「ムウって髪の毛梳くの上手いね」
「そうですか?」
「うん、気持ちいいー」
「それはよかった」
にっこりとムウは笑いながらの髪を梳いてやる。
ほのぼのとした雰囲気にどこか疎外感を感じる男が一人。
「(何だ。何だこの疎外感は・・・!)」
そんな二人が面白くないカノンはむすっと椅子に座っていた。
GARNET MOON
第七話 十二宮突破!!第二の宮・金牛宮
髪を梳き終えて立ち上がる。
さて、次の宮へと向かおうかと思い、二人に尋ねる。
「そういえば、次の宮の人はどんな人?」
「次の金牛宮を守っているのは牡牛座のアルデバランだ」
「アルデバランは私と同い年なのですよ」
「そうなの?ムウと同い年の人って多いの?」
「ええ、他にも何人か」
結構年齢の離れている人が多いかと思っていたがそこまでではなかったのかと一人納得する。
「見た目はどんな感じ?」
「そうですね。とても身長も高いですし、見た目はごついですよ」
ムウは微風が吹くぐらいの爽やかさでさらりと告げるムウ。
カノンは思わず冷や汗を流す。
「ムウ、さらりとお前酷い事言ってないか?」
「カノン、そんな事ないですよ?」
二人のやり取りなど全く耳に入らず次に会う人物を想像する。
結局は会ってみなければ判らないと結論に至り、まだまだ先は長いのだと立ち上がり急ぎ身支度を整える。
「会ってみれば判るし、そろそろ行こうかな。じゃあ、またね。ムウ」
次の宮へと足早に向かおうとしただったがムウの言葉にその足を止める事となった。
「待って下さい。私も一緒に行きましょう。カノンだけでは心許無く不安ですから」
きっぱりとそう告げられたカノンは目上というプライド故にそれを断るように告ぐ。
「俺だけで十分だ」
そう告げるカノンにムウは溜息を吐いて説明する。
「そうは言いますがこの後には蟹やら厄介な人物が居るのです。
それを一人で対応し切れますか?サガと会えば貴方の場合確実に喧嘩に発展するでしょう?」
本当の事だけに反論できないカノンは了承の返答を返す。
返答に満足したムウは「よろしい」と微笑むとの手を取り金牛宮へと案内しようとする。
それに再び苛立ちを覚えつつも冷静になれと自分を諭し、二人の後を追うのだった。
そして、三人は金牛宮に到着した。
聳え立つ金牛宮の前で深呼吸をするとは一歩を踏み出す。
「すみませんー!誰か・・・きゃっ!!」
「「!?」」
が金牛宮に入ろうとした途端、何かに弾かれてしまい先に進めない。
思わず鼻っ柱をぶつけたはやや涙目である。
心配した二人が駆け寄って様子を見る。
「痛い・・・」
「大丈夫ですか?」
その様子を見ていたのかの前に大きな影が出来る。
下を向いていたは何事かと思い見上げるとそこには厳しい表情を浮かべるアルデバランの姿だった。
「この金牛宮には誰一人通すつもりはない」
言い放った言葉にムウとカノンは驚きを隠せない。
何せ聖域では温和な人物であるアルデバランが道を阻むとは想像もつかなかったのだ。
慌てて問い詰める二人。
「(どういう事ですか!?アルデバラン!!)」
「(は新しい射手座の聖闘士だぞ!!)」
「(判っている。先程、改めてアテナから御達しがあたからな。)」
「(では、なぜ!?)」
そこで拒む理由が何があるのだと言わんばかりにきつく問い詰めるとアルデバランは静かに語った。
「(あのような少女に聖闘士をやらせるのは酷過ぎる。だからだ。)」
「(アルデバラン・・・貴方は彼女を心配して・・・)」
自分たちでも苦行を強いられる聖闘士。
それにまだ年端もいかぬ少女にさせる等は拷問に近しい事。
ましてや聖闘士の頂点に近しい黄金聖闘士である。
今日小宇宙に覚醒したばかりの少女に何が出来よう?
余りに酷であるとアルデバランは心を鬼にしてを諦めさせようと思ったのだ。
が、しかしそれはアルデバランがを少し甘く見すぎているとも言えた。
その言葉を聞いたムウとカノンは微笑を浮かべる。
「(でも、たぶんそれは無駄だと思うぞ?)」
「(どういう事だ?)」
理解できないといった声色にムウが静かに告げる。
「(彼女はその程度で退くような方ではないと言う事ですよ。)」
アルデバランはその言葉に目の前に居る少女を見た。
立ち上がり、凛とした瞳でアルデバランを見つめている。
その瞳には強き意志が感じられ、何事にも怯まないという覚悟さえ伺えた。
そして、絶対にこの場を通ると決定打にする言葉をが紡ぐ。
「誰一人通さないと言われても私は通らなければなりません。
聖闘士として認められないと言うならば未熟ながらも力を見てから退かせてください!」
力強いその言葉にカノンが笑う。
「(ほらな。)」
アルデバランは漸く納得したようにを見据えこう言った。
「ならばこのアルデバランに一発でも拳をいれてみるがいい」
その言葉にむしろ驚いたのはカノンとムウだった。
確かに聖闘士ならばそれぐらい出来なければいけないと思うが。
不安なものは不安だ。
何せが何らかの体術が出来たとしても小宇宙を巧く使えなければ意味がない。
しかし、そんな心配を余所に自信満々に「判りました」と頷く。
不安な二人は慌てて声を掛ける。
「お前大丈夫なのか?」
「そうですよ。貴方は女性ですし・・・」
「大丈夫。小宇宙の使い方のコツは判ったし、後はそれをいかに体術と合わせるかでしょ?
武術は一通りやった事があるし、小宇宙さえ利用できればきっと出来る。やってみなきゃどうなるかわからないし」
今まで来ていた黒いロングのコートを脱ぎ捨てた。
グローブを嵌める。
そのグローブは手の甲を補強するようになっている。
短めの黒い短パン、背中が大きく開いた体のラインにぴったりと沿う形の同じく黒ホルターネックのノースリーブ。
軽装になったは前を向くとアルデバランを見据えた。
強い風がの腰まである漆黒の髪を舞い躍らせる。
その時だった。
ムウが両サイドの肩甲骨の深く抉れた傷跡を見つけたのは。
今まで普通の学生として生きてきた少女にしては不似合いな傷。
「・・・それの傷は一体・・・?」
その言葉にカノンやアルデバランもを見る。
すると、は苦笑して告げる。
「兄様が亡くなって暫くして気付いた傷だったんだけど何でついたかは判らないんだ」
女性の身体にこれ程の深い傷がついているなどさぞ辛いと思った事もあったろうと皆言葉を紡ぐ。
そして、こんな少女にも何か深い過去があるのだと感じた。
「(この少女はどれほどの悲しみを、重い過去を背負っているというのか・・・)」
アルデバランやムウ、カノンもただその傷を見て心の中で呟く。
当の本人は本当に気にした様子もなく、自らの道を切り開く為に前を見据える。
「それじゃあ、アルデバランさん、行かせてもらいますよ!」
「ああ、来るがいい!!」
「(私は負けられない。信じてくれる人がいるから。私の小宇宙よ・・・応えて!!)」
意識を集中させて小宇宙を纏う。
格段と小宇宙の放出量が増えたかと思うと目を見開きアルデバランを見据える。
「・・・では、お相手願います!」
言うや否や駆け出したは迷う事なく、懐へと飛び込む。
小宇宙を足と手に集中させて一気に駆け出せばその速さは黄金聖闘士でも類を見ないものであった。
「(はやい!!)」
「(あの速さは黄金聖闘士でもかなり早いぞ!!)」
その瞬間、は地面に渾身の力を籠めて、拳を打った。
すると、地面が裂け、岩がアルデバランを襲う。
「この程度では効かぬ!!!」
強くそう断言するアルデバランを見てが不敵に微笑む。
「承知している!」
「何!?」
その岩を巧く駆け上がり、逆光を利用してアルデバランの背後へと回ると力の限り背に拳を叩き込んだ。
その衝撃に見事に地に伏せるアルデバラン。
「ふぅ・・・何とか巧くいった」
安堵の息を吐きそう呟くと手を払う。
傍観していたムウとカノンはの天性の格闘センスに驚きを隠せない。
「凄い・・・!ここまでとは・・・!」
立ち尽くす二人にブイサインを見せるだったがふとある事に気付き声を上げる。
「あああっ!!」
大きな叫び声に二人は漸く我に返ると慌ててに駆け寄った。
「お、おい!!どうした!?」
「怪我でもしたのですか!?」
「私、やり過ぎた!だ、大丈夫ですか?アルデバランさん!」
が近づこうとした瞬間、ガラガラガラという音と共にアルデバランが身を起こした。
「あははははっっ!!いや、参った!!これなら聖闘士としてやっていけるだろう」
先程とは打って変わって穏やかな笑みを浮かべるアルデバランにきょとんとした表情を浮かべる。
が、やはりやり過ぎてしまったかと気になり、おずおずと尋ねる。
「あ、あの怪我とかないですか・・・?一応力は抑えたんですけど・・・」
「大丈夫だ。心配しなくてもいい」
「よ、よかったぁ」
ほっと一息を吐く、にムウが微笑む。
「アルデバランも黄金聖闘士なんだから大丈夫ですよ」
漸く落ち着きを取り戻したは改めてアルデバランを見つめる。
すると、アルデバランはに手を差し伸べて優しく微笑んだ。
「これからは女神の聖闘士としてよろしく頼む。」
「は、はい!!」
どこか畏まったの態度にムウがふと突っ込む。
「ところで。アルデバランが私と同い年という事忘れていませんか?」
「あ。だ、だってカノンより落ち着いてるし、というかカノンの方が絶対精神年齢低いし!」
「なんで俺に話が変わるんだ!!!」
カノンは怒り出したが、次のムウの一言で反論できなくなった。
「実際そうじゃないですか。サガとはいつもしょうもない事で喧嘩するわ。あまつさえ、年下のに怒るなんて」
「あはは!一本取られたなカノン」
「カノン。形無しだね。じゃあ、改めてこれからよろしく。アルデバラン」
「ああ、敬語じゃない方がらしいな」
「まあ、敬語ばっかりつかってるっても気持ち悪いしな!」
カノンが冗談めかしてそういうと、はどこから出したのかハリセンで思いっきり後頭部を殴打した。
凄まじい音と共に繰り広げられた攻撃に涙目で訴えるカノン。
「痛い!今のは痛かったぞ!しかもちょっと小宇宙籠めただろう!」
「失礼極まりないカノンが悪い」
「なんだとー!!」
その様子を見守っていたアルデバランはカノンに向かって真顔でとんでもない事を告げた。
「カノンは好きな者は虐めてしまうタイプなのか?」<
「ブッ!!いきなり何を言い出すんだ!!アルデバラン!!」
思いっきり噴出したカノンを見て不思議そうな表情を浮かべるアルデバラン。
「なんだ?ちがうのか?妹みたいで可愛いじゃないか。は」
「・・・そっちかよ」
どこか噛み合わない面々である。
ムウは誤解したカノンに冷ややかな視線を送る。
「一体何だと思ったのですか?全く」
「??解んないけどアルデバランがお兄さんなら確かに頼り甲斐があるかも。そうだ!アルデバランって長いし、アル兄って呼んでいい?」
「ああ、かまわんぞ?」
まるで本当の兄妹のように仲睦まじい光景にカノンはどっと疲れが押し寄せてきた。
そもそも先程まで通す通さないで揉めていたのに今の状況は一体なんだ?
というか自身の扱いが酷い気がするとカノンは複雑そうな表情を浮かべる。
「何なんだ?この和やかな雰囲気は?仮にもさっきまで敵だっただろ?」
「だってアル兄は私の事を思ってああいう風にしたんでしょ?なら別に嫌う理由はないじゃない」
さも当然だというにムウも深々と頷く。
「流石、ですね。物事の本質をよく理解してらっしゃる。それに比べてカノンは・・・ハァ・・・」
何か言いたげに溜息を吐いてカノンを見る。
その何とも言えない視線に冷や汗を流しながら訴える。
「おい。最近お前、俺に冷たくないか?仮にも俺はお前よりとしう・・・」
「年上なら年上らしく問題は起こさないでくださいね」
ムウはにっこりと笑っていたが有無を言わさないその笑みは完全に目が笑っていなかった。
再び反論する事ができなくなったカノンはただ、遠くを見つめるだけであった。
そうして、漸く第二の宮・金牛宮突破した面々である。
「そういえば次の宮ってカノンのお兄さんの宮じゃなかったけ?」
「「「・・・・・」」」
「え!?何で皆、無言になるの!?え?え?ええ!?」
口篭る面々に不安を覚えつつ、次に向かうは双児宮。
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