一命を取り留めたの伏せられた瞳。
それがどうにも不安を煽る。
もう二度と開かないんじゃないだろうかと。
怖くて怖くてその場から一歩も動けなくなる。
どうか、神様が居るならこれ以上彼女を傷つけないで。
この世から連れて行かないで。






Act15.Thing that I wish to sleeping beauty.







あの事件から数日。
彼女は未だに目覚めずに白い白いその部屋でその白以上白い肌を晒し、眠り続けている。
身体には別状はないのに彼女は目覚めない。
それは彼女の心が目覚める事を拒んでいるかの様に。

。今日も来たよ。今日は蒼い花にしたんだ。の瞳と同じ蒼。」

両手一杯の蒼い花。
デルフィニュームの花束をそっと傍の棚に置く。
そして、椅子に座っての顔を覗き、そっと顔に掛かった髪を避けてやる。

「少し、白くなり過ぎだよ。外はこんなに晴れてるのに。」

二人の空間なのに響く声は僕の声だけで。
それがより一層心を苦しめる。
彼女に何があったのか判らない。
彼女が死を思う程の何かがあった事は確かだけれど。
それ以外は何も判らない。
拳を作りきつくきつく握り締める。

「ねえ、。何が、あったの?僕はいつまでこうやって目覚めるのを待てばいい?」

答えは返って来る筈もない。
だけど、問いかけずにはいられなかった。
苦しくて、辛くて、悲しくて。

。今度は僕が必ず守るから。だから、目を覚ましてよ。お願いだから。」

数日前まで当たり前のようにあった笑顔を。
優しい声で僕の名前を呼んで。
温かな白いその手で温もりを感じて。
ただ、幸せを噛み締めたいだけ。
それだけの事なんだ。
だけど、たったそれだけの事はが目覚めなければ叶わない。
だから、どうかお願い。
僕の当たり前の幸せを取り戻すためにも。

・・・お願いだから、目を開けて・・・」

彼女の頬を撫でて流れる涙をそのままに。

を傷つける全てから守るから。」

乞う様に懇願する。

の笑顔を消さない様に守るから。」

絶対に傷つけさせないから。
そう、瞳を閉じて彼女の手を握る。
だけど、決して握り返してくれる事はなく。
力のないその手をそっと瞳を開いて綺麗にベッドの上に置き直すと立ち上がって瞳を擦る。

「ごめん。今日は、帰るね?また、来るよ。」

涙を拭いて君に一人、笑顔を見せる日々を君の瞳で終わらせて。
どうか、どうか。
それだけが僕の切実な願いだから。
そう思って部屋を後にした。
静かになった室内ではただ少女の浅い呼吸だけが響いていた。
静か過ぎる程の小さな音で。