友人とか恋人とか家族とか。
自分ではない人。
それは、結局他人でしかないのかもしれない。
私はそういう風にしか考えられない人間に成長しちゃってたから。
あの頃はただそう思っていた。
私が私という人物であり続ける為に。
それがどんなに悲しい事なのか。
その頃には判りもしなかったんだ。






Act8:Face of you who saw in morning.







「あのまま寝ちゃったか・・・」

昨日の夜のまま寝てしまった私は硬くなった体をゆっくりと起した。
もう薄っすらと太陽の光が差し込めている。
その光がとても綺麗で私のこの醜い想いを浄化してくれるような感覚に陥った。

「とりあえずお風呂入ろうかな・・・」

ゆったりとした足取りで浴室に向かい、お湯を注ぐ。
バスタブに満たされていくお湯を見つめながら入浴剤を少し注いだ。
すると浴室には薔薇の匂いがふわりと立ち込める。
読者からの贈り物であるその入浴剤に感謝をしながらお湯を入れ続けた。
それからしばらくしてお風呂が焚き終わり私は湯船へと疲れ切った身体を沈めた。
そして、ぼんやりと思考に耽る。

「(皆色々抱えてる・・・)」

それは過去だったり、悩みだったり、トラウマやコンプレックスだったり。
その形は様々だけど皆何かを抱え生きている。
今まで見ようとしてなかった私に見えてきたもの。
それは色々な真実なのかもしれない。
逃げ続けて逃げ続けて生きてきた私。
他人との関わりを断ち、狭いこの空間でだけ生きていこうとした私。
そんな私に今こそ立ち上がり動けと諭す様に私はこの地へ来て皆と出逢ったのかもしれない。
ただ、頭の片隅でそんな考えに至った。
単なる思い込みかもしれないけれど、私は、少しでも前に進まなきゃいけないのだろう。
弟の影に縛られ・・・否、弟のせいにして逃げてきた私の変革。
きっとそれを越えなければいけない。
瞳を閉じて息を吐く。

「さてっとそろそろ上がろう。」

取りとめの無い思考を止め、私は髪と体を洗うと浴室を後にした。
新しい服に袖を通して、ふわりと香る洗剤の匂いに体を埋める。
そして、お気に入りのミネラルウォーターを口に含むとソファに座りこんだ。
しかし、その時だった。
ふと、玄関の外で何か音が響いたのだった。
カタンという何かが当たるような音。
何故かその音が気になった私は玄関へ向かった。
ドアノブに手を掛けてゆっくりと扉を開く。
が、扉はすぐ何かに引っかかり先へと進まない。
私は、開いた微かな扉の隙間から外を見た。

「?なにか引っかか・・・って、シンちゃん!?」

引っかかっているものの正体を見て私は声を上げた。
そこには廊下の壁にもたれ掛かるように座って寝ているシンちゃんの姿。
私は急いで起こす事にした。

「シンちゃん!シンちゃん!」

何度か揺さぶるとシンちゃんは呻き声を上げた後、目を開いた。
何度か瞬きを繰り返し、こっちを見るとようやく覚醒したのか瞳を見開いた。

!うわっ、ごめんっ!邪魔だったよね?」
「ううん。物音がして見に行ったらシンちゃんが居たから・・・取り敢えず上がって?今、紅茶でも入れるから。」

私がそういうとシンちゃんは玄関にゆっくりと足を進めてきた。
だが、すぐそこで止まってしまって奥まで入って来ない。

「シンちゃん?」

私が再び近づきそう尋ねるとシンちゃんの腕が私に伸びてきた。
すると、あっという間に私はシンちゃんに抱きしめられていた。

「・・・昨日は、ごめん。」
「え・・・?」
「酷い事ばっかり言って。ごめん。」

シンちゃんの表情は伺えないがすごく感情の篭ったその言葉に嘘や偽りは感じなかった。
そして、何よりその為にあそこで待っていてくれたのかと思うと私は嬉しさの余り笑いが浮かんでしまう。

「ううん。私こそ、知りもしないであんな事言ってごめん。
でも、私はシンちゃんに傷ついて欲しくないからああいう事言ったんだ。
それだけは判ってほしい。凄く迷惑なおせっかいと思われても構わないから。」

ただ、素直な気持ちを言う。
でも、私は卑怯。
弟と重ねてとは言わずにいる。
保身的な自身にまた嫌気が差す。
それでも、シンちゃんはただ純粋に私の言葉を信じて笑顔を浮べる。

「ううん。今まで、そんな風にお説教するような人いなかったし。
僕の為に怒ってくれているんだと思ったら嬉しかった。
でも、咄嗟にあんなふうに怒っちゃってを傷つけちゃっただろうと思って。
だから、深夜になってここに来たんだけど夜遅かったし、朝になるまで待とうと思って。」
「という事はずっと夜あそこにいたの!?」
「うん。まあ、ね。」

私は思わず驚いてそう声を上げるとシンちゃんは苦笑めいた笑いを浮かべた。

「全然起こしてくれてもよかったのに。今度からは深夜でも用があるならインターホンなり何なりで起こしてね?」
「でも、迷惑じゃない?」

首を傾げて問うてくるシンちゃんに私は「そんな事ないわ。」と言って首を振った。

「そっか。じゃあ、今度からはそうする。」
「うん。さて、とりあえず入って?折角だし朝食も用意するから。」

ようやく蟠りも解けて私とシンちゃんは心から笑った。
昨日以前よりも仲良くなったような気がする。
それは気のせいだったのかもしれないけれど。

「いいの?うわぁーい!はやっぱり優しいね。」

にっこり笑ってそう言うシンちゃんに私は微笑んだ。

「そんな事ないよ。とりあえずソファにでも座ってて。」
「うん。・・・ねぇ?。」
「うん?何?」

私は冷蔵庫を開けながらシンちゃんの声に応えた。
何か朝食のリクエストでもあるのかと思っていた私に投げかけられた言葉は予想だにしなかった言葉だった。

「しばらくの家に泊めて?」
「・・・・・はい?」

唐突な申し出に私は驚き目を見開いた。

「だめかな?」

首を傾げて寂しげに告げるその言葉に私は慌てて否定する。

「いや、駄目じゃないよ?私はいいけど、ノブと喧嘩でもしたの?急に泊めてだなんて・・・」

私がそう言うとシンちゃんは笑ってそんな事はないっと首を振った。

と一緒にいるとなんだかとても安心するんだ。
落ち着くっていうか・・・だから、ちょっとだけ!邪魔になったら出て行くし。」
「邪魔になんてならないよ!むしろ一人暮らしだから誰か居るほうが楽しいし。
あ、でも、洋服とかは取りに帰りなよ?さすがに私はも持って無いから。」

そう笑うとシンちゃんはすっごく嬉しそうに笑って「うん!」と頷いた。
考えてみれば男の子を部屋に泊めるなんて私は大事だと考えて居なかった。
無頓着過ぎるのも問題だと言われるかもしれないけど、この頃はまだシンちゃんを弟の様に見ていたから。
恋愛なんてこの頃するなんて事も思ってなかったから。
変わりきれない自分で居た私には。
だけど、そんなこんなでシンちゃんとの共同生活が始まったのだった。