今日の出来事がまだ夢の様な気がして寝付けずに居た。
幸せで満ちた心は優しく仄温かく。
思わず笑みを浮かべてしまう。
落ち着かぬ心に苦笑を浮かべながら幸せの熱を少し冷まそうと部屋を後にしようと戸に手を掛けた。






を繋ぐは骨の楔

第十三夜 離れる事すら惜しい程に







「うおっ!?」
「え!?・・・ゆ、幸村殿??」

戸を開けてみれば何故か眼前に立ち尽くす幸村殿の姿。
唐突な事ながらも見慣れたその姿にすぐさま落ち着きを取り戻し首を傾げる。
幸村殿は形容しがたい表情を浮かべて紅くなったり、蒼くなったりしている。

「幸村殿、私に何か用でしたか?」

取り敢えずそう問い掛けてみると返答を濁す様に言葉に為らぬ声を上げる。
だが、暫くして何かを考えた結果。
頬を朱に染めつつも私にこう申し出た。

「その、部屋に入っても構わぬだろうか?」
「・・・?はい、別に構いませんが?」

ここで出来ぬ話なのだろうかと思いつつ、部屋へと促し戸を閉めて互いに腰を降ろす。
そして、互いに何故か正座で向き直る。
よく判らぬ雰囲気のまま一先ず幸村殿が話し出すのを待つ事にした。
だが、幸村殿は俯いたまま顔も上げず全く話し出す気配がない。
このままでは埒が明かないと判断した私はこほんと一息ついて静かに口を開いた。

「私に何か用があったのでは?」
「いや、そのだな・・・眠れぬのだ」

一瞬、言葉を濁した後。
か細い声でそう告げた幸村殿を見て私は思わず目を丸くして口を開き固まる。
眠れぬとは一体如何したのだろうかと思っていると
何かが切れた様に衝動に任せたかの如く勢い良く顔を上げた幸村殿が迫ってきた。
まず私の両腕を掴むとずいっと顔を寄せて真っ赤な顔で早口に捲くし立てた。

「この所、ずっと殿と寝ていたせいか横に温もりがないと何やら落ち着かず、目が冴え全く眠れぬのだ!」
「へ?」
「その、男としてそれもいい歳だと言うのにそれもどうかと一人で眠ろうと努めたのだが
無理で致し方がなく殿の所に来たのはいいものの。何やら戸の前に来てそれを殿に知られるのも恥ずかしくなり・・・」

恥ずかしさやら情けないやらでぐちゃぐちゃに混乱している幸村殿を見て茫然としていたが。
このままではこの声で皆が起きてしまうと思った私は取り敢えず手っ取り早く幸村殿の口を手で押さえた。
何やらもがっと息苦しそう声が聞えたが数秒程そうするとちょっと落ち着きを取り戻したらしい幸村殿を見て手を離す。

「落ち着かれましたか?」

私の問いに幸村殿は大きな呼吸をして申し訳なさそうに頷いた。
それに微笑むと幸村殿の手を取る。

「大体の事情は理解できました。なれば共に寝ましょうか」

返答を聞く前に私は幸村殿の手を引きそのまま横にあった布団へと寝そべる。
急に体勢が変わった事で驚いている幸村殿に掛け布団を掛けてそっと寄り添う。

「お休みなさいませ。幸村殿」

そこまですれば幸村殿は理解した様に顔を紅くしたが直ぐにどこか安堵した様な表情を浮かべて瞳を閉じられた。
そっと、私を抱くように腕を回して。
数秒すれば静かな寝息が聞えてきた。
まるで幼子のようなその姿にクスクスと笑みを浮かべながら私も甘えるように擦り寄り瞳を閉じた。
優しい夜が静かに更けていく。
温かな幸せを手にしながら。