「お前、物凄く戦い慣れしてたけどどんな武術やってたんだ?」
「合気道を主流でやってたけど他にも色々やってたよ。剣道やら弓道やら」
「確かに武術は基本的に応用が利くものが多いそうですからね。でも、武術の心得があってよかったです」
「本当にそうだよね。役に立つとは思ってなかったけど何でもやってみるものだね」

双児宮に行く道中、物凄く武術の話で盛り上がっております。






GARNET MOON

第八話 十二宮突破!!第三の宮・双児宮







「しかし、武術をやっていたからとは言えやっぱりの格闘センスには驚かされる」
「確かにそうですね。天性の才能と言うべきでしょうか」

二人に褒められて照れた様子を見せる
だが、よくよく考えてみればこの間まで普通に学生をしてたのにな。
というか昨日までである。
日常というのはこうも劇的に変化するものなのかとしみじみ思うであった。

「話してる内に着いたね。双児宮」

私が双児宮を指して言うとムウとカノンはそれはもう気が重そうであった。
何でそんなに嫌そうなのかは理由がよく判らない。

「ついに来たか・・・」
「カノン、お願いですから問題は起こさないでくださいね」
「わかってるけどな!あいつがふっかけてきたら俺は知らん!」

明らかに不安要素たっぷりなのが表情にも言葉にも出ているカノン。
そこまで嫌な理由は一体なんのかと首を捻り尋ねる。

「あのさ・・・何でそんなに二人とも不安そうなの?カノンのお兄さんだったらいい人っぽいけど・・・」

の言葉に二人とも何か口篭った様子で歯切れの悪い返事を返す。

「まあ、根はいい人なのですが・・・・」
「黒いのが出てこない事を祈るしかないな」
「黒いの?」

ムウはにっこりと優しく微笑みながらその言葉を軽く流す。

「まあ、きっと大丈夫ですよ。あなたは女性ですし、サガも加減するでしょう」
「ん??取り合えずじゃあ、行くよ?すみませーん!」

の声が宮内に響くが返事は返ってこない。
再度呼びかけるがやはり返事はない。
思わず振り返りカノンに聞く。

「入っていいのかな?」
「あのクソ兄貴何考えてんだ?」
「でも、出てこないという事は入って来いという事では?」

その言葉を聞いたは二人が思案しているのも気にせずに双児宮の奥へと進んでいく。
それに気付かない二人はただ考えるばかりだった。
だが、カノンがふいに思い当たりムウに告げる。

「もしかしてあいつ、双児宮の迷宮に誘い込むつもりじゃあ・・・」
「そうか!そう言えばそれがありましたね。!って・・・・」
「「・・・いない!?」」

気をつけるようにと呼びかけようとした時にはもう既にの姿はなかった。
二人はそれに慌てて双児宮へと入っていった。
中にはやはりサガの小宇宙が満ちており、ここにサガがいるのは明白であった。
それと同時に出口に辿りつかない事をみるとやはり迷宮が作られている。

「あの変態クソ兄貴・・・卑怯な手を使いやがって・・・!」

カノンがそういうとどこからか声が聞こえた。

「誰が変態クソ兄貴だ。カノン!!この愚弟が」
「聞こえてるんだったら出て来い!!クソ兄貴!!はどこだ!」
「カノン、お願いですから問題は起こさないでください」

ムウは心底やめてくれといった感じでカノンに言った。

「お前達がいてはその者を見定める事ができぬ。しばらくそこで彷徨っておれ」

サガはそれだけを述べるとそこから気配を消した。
その頃、はというと。

「誰もいない。というかさっきから同じ所ばかり歩いてるよね?」

しばらく歩き続けるが何の変化もない事に気付いたは立ち止まるとこのまま歩いていていいのかと思案する。
すると、立ち止まったすぐ前方に人影が見えた。
は迷う事無くそれに向かって歩み出すとそこにはカノンとよく似た男が立っていた。
すぐに事を理解したは尋ねる。

「貴方が双児宮を守護する、双子座のサガさん?」
「そうだ。あの愚かな愚弟の双子の兄。双子座のサガ」

淡々と少し酷い事を言いつつ自己紹介をするサガ。
喧嘩真っ最中な為、二回もカノンを愚かだと罵っている。
が、察して気にする事もなくはそのまま御辞儀をして自己紹介を仕返す。

「初めまして。話は聞いていると思いますが射手座の新たな聖闘士。と申します。
えっと、一つ聞きたいんですけど今私は迷宮の中にいるんですよね。それでカノン達も同じく迷宮に迷わされている」
「ああ、その通りだ。君と二人で話したかったものでな。それにしても、まだ未成年か?」
「はい。17歳です。でも私、年齢なんか関係ないと思っていますから」

尋ねたサガの言葉にはっきりとそう答えるを見てふと笑いを浮かべ頷いた。

「確かにその通りだ。が、年齢など関係なくとも覚悟はあるのか?
人をその手で殺める事を感情に流される事なく出来るか?その手を血で染める事をアテナの為にできるか?」

再び厳しい面持ちでそう尋ねるサガ。
サガは見極めたかったのだ。
純粋無垢なこの少女が罪の意識に埋もれ闇に支配されないかどうかを。
自身が闇に押しつぶされてしまった事を理解しているからこそ。
だが、はそれでもサガの目をはっきりと捉え言った。

「唐突な事に戸惑いました。だけど、私はもう罪を重ねた人間です。
人を殺める事も血に染める事も厭わない。私は既に人の屍の上に生きる人間だから」
「罪、か。君の言う罪とは一体何だ・・・?」

その質問に息を呑んだ
だが、ただ静かに口を開いた己の罪を。

「この生こそが既に罪」

たったその一言で告げるにサガはどこか自分と通ずるものを感じ取る。
どこかこの少女は自分と似ているのだと。

「では、最後に問おう。ならば何故戦おうとする?一体何の為に戦っている?」

その問いには笑みを浮かべる。

「正直言うと世界とかそういうのどうでもいい。私は私の大切な仲間の為に戦う。
そして、生まれ落ちた罪と生き残った罰を受け入れる為にもここに居たいから戦うんだ」

サガはその意志の篭った言葉にひどく心打たれた。

「なるほど、な。・・・私は君がもし地上に住む全ての者の為になどといったら進ませるつもりはなかった」
「え?じゃあ・・・」

サガは優しく微笑み言った。

「ああ、私も君が新しい黄金聖闘士だと認めよう」
「本当に?よ、よかった〜」

安堵したはその場に座り込んだ。
どこか今までの人とは違う雰囲気にどこか緊張していて今安堵ゆえに力が抜けてしまったのだ。
サガはそんなの傍に跪き、の頬に手を当てた。

。君はとても辛い過去を背負ってきたのだと思う。
私は昔、女神に反乱を起こした罪深き反逆者だ。私と君はとても似ている。そう感じた」

はサガの言葉を聞いて頷いた。
の自身も何処かサガと似ていると思っていたからであろう。

「サガさん。先程言った通り私も罪人です。今はまだ言う決心がつかないけど。同じです。
ただ、だからこそ思うんです。生き抜く事こそが罰であり、贖罪であると。全てを許される訳ではないけれどそう思うんです」

サガはそう話すの頬を撫で静かに言った。

「ああ。私もそう思う。全ては許されずともしばしの心の平穏は許されると」
「そうですね。やはり似ていますね。私達」

はにかむように笑うの頭を優しく撫でるとサガは頷いた。
カノンと違い、慈しむ様に愛でる様に撫でるその手はまた違う心地良さを感じさせた。

「そうだな。だからこそ解る事もある。何かあれば私に言いなさい。必ず力になると約束しよう」

優しいその労りの言葉に力強く頷く

「所でカノンの事も呼び捨てなのだろう?私の事もサガと呼んでくれて構わない。これからよろしく頼む。
「うん。よろしく!サガ」

漸く打ち解け、穏やかな雰囲気が流れた。
その穏やかな雰囲気にそぐわない大きな怒声が突如響き渡るまでは。

「この変態クソ兄貴!!に何かしたんじゃねーだろうな!」
「チッ!もう来たのか・・・愚弟の割には早く抜け出せたな」

煩いと言わんばかりに舌打ちをしてサガは立ち上がりカノンと対峙した。
そんなカノンの後ろからはムウも現れる。

「あ、ムウ!カノン!」

ムウはの姿を確認するとすぐさま駆け寄った。

「サガに何かされませんでしたか?」
「何もされてないよ?少しお話しただけ。それにサガも認めてくれたの!」
「そうなのですか?それはよかったですね」

ムウは優しくそういいながら髪を撫でてやる。

「うん!でも、あの二人止めなくていいのかな?」

そういっては横で喧嘩をしている二人を見た。

「いい加減にしろ!このクソ兄貴!に何をしたと聞いてるんだ!」
「だから何もしていないといっているだろう!この愚弟が!もう一度スニオン岬に閉じ込めてやるぞ!!」
「やれるもんならやって見やがれこの露出狂!!」
「この愚弟がもう我慢ならんわ!!アナザー・・」

さすがにも技を出そうとしたサガに驚いた。
そして、思わずサガに飛びつく。

「駄目だよ!何、本気で技なんか繰り出そうとしてるの!?」
「うおっ!!」
!?」

バランスを崩した二人を巻き込み倒れこむ。
次の瞬間、カノンが二人を見るとまさにがサガを押し倒しているように見えるではないか。
ただの偶然とは言え、何となく腹が立つ光景である。
今すぐにも時空の果てへと飛ばしてやりたいがを巻き込んでしまうとぐっと堪える。

「もう!サガも落ち着いてよ!カノンも!」

が、で全く気付かず仕舞いだし、サガはサガでそんな言葉は全く聞こえていなかった。
今の状況が理解出来ずに困惑していると暫くして漸く我に返り、全てを理解する。
それと同時にサガの顔が一瞬で赤く染まった。

「わ、わかった!解ったから!!ど、どいてくれ!!」
「?うん。ごめん。重かった?」
「い、いや!そんな事はないが・・・それに急がないといけないだろ?早くしないと日が暮れてしまうぞ?」

サガは動揺を抑えながら必死にそう言った。
カノンよりは流石に気を逸らすのが巧い。
の天然加減にも助けられていたが漸く立ち上がり、出口へと出た面々。
その出るまで誰一人実際に言葉にしなかったが。
脳内でサガがカノンと喧嘩を繰り広げ、その合間にムウが問い詰めるという壮絶な論争を繰り広げていた。
若干出口に出る頃には疲れきっていた三人。
はサガに向き直る。
サガもを見るとそっと微笑んで告げる。

「気をつけていくんだぞ?後でまた教皇の間で会おう」
「うん!」

サガはそんなを見て優しく微笑み、髪を撫でた。
やっぱりそうやって微笑んで頭を撫でたり、さり気無く優しい言葉を掛ける二人の姿には微笑んだ。

「サガとカノンってよく似てるよね。性格も、仕草も!」
「「・・・・・・」」

壮絶に嫌な顔をして互いに見合う二人。
それを見てムウとは笑いあった。

「確かにそうかもしれませね」

こうして双児宮も突破し、次は巨蟹宮!!
が、ここが一番ムウ達の不安の場所であった。

「(次の宮はデスマスクか・・・)」
「(ムウ、カノン!絶対に蟹からを守れ!!)」
「(言わずとも守りますよ。あのような色欲の強い蟹に好き勝手させたらどんな事になるか・・・)」
「(一番不安な宮だな・・・・)」

そんな脳内会話を三人が繰り広げていたことをは知らない。