その日、二つの光の柱が天空に昇った。
一つは黄金の光、一つは白銀の光。
人の力と神の力を持った少女。
その少女が冥界へ旅立った日にその光は天空へ昇った。






GARNET MOON

第三十七話 創造神冥界降臨







薄暗く光が余り差さないその空間。
その場所にその日、真白の羽根が舞い踊った。
この現象に如何なる意味があるのか冥衣を纏いし冥闘士達は一抹の不安を覚えたが、
冥界の主たるハーデスはその意味を理解した様に静かに玉座に座した。
まるで誰かを迎える様に。
側近とも言えるヒュプノスとタナトスですらこの現象が一体何なのか判らずにいた。
そして、その現象が数時間の内に止むと玉座の前に一人の少女が姿を現した。
何の音も無く、静寂を守り、唐突と。
ハーデスの隣に控えていたパンドラはその少女を見て驚き立ち上がった。

「何者だ・・・!?」

問い詰め警戒する声を聞く事無く、少女は一歩一歩歩みを進める。
その姿にパンドラは息を呑んだ。
少女がただの少女でない事だけはパンドラにも判っていたから尚の事だ。
身の内から溢れ出す神々しい小宇宙。
しかし、神々の小宇宙とはまた違う神聖さと強さと慈愛、慈悲が感じられる異様な小宇宙。
近付く度にその小宇宙が肌を撫でゆくのでパンドラは思わず後ずさる。
だが、そんなパンドラの警戒を解く様に諭すハーデスの言葉が響いた。

「パンドラ。安心するがいい。この方は害を為す事はない」
「ハーデス様・・・?」

その言葉に立ち止まった少女。
ハーデスはそれを見て玉座から立ち上がると少女の下まで降り、あろう事か膝を折ったのだ。
驚くべき光景にパンドラは声を出す事もままならずただ見つめるばかりであった。
知ってか知らずかハーデスはそのまま頭を下げる。

「ガイア・・・いえ、様。ようこそ。冥界へ」
「ハーデス。他人行儀はいいよ。今まで通りで。これから暫くお世話になるね」

微笑んだ少女・・・はそう告げる。
ハーデスももそれぞれが状況を理解し合っているようだった。
パンドラはというガイアという単語を聞き、漸く状況が徐々にわかってきた。

「もしや・・・貴女が全ての創造主たるガイア様・・・」
「正しくはガイアの転生体。よろしくね。パンドラ」

実はパンドラは前もって以前地上より戻ったハーデスよりガイアの話を聞いていたのだった。
ガイアの転生体が地上に降り立っていると。
そして、その転生体は今まで以上にガイアの力を色濃く受け継いでおり、必ずや冥界に訪れるであろうと。
その理由が何なのかまでは聞いていなかったが状況は理解できた。

「パンドラ。が冥界に居る間はお前に世話を任す」
「は、はい。承りました。様。どうぞよろしくお願い致します」

はそれに微笑みを返すとハーデスにまた向き直る。
本題に入るつもりらしい。

「ハーデス。暫く時間が掛かるのね。神衣を目覚めさせるには」
「ああ。少々封印を複雑化しているのでな」

その言葉には苦笑を浮かべて懐かしむ様に呟く。

「相変わらず用心深いんだね。じゃあ、少し今日は休ましてもらっていい?まだ冥界の空気に慣れないみたいで」
「判った。パンドラ。部屋へ案内してやってくれ」
「はい。こちらへ。様」

目配せをしてパンドラに指示を出すとパンドラはすぐさまを促した。
もハーデスに手を振るとその場を後にする。
残されたハーデスはそっと物思いに耽る。

「やはりガイアが舞い降りたか。天界は、素直に黙っているだろうか・・・」

杞憂になればいいがと呟き自身も自室へと戻る。
ガイアが冥界に降り立った。
その事実がどれ程波乱を呼ぶか。
新たな聖戦。
それが幕開ける可能性が無い事もない。
何せ天界には主神としてのプライドが高いゼウスが住まっているのだから。
その頃、地上では・・・

「何で、何での姿がない!?」

当然の事ながら異変に気付いた黄金聖闘士とアテナである沙織がこの事態に血相を浮かべていた。

「それだけではなく射手座の聖衣自体もアイオロスの元に戻り、再び黄金聖闘士として認めている」
「よく判らないけれど久々にこの聖衣を纏って感じるものがある。
の残留した小宇宙だろうと思うんだけど。以前の戦いの場で感じた神の様な小宇宙。その色が酷く強い」

それぞれが意見を述べるながアイオロスがぽつりとそう告げる。
デスマスクはそれを聞いて何となく状況を理解したらしく、ゆっくりと口を開いた。

「なら、話は簡単だ。あいつの中にある何かが目覚めたんだろうよ」
「・・・・?如何いう事だ?デスマスク」

皆の視線がデスマスクに集まる。

と戦った時、あいつの中には誰かが居た。それは神の類のものだろう。
けど、あれは単なる神とは違う。格が違うというか何というか。は何か判っていたみてぇだけどよ」

その言葉にカノンがデスマスクに掴み掛かる。
胸倉を掴み壁に追いやると怒りの形相で口を開いた。

「何故それを隠していた!!」
が言わないで欲しいって言ったからな。本人の事だ。それを他人がとやかく言うべきじゃねぇだろうが」
「だからといってが一人で抱え込んで苦しんだ末に居なくなったとしたらどうするんだ!?」

何も出来なかった歯痒さもあり、カノンの怒りは止まる事がない。
それをそっと静かに紗織が制した。

「カノン。手を御放しなさい」
「アテナ・・・しかし・・・」
「命令です。放しなさい」

強くはっきりした口調でそう言われれば苦虫を潰した様に顔を歪めつつゆっくりと手を離す。
そして、定位置に戻り歯をぎりりと噛み締めながら拳を硬く握った。
静けさが辺りを包む。

「憶測で何を言っても無意味です。今は全力でお姉様を探す事に力を注ぎましょう」

紗織のその一言に皆が頷くと散り散りとなり、教皇の間は一瞬で静けさを増した。
一人の身になった紗織は瞳を閉じてそっとの無事を祈るのだった。