いつの日からだろうか。
自分を監視する様な視線を感じ出したのは。
これが一体どこの手の者なのかは明確であったが直ぐに引くであろうと思っていた。
しかし、その考えが甘かったらしい。
私は立ち上がると刀を片手に城を出た。
龍を繋ぐは朱骨の楔
第十七夜 暗躍せし女人
森に入ればを取り囲む人数は増えた。
風のそよぐ音と共にじりじりと迫り来る闇には口を開いた。
「いい加減に出て来るがいい。それで姿を消しているつもりで居るなら間者として未熟過ぎはしまいか?」
嘲笑して挑発すればいとも簡単にその姿は露となった。
だが、それと同時に振り下ろされる刃。
はすぐさま抜刀するとそのまま一人を引き裂く。
首を落とされた身体はそのまま地に伏せ、沈黙する。
残った者達は少し間合いを取り、警戒を示した。
女だと聞いていて侮っていたという所であろう。
次からは死に物狂いで襲ってくると身構えたその瞬間、を取り囲む忍達の額にくないが突き刺さった。
目を見開いて一体誰がと背後を見ると空から軽い身のこなしで一人の男が降りて来た。
その男は警戒する必要などない程の顔見知りの忍では溜息を吐いて刀を鞘に納めた。
「貴様、戻ってきてたならさっさと処分しろ。馬鹿佐助」
「折角、助けてあげたのにもうちょっと可愛く御礼言ったらどうなの?」
「お前に愛想振りまいてどうする?想像しただけで薄ら寒い」
冗談めかしながらそう告げる佐助にげんなりしながら
が城へ戻り始めると佐助は手早くくないを回収してその後を追いかけてきた。
「まあ、確かに。姫さんが俺に愛想が良い日はまずこの世の終わりだと思うね」
「ふん。で、今回は何処に行って居たんだ?」
「ん?姫さんがよく知ってる人の所」
「・・・私が?」
含みのある物言いに立ち止まり、怪訝そうに顔を歪めながら佐助に向き直る。
すると、佐助も足を止めてやや何かを考える素振りを見せると改めて口を開いた。
「・・・丁度良いか。話すけど義姫の近辺をちょっとね」
「あの人か・・・」
佐助が言うのを躊躇うのにも納得出来る一言には顔を曇らせる。
あまり聞いて気持ちの良い人の名ではない為、仕方ない。
「本当なら先に姫さんに話すのはおかしいんだけど、耳には居れておくべきだと思ってね。
たぶん、もう直ぐ義姫は何らかの動きを見せる。まだ詳しくは判んないけど銃などを買い占めているらしいからね」
動き、銃・・・その単語を聞くだけで何が起こるか位理解出来る。
「戦、か。しかし、あの人が動かせる兵など兄上様が伊達家当主である以上無理であろう?」
「だから、どこかと手を結んだんでしょ?今の所、有力なのは松永か豊臣だけど他の勢力である可能性もある」
最近、暗躍している二つの勢力の名に納得しつつも、難しい表情を浮かべる。
勢力の大小は兎も角、どちらの勢力とも卑怯なやり口で手回しが非常に良いと聞いている。
その勢力と義姫が手を組んだとなれば如何なる策を仕掛けてくるやら想像が出来ぬ。
女ながらの女傑にして策士である義姫に苦しまされてきた被害者であるはそれが如何なる恐怖か身に染みていた。
「戦は伊達に仕掛けられる可能性が高いのか?」
「たぶん、ね」
「・・・そうか。それだけ判れば十分。今から御館様に御目通りしてくる」
一人納得してそう言うとは足早にまた城へと足を進めだした。
だが、それを慌てて佐助が止める。
「ちょ、ちょっと!?一体何しに行く気!?」
「決まっているだろう。御館様に願い出るのだ。暫し伊達へ行く事を」
当然だと言わんばかりの勢いでそう告げれば佐助を振りきり、再び歩みを進める。
佐助は何も言わず追っても来なかったが微かに溜息を吐いたのが判った。
「真田の旦那に報告しなきゃいけないか・・・」
それだけを呟き、佐助はその場から姿を消した。
back | top | next