あの闘技場からの一件以来、聖域の騒動は一応収まった。
けれど、俺はそれは表面上だけだと思う。
神と対峙した時に感じた壮大な小宇宙と同じ小宇宙をから感じたのだから。
誰もが口には出さないがきっと不思議に思っている。
そして、その全ての疑問の答えはきっと自身が握っている。
そんな気がしてならなかった。






GARNET MOON

第三十五話 蒼の憂鬱と指輪







「あれぇ〜カノン!なんか久々な感じだねぇ〜」

思案しながら歩いていたら疑問の張本人に出会った。
しかし、悟られることのないよう俺はいつものように接する。

「なーにが久しぶりだよ!このっ!」
「うわっ!!ちょっと頭ぐちゃぐちゃになるって!!」

頭をぐちゃぐちゃと撫でまわしてやるとは少し逃げながらも笑顔を見せる。
いつもと変わらない笑顔。
そう見えた。
けど、何かが違う気がする。
そう、それはとても些細な事であって気にする程の事じゃない変化なのかもしれない。
けれど、俺はそれが不安で仕方なかった。

「もー!カノンのせいでぐちゃぐちゃになったじゃない!」
「ははっ!油断を見せるお前が悪い。というか何してるんだ?今」

手櫛で髪を直すに俺は尋ねて見る。
すると、は元気よく「散歩だよ!」と答えた。

「そうか。最近頻繁に外に出てるのか?」
「あ、うん。まあね。なんだか身体動かさないと落ち着かなくて。修行の反動かなぁ?なーんて!」

半分本音と言った所だろう。
本当はきっとは自分の見知らぬ力に恐れを抱いているのかもしれない。
否、全てを知っているがゆえに恐れているのかもしれない。
俺の中の何かがそう訴えかけてきた。
それは本当にただの勘で確信も何もない。
けれど、何故か俺はその答えが一番しっくりくると思ったのだ。
しかし、今告げてみてもいいものかと迷った結果。
やはり確信がない事もあり、疑問は心に留めて置くことにした。
そして、俺は笑顔を浮かべるとの手を引いた。

「じゃあ、これから昼飯つき合えよ」
「ちょ!もう!カノンのおごりでしょうね?当然」
「それぐらい奢ってやるよ」

互いに笑いあって冗談めかして言い合う。
この間にも俺の中で何か彼女に違和感を感じてしまう。
それは些細なことなのだ。
しかし、違う何かがある。
だから、俺はどうしようもなく不安になり彼女の手を握る力を強めた。
どこにも行かすまいとただそんな願いを込めて。
それほど、俺が感じた彼女はどこまで儚い今にも散り逝く白百合のようだったのだ。
俺達はそれから他愛もない話をしながら街へと出た。
最近、聖域にばっかり居たらしいにとってはいい気分転換になったのだろう。
昼飯を食べた後もはしゃぎまわり、色々な店を見て回っている。
誘ったのは俺だが一番楽しんでいるのはだ。
まあ、そんなところもらしいと言えばらしいが。
そう思いふと笑いを零すとがこちらに詰め寄ってきた。

「あー!今なんか笑ったでしょ?」

少し不機嫌そうに言うに俺はまた込み上げてくる笑いを抑える。

「そんなことない。まあ、しいていうならば子供っぽいなぁーって。イテッ!」

どうやら言動がお気に召さなかったようで横腹を拳で殴られた。

「子供扱い嫌いだし!ってかそういうカノンこそいっつもサガと幼稚な喧嘩してるくせにー!」

が茶化すようにそう言ってくるものだから頬を引っ張ってやった。

「いはぃ!!なにふんのほぉー!」
「何言ってんのかわからんな。おっ、それよりあの露店見てみろよ。中々お前の趣味にあったのが売ってるんじゃないか?」

俺がそういうと先程まで怒っていたのは何のそのバッと走って行った。
それを見て俺はまた笑いを漏らす。
が、見失わないように足早にの後を追う。
そんな自分を俺は嘲笑した。
本当にどこまでに惚れているのだろうかと。
するとその思考から離すかのようにが俺の腕を引いた。

「カノン!カノン!あれ見て!!」
「あ?あれか・・・?」
「そうそう!綺麗じゃない?」

が指したのは指輪だった。
煌く蒼の石が細身のシルバーリングに小さく埋め込まれている。
本当に繊細なデザインのリングだ。
それを見て目を煌かせる
なんだか宝物でも見つけた子供のようだ。
俺はそんなを見ているうちに露天の亭主にこう告げた。

「おい、このリングをくれ」
「えっ!?カノン!?私、そんなつもりじゃぁ・・・」

目を見開いて驚くに俺は微笑を浮かべて言った。

「いいから日頃頑張ってるご褒美だと思って受け取れ」

はまだ言いたそうだったが亭主に金を払い、に手渡す。
手の平にちょこんと乗ったリングを見るとは困った顔から笑顔に変わった。

「うーん。じゃあ、ありがたく貰う。ありがとね!カノン」
「ああ、いいからつけてみろよ」
「あ、うん」

そう言うとは左手の中指にその指輪をはめた。
自分の指を見てご満悦そうに笑う。
その姿を見て俺も思わず嬉しくなる。
だが、から予想外の言葉が紡がれた。

「やっぱりこの指輪の石の色ってカノンの髪と瞳の色みたい」

俺はその言葉に思わず咽る。

「ゴホッ!!ゴホッ!!」
「だ、大丈夫!?」
「お前が、急に変なことを言うからだろうが!!」

激しく動揺する俺を見ては疑問符を浮かべる。
嗚呼、そうだったこいつはどこまでもこういう事には鈍かったのだと俺は痛感して項垂れた。

「あ・・・もういい。とりあえずそろそろ帰るぞ。サガたちが煩くなるしな」
「??うん」

それから帰路に着くまで俺はただの左手の中指にはめられた指輪の感触を感じる度。
ただ、満ちたりた気分になった。
彼女の指で光る俺の色を見て。
微かに頬を染めながら笑いを浮かべて。
ただ、ひたすらに彼女から与えられる幸せを感じていた。



○オマケ○

「カノン!!貴様かぁああああ!の姿が見えぬと思えば!!」
「なんだよ!?別にいいだろうが!それともお前はの親父かなんかか!?」

帰るなり激怒したサガに絡まれるカノン。
はそれを見てまたかと溜息をつく。

「俺はそんな大きな娘を持つような年齢ではないわぁああ!!」
「性格が老けてるから充分いるように見えるっつーの!!」

その言葉で互いに無言になるとサガがカノンを指差し再び告げた。

「カノン、やはりお前を生かしてはおけん!!宇宙の藻屑としてくれる!!」
「はっ!なるのはお前だ!!!この露出狂の変態!!」
「それを言えば貴様などミニスカではないか!」
「あれはスニオン岬で来てた服が荒波に揉まれてそうなっただけだ!!ボケ!!」

段々と話がズレてきている。

「やはり消えろ!!カノン!!」
「お前が消えろ!」

また、始まったと思った時だった。
の後ろにアイオロスが立っていた。

「あれ?、帰ってきてたのか。お帰り」
「あ、ただいま!アイオロス」
「また二人やってるのか」
「うん・・・飽きないよねぇー二人とも」

呆れたように溜息をつくとアイオロスが笑い声を上げた。

「ははっ!確かに。まあ、あれが二人なりの愛情表現なんじゃないか?」
「・・・そう、なのかなぁ・・・・」

小宇宙のぶつけあいをしている二人を見守るアイオロスとであった。