闇の中をふわりと漂っている感覚に襲われる。
暗くて怖い筈なのにそこは優しく温かく安心できた。
何故だかわからなかったけれど。
きっとそここそが私のあるべき場所だったかもしれない。
私は、あの戦いで自分の本当の姿を理解したのかもしれない。
GARNET MOON
第三十四話 今はまだ何も知らぬ少女で居たい
目が覚めると私はあの闘技場ではなく誰もいない自分の寝室に居た。
たぶん、いきなりの力の解放に身体が追いつかなかった為に眠ってしまったのだろう。
私はゆっくりと起き上がり聖域が見渡せる部屋の窓の前にまで歩み寄った。
見える景色を見て私はここにまだあると実感する。
彼女が教えてくれた。
私の中に居る彼女が。
それはあまりにも重過ぎる真実。
まだ受け入れるには心が幼くて。
私はその真実を拒否していた。
いつかは受け入れなければいけないとわかっている。
でも、今はまだ何も知らぬ少女で居たい。
確かにもう昔みたいに学生をしていた頃の普通はないけれど。
それでも、温かな仲間のいるこの居場所にあの真実を知らなかった時のままで居たい。
今はまだ、もう少し受け入れる準備がしたいから。
私はそう思い、瞳を閉じる。
そして、静かに淀んだ心と記憶に蓋をした。
それはいつかは開けなければならない。
ただそれが今ではないだけ。
そう自分に言い聞かせ私は着替えを済ませると外に出た。
一人で居たくなかったから。
自宮の入り口に出て見ると誰かが入り口の柱にもたれ掛り座りこんでいる。
少し灰色がかった髪が見える。
タバコを吹かし、両手と額に包帯を巻いている。
「デスマスク?」
「・・・おぅ。目が覚めたかよ?」
呼びかけに気付いたデスマスクはこちらに視線だけを向けた。
私はそれを見てデスマスクの隣まで行き、座る。
「うん。そういえばデスマスク大丈夫?私、派手にやっちゃったみたいだけど・・・」
申し訳ないといった感じで言ってみればデスマスクは頭をぐりぐりと撫でまわして言った。
「気にすんな。元々模擬戦闘だ。怪我をして当たり前だろぉーが。
てめぇは無傷だけに腹立つけどな。・・・まあ、大方お前の中に居た誰かが治したんだろうけどよ」
その言葉に私はどきりとしてデスマスクの方を凝視する。
「・・・会ったの・・・?私の中の誰かと・・・・?」
「・・・・会ったって言うかどうかは微妙だけどな。お前、もう気付いてんだろ?あいつが誰なのか・・・」
デスマスクはあまりにも私の心を見抜いていて驚いた。
私はどういえばいいのかわからなくて
迷っているとデスマスクが再びポンポンと頭を撫でる。
そして、ぶっきらぼうに口を開いた。
「別に無理に答えなくてもいいぜ。・・・まだ、答えが出せてねぇんだろ?」
「・・・うん。私は・・・本当はもうわかってる。
でも、まだ受け入れるには知った真実は大きすぎてきっと今のままじゃ壊れると思う」
「・・・そうか。なら、俺は何も知らねぇし、何も見てねぇ。
だから、今はまだ自分の心に閉まっとけ。でも、いつか必ず受け入れなきゃ行けねぇ事を忘れんなよ」
私はその問いにこくりと頷いた。
それと同時にデスマスクの優しさが嬉しくて思わず泣きそうになる。
するとそれを見たデスマスクが頭を小突く。
「なーにてめぇ泣きそうになってんだよ!」
「だぁってぇ!!!デスマスクが珍しく優しいからぁああああ!」
「だぁあああ!!泣くなっての!!こんなとこシュラ辺りに見られてみろ!!ころさ・・・」
デスマスクが宥めながら「殺される」と言おうとした瞬間、自分の喉元に寒気が走る。
それは誰かの手であり、デスマスクにとっては誰だか理解することは簡単であった。
後ろから溢れる殺気に冷や汗を流しながらもゆっくりと振り返る。
「シュラ・・・てめぇ、俺は何もしてねぇえええ!!」
「黙れ。この下賤蟹。泣かせている事実は明白だ」
「だから俺のせいじゃねぇええ!!」
必死の弁解もシュラの耳には届かない。
日頃の行いの悪さのせいだろう。
「ってか!!てめぇ、少しは止めろよ!!」
「だ、だってデスマスク信用なさすぎっ!!あはははっ!!」
「てめぇ、シバクぞ!!」
笑い出したに向かって青筋を立てるデスマスク。
そんなデスマスクに向かってシュラが一閃する。
「エクスカリバー!!!」
「ってうぉおおお!!シュラ!!ってっめ!バッカ!!俺は怪我人だぞ!?
危ないだろうがぁあああ!お前、今俺のせいじゃねぇってわかっててわざとやっただろ!?」
「ふん、なんのことだ。ただ、手元が滑っただけだ」
しらじらしい嘘をつくシュラに向かってデスマスクは拳を震わす。
「てめぇ、おもいっきし叫んでただろうが!!技をよぉお!!」
「まあまあ!避けれたんだしいいじゃない!っていうかシュラは心配して来てくれたんだよね?ありがとう!」
がそう笑うと「別にかまわん」と言って少し頬を染めるシュラ。
それを見てデスマスクが「態度がちげーすぎるんだよぉ!!」と叫ぶ。
がそれに対して苦笑しながら二人の手を取る。
「まあまあ!喧嘩はダメだって!ほら、朝食ごちそうするから行こう!」
「あ、ああ」
「ったく・・・わかったよ!てめぇ、シュラ後で覚えて置けよ!」
そういうと三人はを中心にして手を繋ぎながら人馬宮の中に消えて行った。
今はまだ、このままで居たいというの願いを残して。
○オマケ○
「おいっ!シュラ!てめぇ、ソーセージとってんじゃねぇーよ!」
「ふん、隙を見せるお前が悪い」
「普通大の大人が人のおかずを取るなんておもわねぇだろうが!」
「偏見だ。・・・なっ!貴様、人の目玉焼きを取るなっ!!」
「仕返しだ。バーカ」
「・・・・あーもー!!ご飯ぐらい静かに食べてよねっ!!!」
ビゴッ!ビゴッ!!!
「「・・・〜〜〜!!!」」
「・・・それ、威力増し過ぎだろ!!!」
「・・・・っっ!」
「だって小宇宙を込める加減をマスターしたから
いくらでも威力倍増できるようになっちゃって。ほら、もう殴られたくなかったらさっさとご飯を食べる!!」
「わかった」
「ったく、わかったよ!」
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