昔の夢を見た。
まだ、実家の屋敷に住んでいた頃の話。
父と母は私の容姿を忌み嫌っていた。
生まれたくてこの姿に生まれたわけでないのに。
誰に似たのか判らない蒼い瞳と黒い髪。
この姿に生まれただけで両親は私を捨てたも同然だった。
世間体だけを取り繕うように生活できる金銭だけを与えて。






Act10:Past tragedy and nightmare.







私には弟が居た。
一歳違いの弟。
弟は私を慕い、私にいつもくっついて来て。

「姉さんは俺が守る!」

なんて豪語したりしてとても愛らしい存在だった。
私の中でたった一人愛する家族だった。
誰よりも大切な家族だった。
そんな生活の中、私は中学に入学すると同時にその家を出た。
イギリスへと留学する事が決定したからだ。
私はこの時をどれほど喜んだだろう。
弟も私の留学決定に「よかったね!姉さん!」と一緒に喜んでくれた。
その後の事など知りもせずに。
日本に戻ったら真っ先に弟に沢山のお土産を持って会いに行って色々な話をしようなんて考えていた。
でも、それは叶わなかった。
私が居なくなってから弟は父と母の異常とまで言える期待を掛けられていたと聞いた。
本当なら長子が家督を継ぐ。
けれど、父と母は私に譲るのだけは拒んでいた。
そこで期待が弟にいったのだ。
当主として相応しい人間にして自分の後を継がせようと。
その期待の中、弟はどんどん病んでいった。
弟は普通の子で。勉強も運動も人よりはできるが天才というほどではなかった。
父と母の希望は神童のような我が子だった。
その現実と理想とのギャップに阻まれた弟は病んでいったのだ。
弟は心優しく、期待に答えようと努力をするも幾ら努力しようとも両親の期待に添える事はなかった。
そして、自らを追い込み最終的に自分の命を絶った。
私がもし日本に居て弟の傍に居たならば救えたのかもしれない。
大切なたった一人の家族を。
私は弟が天井に繋がった姿を見つめながら後悔し叫びを上げた。
弟と笑い再会する夢が壊れゆく音を聞きながら泣き叫んだ。




っっ!!」
「・・・・っっ!」

パシッと渇いた音が響いた。
それと同時に瞳を開けた私。
目の前には心配そう表情を浮かべたシンちゃんの姿だった。
私はようやくそこで理解した。
シンちゃんに気づかれるほど魘されていたのだと。

「大丈夫?・・・」
「・・・大丈夫・・・ごめんね?驚いたでしょ?」

年に何回かこんなふうに魘される。
幸せな日常そこからあの弟の惨劇までを通してみる夢。
その度に汗だくになり喉は嗄れていて涙が流れる。
今回はまだ早く目覚めたのだろう。
シンちゃんが起こしてくれたから。
体は少し汗ばむ程度、涙はそこまで流れていない。
しばらく何も言えずに呆然としているとシンちゃんが立ち上がった。

「僕、水持ってくるね?」
「あ、うん。ありがとう。」

シンちゃんはそう言って優しく微笑むと私の部屋を後にした。
私は窓を少し開けて夜風に当たる。
先ほどの光景を消すかのように。
昼間の暖かな陽気とは裏腹な肌寒い夜の風。
それぐらいが今は丁度良かった。
しばらくするとシンちゃんが戻ってきたので窓を閉めるとベッドサイドに座り持ってきてもらった水を少し喉に流す。
ひんやりとした水が喉を通る感触がリアルに感じた。
それからシンちゃんは何も言わずに私の隣に座った。

「・・・・ねぇ。・・・『あきと』って誰・・・?」
「え・・・?」

いきなり告げられた人の名に私は驚き目を見開いた。
それは私の弟の名前だったからだ。
冷静になって考えてみれば先ほど魘されていた時にでも言ったのだろうと思った。
そして、私はぽつりと話始めた。

「暁人は・・・私の弟の名前。」
「弟・・・?」
「うん、そう。弟。大切だった。私のたった一人の弟の名前。」
「だった・・・って・・・・」

私の言葉に引っかかりを覚えたシンちゃんのその言葉に私はゆっくりと過去を話した。
それを何も言わずにシンちゃんは聞いていた。
真剣に。
そして、話終えると同時に私はシンちゃんにギュッと抱きしめられた。

「シンちゃん・・・?」
「辛かったよね・・・でも、のせいじゃない・・・
がそこまで苦しむのは間違いだよ・・・は幸せにならなきゃ誰よりも。」

その言葉が私の胸にじんわりと染み渡った。
そして、涙が零れた。
悲しいわけでもないのに辛いわけでもないのに。
これが嬉しくて幸せで流れている涙なんて知りもせずに私は泣いた。
何をいうわけでもなく。
ただ、静かにそれを受け止めるかのように
抱きしめつづけてくれるシンちゃんの腕の中で。
ただ、ひたすら涙を流した。
そして、そのまま私たちは眠りについた。
互いに抱き寄せ合い温もりを感じながら。