私の目の前にあるドアに書かれているのは708という数字。
その部屋が今日から私の生活の中心となる。






Act1:New life of the mysterious girl.







「んー・・・ようやく終わり。」

散乱していたダンボールなどを片付けつつ、そう呟いた。
立ち上がり静かに窓へと歩みを進める。
眼前に風景が広がった。
太陽の光が眩しくて思わず目を顰める。

「やっぱここにして正解だったな。」

七階まで上がるのは辛いけど部屋も場所も中々のものである。
本当はもっと立地条件のいい場所でもよかったんだけどね。
お金なんて腐るほどあるし。
でも、たまたま見かけたこの物件がかなり気に入ってしまったのだ。

「とりあえず買出しも行かないとなぁ・・・・出かけるか。」

からっぽの冷蔵庫を遠目で見ながら私は出かける準備をする。

「じゃあ、いってきます。」

初めてこの部屋から出かけると言う行為に出た。



「うー・・・・」

周りを見渡す限り人ばかり。
少し嫌気が差しつつも前へ進んでいく。
ふとそんな中、一つの店が目に入った。

「CD屋・・・?入ってみよっかな。」

入ってみると中になかなかマイナーなCDも置いてあった。
案外、穴場かもしれない。
音楽好きな私は嬉々として辺りを見渡す。
店員はバイトらしい人が一人カウンターに居た。
私は店内をうろうろと見ていたところいきなり派手な音が鳴り響いた。
その音の正体はCDの山が一つ綺麗に崩れさった音だった。

「・・・・・」
「うわっ!やっちゃった!店長に怒られるよ・・・どうしよう・・・!」

そう叫んでいたのは店の店員。
やはりバイトだったと思われる。
見ていたら何だか可哀想になり、私はその店員へ近づき落ちているCDを拾い始めた。

「え?」

店員らしい青年は驚きながら私の顔を見た。

「困ってるんでしょ?」
「あ、うん。いや、でも仮にもお客だし!!」

そういって慌て出すところを見ていると思わず私は吹き出してしまった。
まるで項垂れる子犬の様なその表情に。

「プ!アハハハハッ!!」
「え!?」
「い、いや!なんか犬みたいだなって。」
「俺が犬!?マジでそう見える!?」
「めちゃくちゃ見える。」
「うわぁ〜・・・ショック・・・」
「あはは。ごめんごめん。それよりはやく直さなくていいの?」
「ああ!そうだった!」

そうこうしているうちに店長と思われる人が帰ってきた。

「なんだ!?これは!!寺島くん!君がやったのかね?」
「あ、いえ・・・その・・・」

青い顔をしながら言葉を濁している青年を見て気の毒に思い私は助け舟を出す事にした。

「あの、すみません。私が鞄を不注意で当ててしまったんです。」
「!?」

驚いた顔で青年はこちらを見ている。

「お客様がですか・・・?」
「ええ。本当に申し訳ありません。壊れたものは買い取らせていただきますので。」
「い、いえ。そこまでしていただかなくても・・・幸い壊れたものはなさそうですし。」

店長らしき人は私の言葉に驚き、そういった。

「そうですか・・?」
「ええ。じゃあ、寺島くん。早くその場所直しておいてよ。」
「あ、はい・・・」

それだけ言うと店長らしき男は気まずさからかさっさと店の奥へと消えていった。

「ふー・・・しつこかったなぁ・・・・」

溜息を吐き、先程の彼の方へ向き直る。

「その・・・ありがとな。庇ってくれたんだろ?」

素直に告げられた御礼の言葉に私は冗談めかして返す。

「別に。なんか犬が怒られてるみたいで可哀想だったから。」
「うわ!ひでー・・・でも、助かった。本当にアリガト。」
「どういたしまして。じゃあ、私はもう行くわ。」
「あ!ちょっと待って!!」

立ち去ろうと私が立ち上がった途端、青年は立ち上がり私の腕を掴んだ。

「何?」
「俺、もうすぐバイトあがりだし、よかったらお詫びに食事奢るよ。名前も聞いてないしさ。」

私は暫く考える。
が、結局一期一会とも言うしと数秒後にはその提案に乗る事に。
そして、食事をしにいった私たちは色々な事を話した。
青年の名前は寺島伸夫。
ノブと呼んで欲しいと言われたのでそう呼ぶ事にした。
東京に上京してきて、今はプロのミュージシャンを目指しているらしい。
道理でパンク系の格好をしてCDショップでバイトをしていた訳だ。
でも、ああ見えて旅館の跡取り息子だったとは驚きだ。
絶対にイメージわかないし。
バンドを組んでいるらしく、そのバンド名は『ブラスト』といらしい。
あれ?
それが通称だったんだけ?
まあ、その辺はどうでもいいんだけどそんな他愛のない話をしながら私たちは食事をした。

って何歳なの?」
「私?十七歳。」
「嘘!?俺より年下じゃん!っていうか高校は?」
「行ってないよ。めんどいし。」
「って事は今、働いてんの?」

凄まじいスピードで質問をしてくるノブを見て、また私は笑いそうになった。

「あのさ・・・本当にノブって犬みたい・・・」
「犬じゃないって!!」
「悪い。でも、ホントそう見えるからさ!あーノブって面白いな!」

そういって私が満面の笑みを見せると少しノブの顔が赤くなった気がした。

「どうかした?」
「い、いや!何も!そ、それよりもう行こうか!こんな時間だしさ!」
「あ、本当だ。」

私たちは、そのあと携帯番号とメアドを交換して別れた。
なんだか新しい出会いもあって新生活最初の日はとても楽しく幕を閉じた。