天窓から注ぐ朝日に目を静かに開ける。
今日から新しい日々が始まる。
全く予想のつかない日々が。





GARNET MOON

第五話 新たなる射手座の聖闘士としての覚醒







昨日、約束した通り沙織ちゃんと話を交わした応接室へと身支度を整えたがやってきた。
それに真っ先に気付いたカノンがを見て微笑む。

「おはよう。カノン」
「ああ、おはよう。お前、無駄に元気だな」
「失礼だな!カノンはだらしないよ?顔が」
「うるさい!」

まるで兄妹みたいなやり取りを楽しみながら朝の挨拶を交わす。
そして、暫くすると沙織が白いドレスを身に纏い、部屋へと入って来た。
その様子にやっぱり可愛いなと思わず笑みを浮かべる。

「おはようございます。さん。カノン。カノンと仲良くなったのですね」

挨拶をしながらカノンへ嫉妬の眼差しを送る沙織。
それに冷や汗を掻くカノンであるがは一向に気付く事なく沙織に微笑む。

「おはよう。沙織ちゃん。あ、それとも女神って呼んだ方がいいのかな?」
「いえ、そのままで結構ですわ!そちらの呼び方の方が親しい感じがして嬉しいですし、出来れば私はお姉様と呼ばせて頂きたいのですが・・・」
「お、お姉さま?」

頬を赤らめて恋する乙女のようにお願いする沙織には少しついていけてない表情を浮かべる。
カノンはというとこうなった沙織を止める術などないので傍観を決め込んでいる。
その間にも沙織はキラキラと瞳を輝かせてに詰め寄る。

「はい!ぜひそう呼ばせてくださいませ!!」
「あ、いや、その・・・」

どうすればいいのだと慣れぬ事にだらだらと汗を流し悩む。
すると、沙織は一転して今にも泣きそうな程悲しそうな表情を浮かべて尋ねた。

「それとも、嫌でしょうか?」

その様子に慌てふためく
一方、カノンははアテナの本当の姿を知らないからなとしみじみと思うのであった。
結局、最終的にはその申し出を受け入れる事となった。(半分はアテナの泣き落としのようなものだが。)

「沙織ちゃんがそう呼びたいならいいよ」
「本当ですか!嬉しいですわ。お姉様」
「なんか恥ずかしいな・・・」

そんなこんなで朝食を終えて、聖域に出発する事になった。

「ようやく到着、か」

目の前に広がるのは失われた楽園。
そう言っても過言ではない程の自然や動物達が溢れていた。
深い森と海によって囲まれたそこは古代の息吹を感じる。
今、その木々の中を抜け目の前には十二宮が聳え立つ。
これから私はこの石段を一つずつ踏みしめ、この聖域の頂上を目指す。
少しの緊張と新たな日々への期待感。
何とも言い難い感情が入り混じり、ただ呆然とその場を眺める。

「ええ、どうですか?聖域は」

沙織の言葉にはハッと気付いて振り返る。
微笑を浮かべた沙織に同じく微笑を返す。

「凄く綺麗な所だね。自然が一杯で見晴らしもいい。凄く気に入った」
「まあ、お前も好きそうだもんな。野生児っぽいし・・・イダッ!」

茶化すようなカノンの言葉に脛にの蹴りが炸裂する。
痛みにカノンは一瞬息を呑んだ。

「カーノーン!失礼な事言わない!」
「脛を蹴るな!いででで・・・」

微笑ましくその光景を見守っていた沙織だがふとカノンが痛がるのを見て沙織はと気づいた。
一般人。
それも少女に蹴られただけで痛みを感じる事など聖闘士にとってありえない。
例えばそれが身の内に強大な小宇宙を持ち、操る事が出来るならば話は別であるが。
漸くそこで一つの可能性に至った沙織はカノンに告ぐ。

「・・・ちょっと待ってください。カノン。本当に御姉様に蹴られて痛みを感じたのですか?」

至極当然な事を聞く沙織には首を傾げる。

「普通、痛くない?女の子に蹴られても弁慶の泣き所は。沙織ちゃん」

が、カノンは言われてみて漸く気付いた様子で自分の蹴られた部分を見る。

「いや、おかしい。俺は補欠とはいえ聖闘士だ。一般人が蹴った程度では痛みなど感じない筈。ましてやみたいな一般人の女性にだぞ?」
「もしや御姉様は聖域に来た事で身体に何らかの影響を受け、身の内にあった小宇宙の解放。更にはその小宇宙を無意識に操作しているのでは?」

沙織の発言に面々は目を丸くして驚く。
だが、沙織の言っている事は理論的には適っている。
しかし、自身の体に変化など無いがとまじまじと自身の体を観察する。
その時だった。
どくんと激しく心臓が脈打つと全身に巡る血が沸騰したかのように体が熱を持つ。
唐突の事には自分の身体を抱き、その場にしゃがみ込んだ。

「・・っつ!!!」
「どうした!?!!」
「御姉様!!」

急変したの様子に慌てて寄る二人。
は未だに激しく脈打つ心臓部分に手を当てて呟く。

「体が、熱い・・・っ!誰か、が呼んでる?」

その一言に一体どういう事かと顔を見合わせる沙織とカノン。
だが、その時ぐらりと何かの気配を十二宮から感じ、その方向へと思わず顔を向けた。
すると、十二宮の人馬宮から一筋の光が天に昇ったかと思うとの目の前に何かが落ちる。
それは、黄金に輝きを放っていた。

「これは!?」
「射手座の黄金聖衣・・・では、やはり御姉様が新たな射手座の黄金聖闘士!?」
「私が、射手座の黄金聖闘士・・・・?」

射手座の聖衣がその呟きに反応するようにきらりと輝きを放つ。
そして、の熱が全て引いていく。
落ち着きを取り戻した私は導かれるようにそっと聖衣に触れた。
触れた先に感じる熱。
それは先程感じた熱によく似ていた。

「私を君が呼んだんだね。この聖域へ・・・」

この聖衣の意志だけではないだろうかそう直感する。
カノンが心配そうにの表情を伺う。

「大丈夫か?
「うん。この子がずっと待ってたって」

慈しむようにそう告げるに沙織は尋ねる。

「わかるのですか?」

は何処か気まずそうに歯切れが悪く答える。

「えっと、私、昔から人以外のものとも話せるっていうか意志がわかると言うか・・・」
「まあ!そんな特殊な力を持っていたのですか?」
「何故言わなかった?」

二人に矢継ぎ早に尋ねられ、たじたじになっていく

「いや、言わなくても大丈夫かなーって」

本当は嫌われるのが怖かったんだ。
私は。

「お前は、そうやって・・・!」
「まあまあ、いいではないですか。カノン。それにしても素敵な能力を持っていらっしゃるのですね。御姉様は。羨ましいです」

予想外の言葉には驚き立ち上がる。

「え?それだけ!?普通、気味悪くない?」
「それぐらいがどうした。それぐらいで気持ち悪がってたらここではやっていけん。何せ変人の巣窟に近しいんだから」

カノンは忌々しげに呟きそれに付け足すように「兄貴とか蟹とか兄貴とか蟹とか」と呟く。

「いやいや、変人の巣窟って!凄く不安になるから止めて!先行きが超不安になるから!」

慌てるの肩を哀れむように叩くカノン。
不安は増徴するばかりである。
しばらくして落ち着きを取り戻した面々は改めて話を交わした。

「でも、これで聖域も安心ですわ。御姉様みたいな方が黄金聖闘士なら。肩の荷が一つ下りました」
「そっか。役に立てたなら良かった。あ、でも一応言っとくべきなのかな?これからはアテナに忠義を尽くすとか」

何となく呟いた言葉に沙織はに抱きつく。
急な事に驚きを隠せない様子のだったが少し距離を取り、沙織の様子を伺う。

「えっと、どうかした?」
「すみません・・・ただ、御姉様には今まで通りに居て貰いたいんです。私は、いつもアテナとしての振る舞いを努めてきました。
ですが、常にそれを続けていると息が詰まりそうで。せめて御姉様だけには甘えたいと思うのです。私の我が儘ですがどうかお願いできませんか?」

その言葉に漸く唐突な沙織の行動に納得した。
確かにそうだろう。
13歳の少女が自分より年上の者達を束ねて導かねばならない。
それが一体どんなに大変な事でどれだけプレッシャーを感じる事だろう。
甘えたくても上に立つ以上は甘えられない。
心の拠り所がないのはとても辛い事。
経験してきた私ならわかる。
それに、私はここで私のやれる事をやると決めてきたのだ。
ならば、このお願いを断る理由なんてない。
彼女に一体どれだけの事ができるかわからないけれど私に出来る事ならとは微笑み頷いた。

「わかった。正式の場を除いてはそうさせてもらうよ」
「判りましたわ。御姉様。・・・ありがとうございます」

まるで本当の妹が出来たみたいで思わず気恥ずかしくなり、声を上げて照れ笑いを浮かべる。
その様子をカノンを微笑ましそうに優しく見守っていた。

「あ!話がずれたけどこのままアスちゃん放っておく訳にもいかないよね。ねぇ?必ず君に会いに行くから今は眠っていてくれるかな?」

幼子に告げるようにそう聖衣に囁くと聖衣は再び光りを放ち、その場から消えていった。
本当に意思疎通が出来ているのだと見てみて実感するとふとカノンが声を上げた。

「アスちゃんって聖衣の事か?」
「うん。だってサジタリアスでしょ?だからアスちゃん」
「・・・。お前、ネーミングセンスないな・・・」
「そんな事無いよ!可愛いよね!沙織ちゃん!」
「ええ。可愛いと思いますわ」

カノンは分が悪いとそのまま口を噤んでしまう。
が、直ぐに話を変えようと口を開き皆に提案した。

「こほんっ。話は変わりますが射手座の黄金聖闘士として目覚めた以上は十二宮の聖闘士達にも顔を合わせしておいた方がいいのでは?」

その言葉に沙織は少し考えた後、こう告げた。

「そうですわね。ならばどうせ今から頂上まで上がるのです。十二宮全ての聖闘士には私が知らせて置きましょう。
顔合わせとたぶん何人かは御姉様の実力を見たいとでも言うでしょう。一応念の為、カノンを付いていかせましょう」
「顔合わせも兼ねて十二宮突破せよか」
「しかし、アテナの護衛は・・・?」
「大丈夫ですわ。もう聖域ですし。私は先に上に行ってお待ちしておりますわね。御姉様」
「うん。頑張って来るよ。待っててね」

の言葉に頷き、沙織は先に十二宮へと向かった。
それを見守った二人は改まって聳え立つ十二宮を見つめた。

「カノン。付き合わせてごめんね。本来は一人で回らなきゃ行けないんだろうけど・・・」
「別に。女神の命令だしな。それに昨日も言ったが一人で背負い込もうとするな。
本当に黄金聖闘士に選ばれたのだって今しがたの事だ。判らん事ばかりのお前を一人にする気なんて更々ないからな」

やっぱり、カノンは優しいなと私は笑顔を浮かべて頷いた。
私が、心から信頼を寄せる仲間がこれから出来ていくのかもしれない。
兄様との過去を越える日もここでようやくあるのかもしれない。
長い年月が作った私の心の闇を払拭し、立派な聖闘士になりたい。
兄様。
私、初めて自分で何かしたいと思える日が来ました。
初めての私の試みしかと御見届け下さい。

「それじゃあ、行こうか。カノン」
「ああ」

こうして、私の十二宮突破が始まった。
私の射手座の聖闘士としての第一歩を踏み出して。