仕事が一段落して私は思わずんーっと伸びをする。
静かに台所へ行って、ミネラルウォーターで喉を潤す。
そのついでに留守電のチェックをする。

ピー・・・

そんな音と一緒に毎度お馴染みの言葉が流れる。
そして、留守電には一件のメッセージ。

『先生!!もうすぐ〆切なんですから気合いれて書いてくださいよ!!』

ああ、やっぱり担当さんかと思い聞き流す。
そして、ふとある事を思い出した。

「そういえば、私まだ隣に挨拶に行ってないな・・・・」

かなり気付くのが遅いが私はとりあえず挨拶しにいこうと思った。






Act2:The first word sent to you.







サンダルを履いた私は玄関を開け、すぐ隣の部屋の扉の前に立った。
そして、備え付けの呼び鈴を押す。
するとすぐさま明るい少女のような声が響いた。

「はいはーい。」

ガチャリという音を立てて開けられた扉の向こうに居たのは愛らしい女性だった。

「こんにちわ。初めまして。隣に引っ越してきたっていいます。
大分挨拶が遅れで申し訳ないですがどうぞこれからよろしくお願いします。」

そう告げてお辞儀をすると目の前の女性は嬉々とした表情で私に近寄った。
なんだか、最近どうも犬属性の人と出会う。

「うわぁ!すっごく綺麗!!あ、私、奈々!小松奈々!よろしくねっ!」
「奈々さんっていうの?」
「うん!あ、今はいないんだけど同居人の子もナナっていうの!フルネームは大崎ナナ。」
「もう一人もナナさん?」
「あ、だから私は最近ハチってよく言われてるの〜」

その名前に思わず私はぷっと笑いを漏らした。
子犬みたいな子だなと思っていたけれどまさかそんな忠犬ハチ公みたいな渾名で呼ばれてるなんて。

「なんかそれ犬みたいだねっ!!」
「あーーー!もう、笑わないでよね!!ねえ!ちゃん!折角だしお茶しない?」

拗ねるような素振りを見せたかと思えば急に笑顔を浮べてお茶に誘ってきた。
表情豊かな可愛い人だなぁと思いつつ、私は尋ね返す。

「いいの?」
「もちろん!さあ、入って入って!!」

そう言って私は勧められるまま部屋へと歩みを進めた。
よく考えてみれば互いに無用心だと思う。
だけど、それがハチのいい所だったのだろう。
誰とも仲良くなれるその雰囲気はとておも心地よかった。
色々な話を聞いた。
殆ど恋愛の話が多かったけど。
彼女の世界はどうやら恋愛を中心に回っているらしい。
そんな会話を数時間続けているとただいまーっと誰かが帰宅を告げる声が聞こえた。

「あ!ナナだぁ〜お帰り!」

どうやらもう一人の同居人らしい。
私は立ち上がり、もう一人の同居人に駆け寄ったハチの後ろへと続いた。

「ハチ公・・・・コレ誰?」

いきなり見知らぬ人物が居れば当然の問いに私はお辞儀をしながら答える。

「はじめまして。隣に住んでるって言います。よろしく。」
「そうなの!ちゃんって十七歳で小説家なんだって!すごいよね!!」

ふーんと聞きながらナナと呼ばれた人は私を物色するような目で見回した。

「ちなみにペンネームは?」
「久遠奏って言います。」

素直に答えれば彼女は目を見開いて渡しに詰め寄った。
思わず後退りそうになる勢いで。

「久遠奏!?私、めちゃくちゃファンなんだけど。」
「え!?そうなの!!ナナ!」
「マジで。」
「私の方こそびっくりだよ。こんな美人な人が読者なんて。」

そういうとちょっと照れたようにナナはタバコをふかした。

「まあ、だったけ?これからよろしく。」

そういって伸ばされた手を私は同じく手を伸ばした。

「うん。こちらこそよろしく。」

互いにそういってほほ笑むとハチが思い出したようにいった。

「あ!そうそう!ナナってブラストっていうバンドのボーカルしてるんだよ!!」
「え?ええ!?ブラスト!?」

聞き覚えのあるバンド名に私は声を上げる。

「あんた知ってるの?」
「いや、この間友達になった子がブラストのメンバーだった気が・・・」
「え!?嘘!?」
「誰だ!?」
「え?ノ、ノブだけど・・・?」

その言葉に二人は顔を見合わせながら驚いている。
それから私はノブと知り合った経緯を話した。

「ノブと知り合いだったとはねぇ・・・なら折角だし今日の麻雀大会、も参加したら?」
「それいい!!」
「麻雀?私あんまりできないよ?」
「いいっていいって!そんな事気にすんなよ。」
「そうそう!ご飯一緒に食べてても楽しいし。」
「じゃあ、お邪魔しようかな。」
「よし!決まりだな!あいつらこんな美人が居たら驚くぞ。」



この時がなかったらきっと私たちは出会ってなかったね。
運命の出会いまであと三時間。