
そこには一人の女性が立っていた。
女性はとても慈愛と慈悲に満ち溢れていてどこか神聖な空気を纏っていた。

「私は貴方であり、貴方ではないもの」
「どういうこと・・・?」
「しいていうなら前世の人格」
「前世?」

は漠然とした言葉に首を傾げる。

「そう、かつて私は女神と呼ばれていた。貴方は私。いずれ運命の時が来る」

その言葉と同時に謎の女性の姿が遠くなる。

「待って!!一体どういう事なの!!」
「いずれ解る。でも、私は貴方の味方。私は貴方なのだから・・・」

その言葉と同時には光に包まれた。
が目を開けるとムウが心配そうにの顔を覗いていた。

!大丈夫ですか!?」

「私・・・そうだシャカと戦って・・・それで・・・」
「そうだ。君はこのシャカの天舞法輪を破ったのだよ」

シャカのその一言を聞いてが勢いよく起き上がる。

「え?嘘!」
「本当だ。ここにいる全ての人間が証人だ。そして、私も君を新しい射手座の黄金聖闘士と認める」

シャカはそう言って微笑した。

「ありがとう・・・」
「礼などいらぬ。君は自分の力で証明して見せたのだから。今までの非礼はこの通り詫びよう」

微笑みながら頭を下げるシャカ。

それを見た面々は驚き、固まる。

「(あのシャカが謝罪の言葉などと!!一体何があったのでしょうか?)」
「(むしろ気味悪いの通り越して怖いぜ・・・)」
「(ああ、あの自称神に近い男が謝るとは・・・あまつさえ微笑んだぞ?)」
「君達、全て聞こえているのだがね?それとも五感を奪われたいかね?」

シャカは怒りながら三人を一瞥した。

「(この少女に秘められた力がいか程かはわからぬ。アテナにも似ていてそれ以上の小宇宙。
まるで全てを愛し、慈しむ神聖なる小宇宙。この少女に如何ほどの運命が待っているというのであろうか・・・)」

シャカはそう思いながら静かにを見つめ続けた。
一方、はあの声の主が一体何なのか。
ここに来て急激な変化に戸惑いを覚える。
けれども、今はただこの幸せな時を過ごしたいと心から思った。
第六の宮・処女宮も突破!続いては第七の宮・天秤宮!<