最初の宮、白羊宮に到着した私とカノン。
人見知りなどしないタイプだけど、聖闘士として認められるかどうかが掛かっていると思うとどうにも落ち着かない。
でも、この一歩を踏み出さなければ何も始まらないんだと自分に言い聞かせ、静かに確実に私は一歩を歩み出した。






GARNET MOON

第六話 十二宮突破!!第一の宮・白羊宮







「カノン。予備知識として何かある?一体どんな人なのかとか」

どんな人物像か全く判らない私にとって優しい人なのだろうか厳しい人なのだろうかとか色々つい気になってしまう。
会って直接確かめればいいものをついつい尋ねてしまった。
でも、カノンは嫌な顔一つせずに私の質問に答える。
が、どうにもその人物の事が苦手と見える。
・・・もしかして、結構真面目な人なのかもしれない。
カノンはどちらかと言えば不真面目なタイプだし。

「見たら判ると思うが・・・世界でただ一人の聖衣の修繕師だ。
まあ、最も今は教皇であり、修繕師の師匠たるシオン様がいるから二人だがな」
「そうなんだ」

聖衣の修繕師。
やっぱり職人肌で厳しい人なのだろうか?
聞くだけでは全てを知る事は出来ないのでやはりここは意を決して深呼吸を一つすると叫んだ。

「すみませーん!誰か居ませんかー?」
「お、お前、もう少し心の準備とかしないのかっ!」

付いた矢先の出来事だった為、カノンはもう少し緊張とかしろと転んでいたがこれでもしているのだ。
とりあえず何となくその白羊宮から漂う雰囲気。
たぶんその人の小宇宙なんだろうけれど、それはとても柔らかく温かい。
それを感じてしまえば優しい人な気がした。

「これでも緊張してるよ。でも、悪い人じゃなさそうだってちゃんと判るし」
「(本当に緊張しているのか?その割には能天気極まりないんだが・・・)」

物凄く失礼な事を想像していたカノン。
それを見抜いたのかのがぎっと睨みを聞かせる。

「カノン・・・今、失礼な事考えたでしょう?」
「な、なんでわかるんだよ!?」
「図星。カノンって時々思うんだけど本当に年上?」
「お前も大概失礼だな!」
「誰かいるのですか?」

私がカノンと騒いでいる内に前には一人の青年が立っていた。
確かに優しそうな人だ。
しかし、気になる。
>非常に気になる眉毛。
何故に麻呂眉なのだろうかと凄く尋ねたかったがそれは何となく聞いてはいけない気がしてあえて何も言わなかった。
すると、不思議そうに私を見た目の前の人物はカノンに事情を聞こうと口を開く。

「カノン。貴方はアテナに他の命を与えられたと聞いていたのですがここで何をしていらっしゃるのですか?それにそちらの女性は・・・?」

どうやらアテナは詳しい事を説明していなかったらしい。

「あれ?沙織ちゃんから聞いてないのかな??」

首を捻るに代わってカノンが説明をする。

「ムウ、俺の命はこいつを教皇の間まで連れて行くことだ。新しい射手座の黄金聖闘士をな」
「この少女が新しい射手座の!?では、先程、人馬宮から出た光はやはり・・・」
「えっと、アスちゃんが私に会いに来たんです」
「アス・・・ちゃん?」

何の事だか判らないと言った様子のムウにカノンはにやにやと笑う。
どうやら困り果てているムウが少し面白いらしい。
が、ただ放っている訳ではなく、の自身に任して置けばムウなら認めると思ったのだろう。

「はい!サジタリアスだからアスちゃん。あ、自己紹介遅れました。
新しく射手座の黄金聖闘士になった。です。不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」
「ムウ。こいつは極端にズレてる。だから気にするな」

何となくどういう人物なのか一瞬で判る自己紹介である。
ムウは合点がいった様で微笑むと改めて自分も自己紹介をする。

「こちらこそ初めまして。この白羊宮を守護する牡羊座のムウです。
いきなりの事で戸惑っておいでのようですね。どうぞよろしくお願い致します」

その挨拶を聞いて一先ずほっとするだったがすぐさまムウは再び凛とした表情を浮かべるとカノンに向き直った。

「ところで今の話では彼女が元々射手座の黄金聖闘士と判って連れて来た訳ではないみたいですね。
カノン、貴方から見て彼女は射手座の黄金聖闘士として認めるに至る人物だと思い、彼女を教皇の間まで連れて行くのですね?」

ムウの最もな質問にはまた緊張した面持ちを浮かべる。
確かにそうであろう。
ここに来た事で射手座の黄金聖闘士になる見込みがあるとはいえ、即位が直ぐに出来るかといえばそうではない。
実力が伴わなければ聖衣を着る資格も人馬宮を護る資格もないのだ。
アテナを護るという大義を果たす以上、その実力を認めるか否かは別だ。
その人物自体を認めても聖闘士としては認められぬ可能性もある。
だが、カノンはそんなの思考を遮るように極めて明るい声で告げる。

「俺は、認めている。アテナが認めたという事もあるが見た限り自然に小宇宙も扱えているようだがな。理由は判らんが。
それに、こいつは強くなるそんな予感がする。俺達とはどこか小宇宙の感じが違うのだ。ムウ、お前ならば判るだろう?」

その言葉にまじまじとを見るムウ。
確かにどこか違う一般の聖闘士の小宇宙に似てそうではない何か。
慈愛と慈悲に満ち、神聖とまで言える清らかな小宇宙。
まるで、アテナに似た。
否、それ以上の洗練された小宇宙である。
改めてそう感じてみればむしろ否定する理由がムウの中で消え去っていく。
強大な小宇宙をちゃんと扱えているならば問題はないであろうと。
納得するとそれからムウの答えは早かった。

「そうですね。今はまだ、身の内に宿っているのみで小宇宙を全て巧く使っているわけではないようですが」
「そうなの?」
「まあ、先程仕えるようになったばかりだがな。だが、身の内に宿る小宇宙は相当なものだと思う」
「ええ、それは私も感じていました。さん、少し意識して出せませんか?」

唐突なムウの申し出に戸惑う

「えっと、集中して感じてみればいいんだよね?小宇宙を」
「はい、ただそれだけに集中して外に打ち放つイメージを浮かべて下さい」

ムウの指示に頷くとはゆっくりと瞳を閉じた。

身の内に宿る温かなものが段々と熱く滾る。
その瞬間、少し周りの空気が変わる。
熱くなったそれが身体を包むような感覚を覚える。
安心するような黄金の光を瞬かせて。
脈打つように広がる黄金の光。
それを見ていたカノンとムウは顔を見合わせる。

「もういいです」
「え?」

私は急に声を掛けられて驚いて目を開けた。
カノンとムウは互いに心中で驚きを隠せず口を噤んだままである。

「(カノン、貴方はご存知だったのですか?に宿る小宇宙の強大さを!!)」
「(何となく人よりはとは思っていたがここまでとは思いもしなかった・・・予想以上だ。)」
「(彼女が本当にコントロールする事を覚えればどれ程強くなるか想像が付きません。
強くなりますね。彼女は誰よりも強く。・・・ふふ、これは育てる甲斐があるというものですね。カノン。)」
「(ああ。)」

二人はそんな会話をしながらとりあえず彼女に話しかけた。
ムウはにっこりと穏やかに微笑みに手を差し伸べる。

「疑うような真似をして申し訳ありませんでした。これからはどうぞ同じ聖闘士として仲良くして頂けると幸いです。さん」

女性以上に美しい相貌に微笑まれは思わず顔を赤らめる。
今まで女学校に通っていたは実を言うと余り男慣れをしていなかった為でもある。
が、慌てつつも手を取り微笑み返す。

「いえ、これからどうぞ色々教えてください。よろしくお願いします。あ、それと私の事は呼び捨てで構いませんから!」
「そうですか?なら御言葉に甘えてと呼ばせ頂きますね。それと私の事も同僚ですし、気軽に名で呼んで下さい。敬語も必要ありませんよ」
「じゃあ、御言葉に甘えて。えっと、じゃあ、その・・・一つ聞いていい?」
「はい?」
「実はずっと気になってたんだけど、何で麻呂眉なの??」
「ブッッッ!!」

微笑ましくその様子を見ていたカノンは突拍子もないの質問に噴出した。
ムウも一時的に固まったがそれも一瞬でにっこりと微笑んで答える。

「生まれつきのようなものですよ」

どうやらの天然度合いにようやく付いていけるようになったらしい。
ここまで天然だと怒る気も失せるようだ。

「そうなんだ。ずっと気になってて。でも、ムウってカノンと違って綺麗な男の人だよね。
私、殆ど男の人と接触ってなかったから驚いた。カノンはデカいし、ゴツいし、デリカシーないし」
「それはありがとうございます。しかし、カノン。見事な言われようですね。見事に当たっているみたいですが」

きっぱりと肯定する辺りムウも結構失礼なのだがは全く気付いていない。
笑顔で嫌味をつらつらと言える人間も早々居ないよなとカノンは半ば諦めて反論は止めた。

「そんな事言うが俺の見た目などここでは普通だ。
普通。聖闘士は戦うのが役目なんだから鍛えていて当然だろうが。むしろ、ムウみたいなタイプが珍しいんだよ」
「そうなの?」

カノンの言葉に首を傾げる

「まあ、そうかもしれませんね。
老師などは背丈が低いですし、アフロディーテも綺麗な分類に入ると思いますが。少数派である事には変わりないですね」
「そうなんだ。でも、カノンの場合、態度がデカ過ぎる。もっと慎ましやかにムウを習わなきゃ」

思わずカノンはムウはお前にだけ特別に慎ましやかなんだと言いたくなったが報復が怖いので言うのをやはり止めた。
が、しかし態度がデカいとの言葉には反応してカノンはの頭に手を掛ける。

「おーまーえーなっ!!お前こそ女なんだからもっと慎ましやかにしろ!!」
「いだだだ!カノンよりは慎ましやかだよ!あーもー!髪がぐちゃぐちゃになる!」

そう叫ぶとすぐさまムウの後ろに隠れた
どうやらカノンとムウの力関係を何となく察知したようである。
手出しが出来なくなったカノンにムウがズバっと言葉の刃を刺す。

「カノン、大人気ないですよ。仮にも私より年上の三十路手前の男なのですからもう少し落ち着きを持ってください。
それにしても、の髪が本当にぐちゃぐちゃになってしまいましたね。よければ私の宮の中で直して差し上げますよ」
「本当!?ムウは優しいから好き」

心底嬉しそうにムウに懐くを見て、カノンは実に面白くなさそうな顔を浮かべた。
それをくすりと笑いムウはを奥へと促す。

「では、私について来て下さい」
「うん!!」

そうして、無事白羊宮は攻略。
次は金牛宮。
ムウみたいに優しい人だといいな・・・と思いつつ、はムウの部屋へと向かった。
その向かう途中でこんな会話が繰り広げられるとも知らずに。

「(ところでカノン。)」
「(・・・何だ。)」
「(不機嫌そうですが今からそんなのではストレスで死んでしまいますよ?きっとを皆好きになるでしょうからね。)」
「(別に不機嫌などではない!)」
「(ふふっ・・・どうだか。)」

目下、脳内での討論が繰り広げられていたのだった。