告げられる真実。
壊れ逝く心。
誰か、私を捨てないでいてくれますか?
誰か、私を愛してくれますか?
誰か、私を救ってくれますか?






Act11:The world dyed red.







あの過去の夢から目覚めてシンちゃんに涙を見せてから数日が経った。
特にあの日から互いの態度が変わる訳でもなく穏やかな日々を過ごしている。
だけど、どこか私とシンちゃんの絆は深まった気がする。
ただ、そういう気が。
それが勝手な思い込みだとしても構わない。
ただ、彼の無償の愛は何よりも嬉しいものだった。
愛など感じた事のない日々を過ごしてきた私にとって。
何よりも嬉しい事だったのだ。

「(あー・・・なんか無意識ににやけてしまってる。いかんいかん。)」

緩んだ頬を叩きながら冷蔵庫を覗く。
今日はシンちゃんはどこかに出かけており留守だった。
その為、今の奇怪な行動は幸い誰にも見られていない。
私は冷蔵庫の中を覗き要るものをメモすると鞄を持って部屋を後にした。

「(結構買出ししなきゃいけないなぁ・・・)」

雑踏の中、メモを見つめながらそう考え込む。
その時、携帯が軽快な音を奏でた。
私は慌てて鞄から携帯を取り出すと画面を見つめる。
そこに記された番号は私の見知らぬ番号。

「もしもし・・?」

とりあえず出てみた。
すると、携帯から響いてきた声は思いも寄らぬ人の声だった。

「久しぶりね・・・さん。」
「その・・・声・・・母様・・・」

予想もしなかった人物の声に私は驚き目を丸くした。
思わずその場に鞄を落としそうになったがすぐに我に返り阻止した。
そして、自らを落ち着けるように深呼吸をすると訪ねる。

「どうして、この番号を知ってるんですか?」
「それぐらい調べればどうにでもなるでしょうに。貴方が日本に戻って来ているという事は使用人に聞きましたからね。」

やはり伝わっていたのか帰国していた事はと思った。
しかし、伝わってしまっても関わりなど持ちたくもないだろうにどういう事だと真意を探る。

「で、何か用ですか?」
「ええ。少しお話がしたい事が。今から表参道まで出てこれるかしら?」
「・・・構いませんけど。」
「では、待ってるわ。」

そう告げられて電話は一方的に切られた。
私は響く電子音からゆっくり耳を離すと携帯をパタンと閉じる。
一体何の話があるというのか。
それは全く分からなかったけれどとりあえず待ち合わせの場所へと向かった。
駅を出て直ぐに電話が再び鳴った。

「もしもし。」
「早かったのね。」
「この近くに居るのなら電話などで話す必要はないのでは?」
「そうね。でも、私は貴方のような子と直接的に話を交える気はないの。」

はっきりとした拒絶。
やはりこの人は私を恨んでいるのかと妙なところで納得した。
そして、私は息を吐くとそのまま気だるそうに問いかけた。

「で、そんな私に貴方は一体何の用があるというのですか?」
「貴方に真実を教えてあげようと思って。愚かしくもの血を引いていると思っている貴方に。」

その言葉に私は目を見開いた。

「何を・・・言ってるんですか?」
「貴方は私たちの子供などではないと言ってあげたのよ。」

時が止まるような感覚に陥る。
一体どういう事なのだろうか?
この人たちの子ではないと?
ならば私の親は誰なのだ?

「私たちの子は暁人一人。貴方は私の姉の子供。
優れた姉のね・・・私の姉は早くにその生涯を閉じたわ。貴方を生んで。」
「何を言ってる・・・・?」
「貴方のせいで姉は死に。貴方のせいで貴方の本当の父も死に。
貴方のせいで私達の子、暁人まで死んだ。貴方はまるで死神ね。」
「だから何を・・・!?」

声を荒げて聞こうとした途端背中に衝撃が走る。
ドっと何かを突き立てられて貫通したような音が。
それと同時に込み上げてくる熱い液体。

「カ・・・ハッ・・・」
「全ての真実はこの紙に書いてあるわ。まあ、生きていれば知る事ができるでしょう。」

人ごみの中、騒然となるその場。
聞こえる女の声。
霞ゆく視界。
崩れていく肢体。
嗚呼、私が一体何をしたというのか?
疑問は浮かんでくるがそれを問いかける力もなく。
意識を失いかける。
いつの間にか血だまりの中。
私だけが横たわり、母の姿はなかった。
そして、周りには人垣。
それを割るように入ってきて声を掛けてきた人物。

!?」
「しっかりしろ!!」

聞こえてきた二人の男の声に薄らと瞳を開ける。
そこには見慣れた二人の姿。

「レン・・・タクミ・・・?」
「救急車なんて待ってられる状況じゃねぇな。レン。手伝え!俺の車に運ぶぞ!この近くの病院にすぐ運ぶ!」
「ああ。それと警察にも連絡した方が・・・・」

その言葉にようやく意識が再び戻ってきた私は声をからしつつも告げた。

「連絡しないで・・・おおやけに、したくないから・・・・」
「だけど・・・・」
「大丈夫・・・傷、案外浅いし・・・血、流し過ぎてぼんやりしてるだけだから・・・・」
「あーもう!とりあえずレン。を連れて乗れ!
俺らまで騒ぎになっちまったらマズイ。、とりあえずもしばらく辛抱しろよ?」
「だい、じょうぶ・・・・」

その掛けられた言葉を境に私の記憶は飛んだ。